第99話世界樹の天使1

「ガィィァァァ!!」


紫雷と名付けられたそのモンスターは盲目でありながら、音や匂いでは無く気配で狩りをする、獅子型のモンスターだ。


ぐるぐるとあたりを見回す素振りでゆっくりと獲物を探している


名の通り、体毛の周りには紫の雷を纏っている

体躯は4メトルはある巨躯でありながら、動きは素早く軽やかだ



何でこんな事になっているー!



そう身を潜め、気配を殺しながらアリアは思った


紫雷が気配で狩りをする以上、アリアは気配をとことんまで消す以外には助かる術はない


アリアには自信があった。

いかに、強力なモンスターであれど倒しきり、殺しきる確かな自信がアリアには。


だが紫雷と名付けられたそのモンスターにはまるで歯が立たなかった


ドドド・・・ガガガガガガガガガガガガァン!!


あたり一面を紫雷の放った雷がまるで明るい昼間の様に照らす


不思議な事に、見た目程の熱量はない。

あの落雷に撃たれても熱いどころか火傷一つ負わないのだ


だが、あの紫の雷には毒がある


巨大なドラゴンでさえ、倒してしまうほどの猛毒が


それさえなければどうとでもやりようもあろう


だけど術を持たないアリアにはどうする事も出来ない

隅に出来た影で縮こまっている事しか出来ないでいる


今更悔いても仕方がない。


あれはそう、ほんの僅か数時間前の出来事が発端だった









ガヤガヤと行き交う人々は様々な人種が入り乱れる


その手に持った荷物を大切そうに抱え、足早に帰宅する者や

これからダンジョンに向かう者、今帰ってきた者

それらは日々の生活の営みを感じさせる

陽が落ちて薄暗くなる前のほんのわずかな明るい時間


ウルグインにある、とある焼肉屋


ここ最近、チラホラと増えてきたモンスターの肉を出す店だろう


それは最近お偉い学者か研究者の発表かでモンスター肉の摂取が強い肉体を作ると言うことが分かってきた

そのせいもあってモンスター肉を仕入れて出す店が増えて来ている


ただ流行りはじめというものは皆手探りだ

だから


ソースの味だけは、いい店とか

肉の質はともかく量を出す店とか

せめて焼くか煮たものを出してくれと叫んでいた客がいるというのも聞いたことがある


まぁ様々だ


こう言う店の出店数が伸びれば当然供給側にある問題がついてくる

それは仕入れだ


強いモンスターの肉は当然高くなる

もちろん、ダンジョン深層でしか採取できないモンスター肉はもっとだ

自然と提供される値段にもそれが反映されてきて高価になっていくにつれて今度は、質の悪い店も増えてくる


そんな店を見抜くのも客の中では流行ってきているのだが


「ああ、これは良い肉だなぁ・・・今日もここはハズれがねぇや。付け出しのこの野菜もなんかの新芽か?うめぇな」


そう言ってエールを飲み干し、店員に対して賛辞を贈るのはこの店の常連冒険者だ


「旦那もよぅ、もう少し今風の店にすりゃぁ客足も伸びるんじゃねぇのか?まぁこの値段じゃ無理だろうがよ」


今風の店というのは、客席が200を超える様な大規模な店だ

昔から巨大な酒場というのはあったのだけれど、最近では飲食店もそれに倣って巨大化が進んでいる


「ああ、でもうちはほら仕入れが店主とお抱え冒険者だけですし」


「あーもったいねぇよなぁ。でも流行られてもちょっと来にくくなっちまうからおれっちはこのままが良いんだけどよ」


「うふふ」


そんな酔っ払いの相手も店員であるシアは楽しんでこなしていたのだが


「ねぇ、店員さんこの新芽は一体なんなの?」


それはうっすらと赤く短い髪をした女性だった

みるからに冒険者ではあるのだが、それにしては小綺麗にしているなとシアは思った


「えっと、確かそれは世界樹の新芽ですね!」


にっこりと微笑みながらシアはそう言うと、その女性冒険者は突然


「ああもう、やっぱりそうなの?そう言うのはもう沢山よ。なんなのよこの街は!特にこの店はふざけすぎよ!!よりにもよって世界樹の新芽ですって?そんなものを、無料でだすなんて有り得ないわ」


