第21話ダイダロス編3 捕らわれのミタニ

調査をすると決めたものの、一先ずはここの状態をある程度改善して行かねばなるまいとカンザキは行動を開始する


まずは先程の転送陣の所に行ってカンザキと共に送り込まれた荷物を開梱していく



衣類に食料、他の生活必需品も入っているのが確認できた。



樽に入っていた水に毒素を確認する

ここでは水は貴重だ、そんなものに毒を混ぜるなど鬼畜の所業である


しかし、食材、食べ物には毒はなかった


だが、水に入れておけば誰もが口にする


もしも、食欲が無いものが居たとしても、怪我人でも水は必ず飲むのだから



俺はポケットから水の魔石を取り出して樽の中に入れてやると水は自然と浄化されていくだろう


とりあえずこれで大丈夫と


そういえばここ水の魔石とかないんだろうなぁ


送られてきた物の中には包帯などはあるものの、薬や回復アイテムはなかった


これも狙ってのことだろうか?


手持ちの回復アイテムは足りないが大丈夫かなと、カンザキは魔法の袋の中を確認する


俺は兵士全員の容態を見る


使えそうな物はないかと魔法の袋を漁るとそこに良い物があった


先日の、鹿の角が一本まるまる残っていたので、もしかしてつかえるかなとすりおろしてから手持ちのポーションに混ぜて先程倒れてしまった兵士に飲ましてみる


「ほら、飲めるか?」


意識はないようだ。頭を持って口から流し込んでみる


ゴクリ……


兵士の体から湯気が立ち上り、少しづつ表情が優しくなっていく


おー。めっちゃこれ効くなあ……


適当に混ぜただけだが、効果は抜群のようだ。元の回復ポーション自体の効果も上がっているようだった


飲んだ兵士はすぐさま傷は治り、毒によるバッドステータスも改善した


目が覚めるまで寝転がっていてもらおう


とりあえず全員分を作り、自分で飲める者達には渡す


しかしこの鹿角ポーションの効果はヤバすぎないか?

体の欠損部位まで治してしまっている

生えてくるのを見ると結構怖い


鹿の角のおかげでとてつもなく効果あがったのだろうポーション

やばいほどの回復効果が出ているようだった


皆涙を流し回復を喜んでいる様に見える



隣の部屋から、どんどん歓声が沸き上がる


そして、怪我はないものの毒が回っている王妃と姫にも飲んでいただく


顔色が一気に良くなった、一安心である


最後にミタニさんだ


ベッドの布団をめくると……


ひどいな


顔色はもう紫色に変色して体はぶくぶくに膨れ上がっている


性別すらわからないほどに体に毒が現れている


「王もこんな症状だったのか?」


カンザキは王妃に問いかける


「はい」


涙ぐみ、そして顔を伏せる


思い出させてしまったか。ひどいことを聞いてしまったな…


ポーションを飲ませてみる

どのくらい効き目があるのか・・・


そう思っていたのだが


膨れ上がった体は元に戻り顔色も少しづつ良くなっていく

どうやらミタニさんは女性だったようだ


伸びきった髪の毛で顔は隠れているがそのボディラインが布団に現れる



このポーションすごすぎる効き目だな・・市場には流せないんじゃないのか?


だが、ギリギリだったのかミタニさんの意識は戻らない


しばらくはそっとしておこう



そして次は食事だ


俺は兵士たちが寝ていた部屋へ行き、既に不要となった簡易ベッドを片付けて、そこに魔法の袋から取り出したテーブルと椅子を置いていく


テーブルの上には店と同じ、焼肉用のコンロと鉄板を置いて



そして魔法の袋に入れてあった、いつもの肉を焼く用意をする


もちろんタレも持ってきているし、元々のここの台所でスープなども仕込む

卵はあるのだ


ここに居る全員、皆病み上がりだ、食材に毒はなかったのだが、どうやら食欲不振もあって食事はきちんと食べれていなかったようだ




そして兵士に食事をさせる。

回復したのなら次は体力つけさせないとな


スープはともかく、焼肉を知らない人々だ。本来なら店に来た時は初めに教えるのだが、ここはそうは言っていられない。

幸い野菜もあるので食べやすいよう野菜炒めを作ったりと色々している


ちなみに軽傷だった者には普通に焼肉として、自分で焼いて食べろと指示を出しておいた




そうしていると、小さな姫さんがやってきて


「ねえおじちゃまわたくしにもいただけますか?おいしそうなにおいがします」


と拙いしゃべり方でお願いされた


「ああ、いいぜ」


俺は小さく切った肉をタレにつけてさらに盛って渡してやると


「ありがとうおじちゃま!」


落とさないようにゆっくり、その小さな両手で受け取った姫は

王妃のもとに歩いていく


その向こうで王妃は俺に会釈をしているのが見えた


いい親子だ


それにしても毒入り食材を届けていたあたり、今の替え玉領主がやらせたのかはわからないが、この状況は伝わっているか、分かっていたようだな


通信はうまくいっていたが返事はしない

そして一気には殺さずに少しずつ毒殺か


ひどい事を、悲惨な思いをさせやがる


あのウルグインが平和すぎだったのか?


