第63話建国祭ー最終日 カンザキ

巨大都市ウルグインは今、建国祭の最後のイベントをしていた


コロシアムにおいて武大会の決勝が行われていた。

勝者には国王より賛辞としかるべき地位が与えられる

昨日まで姿を現さなかった王は、ついに本日姿を見せた

そして決勝の様子を見ているところである



「さぁ、決勝も盛り上がっております!司会進行はこの私、キューティライナと、昨年度王者のアリントさんがお送りしております!」


キィィィと響く大きな声は猫印の拡声器によるものだ。

コロシアムの各所につけられたスピーカーからライナとアリントの会話が聞こえる


「いやぁ、アリントさんは前回王者ですが、今年の様子は如何でしょうか?」


「今年ヤベェ!なんか前回よりヤベェっすよ。レベルがちげぇすぎるっす!」


「え?なんかキャラ軽くないですかアリントさん?」


「やっべぇっす!」


「おっとお!ザッツ選手ここで奥の手!お得意の火炎魔法を纏わせた魔法剣!これはあああああああ!決まったぁぁぁ!優勝はザッツ!ザッツ・ウルトラ選手だぁぁぁ!」


「やべぇーっす!」


「黙ってろアリントぉ!」


ゴスッ


「さて静かになったところで勝利者インタビューです!今回ほぼ無傷での勝利となりましたザッツさんです」


「はぁ、はあ、そんな、無傷だなんて・・・でも今回の大会は正直楽でした。優勝候補のカインさんもいませんでしたし、そうですね、優勝したとはいえ納得はできてません」


そう言ったところで、国王がザッツに歩み寄ってきた


「はっはっは。だが君はこの国で一番強いということが証明されたわけである。」


「こ、国王様!」


ザッツは膝をつく


「いや、良い。立ちたまえ」


「はっ!」


そう言ってザッツが立ち上がった時だった


会場となるコロシアムに一陣の風が吹く

それは魔力の風


そこに一人立つ金色の髪をたなびかせる女性


白い鎧を着込み

腰には剣を

そして、イヤリングや指輪をゴテゴテと付けている


それらが何を意味するか知る人は少ない


「ル、ルシータ・・・」


「ようクソ親父。終わらせに来たよ」


「な、何者!?」


ザッツはキャサリンの前に立つ。

凄まじい殺気を受けて今にも逃げ出したくなる気持ちを必死に押さえ込む


「ジャマだな」


キャサリンがそう言って右手を払うように動かす


ガァン!!


一瞬にして百メートルを軽く超す程にザッツは吹っ飛び、壁にめり込んだ


王がその腰に構えた剣を抜く


「何か用か?ルシータ」


「悪いけど、しかるべき地位を貰いに来た」


「ッツ!」


父親ではなく、国王として目の前に現れた明確な「敵」を迎えうつ


そして国王は呼び出す


「召しませ、風の王よ」


「召しませ、風の王よ」


「我が呼びかけに応え目の前の敵を打ち払えガルーダ!」


ぶわり


あたり一面の小石が舞い、竜巻が舞い始める

その中心には巨大な鳥の神ガルーダが顕現した


だがー


「孵れ、卵よ、来たれ黒き竜よ」


「来たれ、蒼き竜よ」


重なる声ー


「なっ!シアか!」


キャサリンの後ろから現れたもう一人の娘ー


「ルシータ、シア!貴様ら反乱を起こす気か!」


王は二人の呼び出す「神獣」を知らない。だからその召喚魔法に覚えが無い


「来な!バハムート!」


キャサリンが叫ぶ


「全てを超えて来たれ!リヴァイアサン!」


晴天だった空は漆黒の闇に染まり雷鳴が轟く

その空からは二柱の「星獣」が降りてくる


一つは巨大な黒き竜ー


一つは巨大な蒼き龍ー


ぶわりー


ぶわりと降りて来た二人の呼び出した召喚獣に対してー


「な、なんだアレは!くそっ!打ち払えガルーダ!」


そう、王は叫んだがガルーダは動かない


「ただデカイだけの召喚獣などー」

そう言いかけてガルーダを見ると、ガルーダはなんと頭を下げている


「無駄だよ親父、いや国王。バハムート以上の召喚獣などそうそうはいないさ。シアの呼び出したリヴァイアサン以上もー」


国王は知らない。だが、識っていたのは勝ち目がないと言う事だけだ

観念した王は問う


「な、何が望みだ!」


「言ったろ。しかるべき立場を貰うと」


キャサリンの目はー優しくにこりと父親であり国王に微笑んだ


その2人と2体の暴風は全てを黙らせたー









「さて、聞こえてるかな?私の名前はルシータ・ウル・グインだ。そこで縛られて唸っている「元」国王の娘だ。残念ながら先ほど勘当されたのでもはや娘ではないかもしれない。」