何がどう有り得ないのかシアが聞こうとしたら、矢継ぎ早に彼女はまくし立てる


「あのね、お嬢さん世界樹の新芽は四肢の欠損すら治すと言われる霊薬、神薬よ?かの有名な万能薬であるユニコーンや麒麟の角をはるかに凌ぐ幻の、伝説上のもの。そんなものがおひたしにされて酒のつまみだなんてバカじゃないの!!嘘だと言うなら証拠を見せなさいよ」


ああ、そう言う事か。

だから彼女は怒っているのか

そんな伝説上の値段すらつけられないものが無料で出される訳がないと


しかしシアは思う


だってー、うちの常識外の店主カンザキさまが大量に採って来てしまったから仕方がないじゃないと。


それにカンザキはここ最近増えてきた焼肉店に妙なライバル意識を燃やして、より変わった物を好んで仕入れる様になってきている。


以前はミノ肉が主流だったこの店の肉も、今では最低ランクですら亜種ドラゴン以上の肉に変わってしまっている。

今喚いている彼女が食べている肉ですらその肉なのだから。


「ふん、証拠もないようね。これからは嘘はつかない正直な商売をしなさいな」


その一言でシアはカチンときてしまった


「カンザキさま!」


シアは厨房に向かって叫ぶ様にカンザキを呼んだ


「はいよー!どうした?」


ふらふらと厨房からカンザキは出てきた


「このお客様が、世界樹の新芽が本物だと言う証拠が欲しいみたいです。今から一緒に連れて行って見せて上げてくれませんか?」


「はぁっ!?い、今から!?」


カンザキは今日の分の仕込みが終わってしばらくのんびりしようと決めた所だった


「ええ、今からです」


「しかもこの娘を連れてか!?おいおい、あそこはちょっとマズイぞ?」


「ええ、知ってます。私ですら危うい場所ですが、この方は自信がある様ですし大丈夫ですよ」


「しかしなあ・・・」


カンザキが渋っていると


「ほら見なさい、ありもしない世界樹なんてー」


そう言いかけた時、カンザキはため息をつきながら


「分かったよ、連れて行ってやるよ。だけど本当に危ないんだからな・・・アンタ、名前は?」


その女性は髪をふわりとかきあげて言った


「私の名前は、アリア。もちろんSSSクラス冒険者よ」






シアの見立ては正しかった

彼女には自信がある





彼女は、有理亜(アリア)は転生の神加護持ちだった


日本は東京都、世田谷で17歳まで育った

そして彼女の死因は、小さな男の子を助けての交通事故だった


死後、神様と呼ばれる存在に出会い、この世界に転生をする

良くあるチートで転生と言うやつだ


アリアはウルグインで生まれ育った


父母は貴族であったため、裕福な家庭で育つ

そんな彼女はウルグインで至って普通に20歳まで育った


彼女の日本の叡智はウルグインに少なからず影響を与えたが、本人が隠れる様に振舞った為に彼女は無名だった。

主には裁縫の才能があり、ファッションが好きな普通の女の子の第二の人生を送ったいたある日


突如冒険者となる


当然、父も母も反対をするが家出同然で冒険者ギルドの門を叩いた


彼女はほぼ見様見真似という感じの駆け出しからわずか数年でダンジョン100層踏破

さらには前人未到と言われている200層までを「単独」で踏破している


様々なモンスターを狩り、見たことのないような鉱石ですら発見をした


まさに「主人公」であるべき実力を備えた冒険者となっている


公式に発表されている冒険者ランキングでも現在はトップだ


緋色のその髪の色から彼女は赤の冒険者アリアと呼ばれてた







だからこそ、自信があったのだ

ダンジョンで其処までの深層に至った自分ですら見たことがない世界樹

さらには世界を少しだけど見て回ったがそんな樹は噂でしかなかった


それらを当たり前のようにあると、ほざくあの店が許せなかっただけだ


なのに


なのになのになのになのに!


カンザキに連れてこられた階層はおおよそ4500層ー

転送陣から一気に飛んで、その入り口に立った瞬間にアリアは走った


「桜瞬脚!」


本当にこの階層に世界樹があるのであれば・・・いや、あるはずなどない


カンザキをおいて走り出したのは、これが世界樹だと嘯かれない為だ


桜瞬脚はまるで桜が散るが如く、美しく移動する為に瞬脚という技を改良した移動手段だ

ピンク色・・アリアの髪の色に似た魔力光を目くらましにしてアリアはその階層入り口だった洞穴の奥へと一気に進んで行ったのだ


危険だとーそう言っているカンザキを置いて走っていった








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