それともこのダイダロスが異常なのか?


まだ何か裏があるのだろうか?





そうして兵士全員と姫と王妃が食事を終える頃、カンザキも一息つく


鉄板の隅でガツガツ肉を食べている一人の女の子が目に付いた


こんな子いたっけ?


「おい、そんなガツガツ食べなくてもまだあるから」


俺は笑いながら声をかけると


「おいしいよ~おいしいよぉ~」


泣きながら食べる、黒髪ツインテールのメガネっ子


あれ?ひょっとして…


「ミタニさんか?」


「ぼぇええ。ごくん。なんでボクの名前知ってるの?」


あ、はいツインテメガネっ子でボクっ子ですねそういう需要はあるのでしょうか?


「あれ?おっちゃん、その顔…日本人?」


ま、この世界に黒髪黒目はあんまいないし顔立ちでわかるか



「そうだ。初めましてだな俺の名前はカンザキよろしくな」


肉を焼きながら言った


「そうか、ボクの名前はミタニ。今年で28歳だ!よろしくね!」


肉を食べながら言った


ちょ!まてぇ!


「はぁあああ!?28!?」


「おっと、この可愛い見た目に騙されちゃったかい?ごらんよこの大きなおっぱいを!」


そう言って胸を強調するミタニ


ああ・・確かにでかいですわ。たわわですわ。


でも見た目は完全にガキンチョかと思った。


一切の色気というか、セクシーさを感じませんわ


「てゆうか28なのに俺をおっさんと……」


「ボクまだ20代だからね。ギャルよギャル!」


何だかとてもノリのいい人みたいだとカンザキも笑う


「そう言えばミタニさんは、いつこっちの世界に来たんだ?」


「あーそうだねえ。多分だけど、もう5年以上くらいにはなるかなぁ……カンザキさんはいつ頃だい?」


もぐもぐしながら聞いてきた

食べながら話すとは忙しい人だ


「俺は……そうだな、もう10年以上だな」



「そうか、じゃあ先輩だな!よろしく頼むよカンザキ先輩」


けらけら笑いながら肉をつまむ


まだ食べるのか・・その栄養は全部胸に行くんだろうなぁ。


「でだ、何があったんだ?かなりの有様だったぞ」


俺は聞く

ミタニはこのダンジョンに詳しいはずだ


「調査をしていたのは今年に入ってからなんだけどね、おそらくこのダンジョンの下層に大きな空洞があってね。レアな魔石とかいくつか見つけていたんだ」


そこで水をごくごくと飲むミタニ


「でいろいろ掘り返していたら古代の魔導兵器発掘しちゃってね」


さっきまで死に掛けていたのになんでこんなに楽しそうに話せるんだ・・

メンタル強いなあこの人


ていうか古代魔導兵器ってなんだよ…


「壊れてたんだけど修理してみたら起動しちゃってさー」


しかも直してんじゃねえ!


「んで止めようとしたんだけどやられちゃってさー」


ほぼ自爆だった!マッチポンプで死にかけてんのかよ!


「そしたら転送陣つかえないわ、そのまま下層探索してるうちにぶったおれちゃうわで大変だったのさ」


ドヤ顔で言いやがった


「とりあえず帰るための転送陣は……その暴走ゴーレムさんのそばにあるよ。たぶん。壊れてなければ」


たぶんってなんだたぶんって

しかも壊れてる可能性もあるのか


「このダンジョンの、おそらく60層くらいのとこかな。んでゴーレムは暴走して止めらんないから最下層に叩き落としたんだよ」


ほぉ浅いな……


「そういえばウルグインのダンジョンは100層あるんだっけ。まぁここは浅いんだけどシェルターだったようだね。ゴーレムも元は防衛機構だったようだしね」


シェルターに防衛機構?何かと戦っていたのか?


「さあ、それは魔王だったのかもしれないし・・」


しれないし?


「神獣ベヒモスだったのかもしれないね」


ベヒモス・・

あいつが街に現れたらやっかいだな

街中ででかい魔法とか危ないしなぁ

本気で切るしかないかな


「まぁ魔王も神獣ベヒモスも居るかどうかわからない伝説だしね」


マユツバもんだよ!と言っているミタニ



ちょっとまて




「たぶん……魔王もベヒモスもいるぞ?」




「へ?」



ミタニの間抜けな声が響いた


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