キャサリンは拡声器にて喋っている


結局完全に戦闘形態のキャサリンにワンパンで国王はのされてしまった。


もちろん兵士も出てきたが、バハムートとリヴァイアサンを見た瞬間に敗北を悟ったお陰で血は流れなかった


「今日はウルグインと言う国の最後の祭だ。そしてー「カンザキ」と言う名前の国として新たに生まれ変わる記念すべき日だ!」


「私の名はアレクシア・ウル・グイン。この革命は私達王族姉妹の望んだ結果です。国名がカンザキとなると共に、隣国ダイダロス、南の国ラスクロも賛同し、属国となります」


その瞬間、コロシアムの観客から歓声が巻き起こる


縛られ動けない王は衝撃を受ける


「なっ!それでは世界人口の4割が一つの国に居ることになってしまうぞ!いつの間にそんな・・」


青ざめる「元」王


「マジ聞いてねぇよ・・・」


はっとして見るとそこに居るのはカンザキだ


「貴様カンザキィ!・・・・ん?・・・なんでお前まで縛られているんだ?」


「逃走防止じゃねぇの?何度か逃げたがあっさりと捕まった。で、今はこの切れない鎖にて拘束されて連れてこられた」


二人の間を無言の静寂で包まれる


「そ・・そうか。大変だな?」


「そう思うなら娘をなんとかしろよ・・・俺は焼肉屋をやりたいだけなんだ・・・なんで俺が国王になんかならなきゃならないんだ・・」


そういうカンザキの顔は本当に嫌そうな顔をしている


「そして、私ルシータは王妃としてカンザキと婚姻を結ぶ!側室にはアレクシア、ラスクロのヴァネッサ王女、ダイダロスのユネーミア王女が確定している!その婚姻を持って、カンザキは3都市すべての王となる!」


キャサリンの演説を聞いてさらにカンザキの顔が青ざめる


「は・・ハーレムだな?良かったじゃないか・・お前、世界征服でもやる気か?・・」


「・・・俺の人生オワッタ・・・陰謀ヤバイ」


いつの間にかヴァネッサ、ダイダロスのユネーミア元王妃もキャサリンの後ろに立っている


「昨夜いきなり拉致られて、王宮に連れてこられたんだ。その時にこの事を聞かされて逃げたんだが無駄だった・・バハムートも共犯だとはな・・・」


契約を結んでいるカンザキの居場所はすべてむーたんに筒抜けになっていたのである


「わ、わしが言うのもなんだが・・ざまぁ・・・いや、娘をよろしく頼むぞ」


「おいやめろ、心の声がもれてんぞおっさん」


「なんにせよこれは世界が動くぞ・・その中心にはお前が要るんだ、あいつらの期待を裏切らないように頑張るんだな。わしは気楽なただの冒険者としてダンジョンにでも潜ることにする」


もはやウルグイン「元」国王は諦めている


「あっ!きたねぇ!」


そんな会話をしていると


「仲良くやっているようでなにより。カンザキとクソ親父。ただクソ親父、冒険者になんてなれるわけがないだろう?あんたにゃそのまま宰相として国王業務の殆どはやってもらう」


「なぬ!」


「シアとレオノールを売り飛ばそうとしたんだ。結果、この国をラスクロに売り渡しそうになってた。実権はやらないがその罪は償ってもらわないとね」



「おお!」


カンザキの顔がほんの少し明るくなる


「それにカンザキは子づくりで忙しいから。4人分だし」


一瞬でその明るくなった以上に顔色が悪くなる

マジでか・・・そうだ!


「まてキャサリン!俺はキャサリンとなら良いが、他の三人は遠慮したい!俺はキャサリンが好きなんだ!」


ついでに本音を告白をしてしまう

逃げられないなら数を減らすまでだ!

そう浅はかに思っていたのだが


「嬉しいわね、お店を始めた時にその言葉を聞けていたならそうなっていたかもね」


「じゃあ!」


「でももう手遅れ。あなたを逃げられないようにした結果こうなちゃった。だから諦めてね?」


にこりとカンザキに笑いかけるキャサリンの笑顔に


「うああああああああ」


カンザキは悟る

逃げられない運命なのだと・・・・


だがここで異変が起きるー

すんなりと事は運ばない


ギャリィン!


キャサリンとバハムートの張り巡らせていた結界が切り裂かれる!


「ちょおおおおっと!まぁったああああああああああああああああ!」


そう叫びながら一人の女性が舞い降りる


黒く長い髪、その手には日本刀を持っている

そして


「じゃ、ジャージ?」


なぜかその女性はジャージを着ている


スタッと軽快に舞台に降り立ち




「ミナリ見参!!!!!」




そう、彼女は叫んだのだった


彼女はこの陰謀を、カンザキを救うことができるのか?


そしてこれ何の茶番?

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