第62話番外 作法があると

焼肉ゴッドで久々の食事をとる


「いつものを」


これだけで店主には注文が伝わる

我ながら良く通ったものだ。最初は仕事のつもりではあったが、すっかりこの味にはまってしまっている


しばらくするとホルモン4人前と肉盛り合わせ5人前


それがテーブルに並べられる


そして焼いて食べるのだが・・


まずこれには作法があるのだ


一枚だけ、軽く焼く


これが私のルールだ


最初からたくさん並べて焼く奴もいるが、私は一枚だけだ


肉を焼くのは熱された、変わった形の鉄板だ


だがこの変わった形に意味があると分かるのは薄く切られた肉を焼き始めてからだ


ジュウ・・


この油が弾け焼ける音がたまらない


そして匂いだ


音を立てて焼けていく肉


そこから肉汁が垂れてくる


このあふれる肉汁が実は曲者だ

うまみがあると言う者もいるが、私はそのうまみよりも肉そのものに閉じ込められているうま味のほうが気に入っている


ほんの10秒くらいでひっくり返す


「よし」


おっと、思わず声が出てしまった


もう片方も焼き目をつけて、まだ赤身が残ったままの肉をこの店特性のタレにつけて食べる



うん、旨い


だが今日の肉は少し苦みがあるなだがそれも一興。良きアクセントになっている


やはりこのタレというものが素晴らしい


ほんの少し辛いが、それが苦みを打ち消しまた食欲を増進させる


そうして肉をゆっくりと、落ち着いた様相で食べていく


最後に頼む物も決まっている


たまごスープだ


これは店主になにか旨いものをとリクエストして新メニューとして出てきた物だ


ふんわりとした卵とこの塩味のスープがよく合う


これもゆっくりと飲んで味わうのだ


ふむ、食べ終わると甘いものが食べたくなってくるな・・・


そして食べ終わると飛び散る油を防いでくれていた胸のナプキンを取り出して口元を拭う


紳士の口元は綺麗であるべきだ


そしていつもと同じ金額をテーブルに置いて


「ごちそうさまでした」


そう言って店を出る


後ろから大きな声で


「まいどありー」


そう叫ぶ店主もいつものことだ。


また近いうちに寄るとしよう










「ねえカンザキさん」


「ん?なんだシア」


「クナト、本当に凄いわね・・あの量をぺろっと食べちゃう」


「ふふふ・・・甘いなシア、見ろよ奴の食べ終わった後を」


そこにはきれいに揃えられた皿


わざわざ油の散っていたテーブルを丁寧に拭いてある


「え!?うそ、いつの間に!?」


「いつもなんだ。奴の紳士であろうとするその気持ちと、うちの店は本来かけ離れたところにある。だが、奴はそれをうまく紳士の食事へと近づけているんだ」


「へぇ。なるほど、それで自身を納得させてるのね」


シアは関心する。

この店に来てからいろいろな人がいることが分かった

王女として暮らしていた時よりもはるかに楽しく、刺激的だ

その中で近しい人間の変わった姿を目にすることになるとは思わなかったわけだけれど


「まぁ、良いお得意さんだよ。それにそろそろ文句を言い出す頃合いでもあるな・・・」


「文句ですか?クナトがです?ちょっとクナトと話してきますね」


そう言ってエプロンを外すシア

ぞわっとする殺気をカンザキは感じ取る


「いや!まてまて、この場合の文句は良い文句なんだ」


「え?そうなんですか?」


鉄板を武器にしようとしないでほしい


「ああ、新メニューだよ。新しい料理を希望し始めるんだ。それで俺はお客様の声からメニューの充実を図れるんだよ」


「それは良いことなんですか?カンザキさまに新しい料理を注文するなんてクナトにしては贅沢すぎますね」


包丁はやめとけ。死ぬから


「正直助かってるんだ。俺一人だとなかなか苦労するから」


「そうだったんですね。じゃあこれからは私も協力させていただきます」


そういってカンザキの腕にその細腕を絡ませるやわらかい胸を押し付けるようにして


ドキリとする


「ちょ、ちょっとシアさん?」


「なんです?ご主人様?」


ご主人様!?!?!?!?


やばい、これは・・・なんだ・・・

ドキドキしすぎだろう俺!

おさまれ俺!いろいろとオサマレオレサマ!


その時だったー


「ごるぁ!シアこのクソアマ!その手を離せええええええええ!」


キャサリンが泣きながら突っ込んできてシアとカンザキを引き離す


「きゃぁ!」


「おっと・・・たすか・・った?」


「何をなさるんですかお姉さま!」


そういうシアの前に立ち、にらみつけるキャサリン

いや、キャサリンのほうが小さいのでなんか変な感じだけど


「人がちょーーーーーーーっと用事で目を離したすきに!!」


「お姉さま目から水が垂れてますわ、これで拭いてください」


そういって手渡したのは


雑巾じゃねえか!


「ああ、ありがとシアってこれ雑巾じゃん!」


それを勢いよくシアの顔めがけて投げつける


おお・・・すとらーいく・・・


それをすっと顔からはがすとキャサリンの胸の谷間に雑巾を無理やり突っ込む・・・


「ごめんなさい、ちょっと汚れているみたいだったので雑巾でいいかとおもって」


「へぇ・・・覚悟できてる?」


「聞きました?カンザキさま!お姉さまが私をいじめるんです!」


そういって再びシアはカンザキの腕に手を伸ばす


「ちょ!シア!ずるい!」


キャサリンもなぜか反対側の腕に自らの腕を絡ませ、それはもう盛大に胸を押し付けてきた

あ・・あかん


「やわらっ!がはっ!」


カンザキは気を失った・・・








目を覚ますとそこは青空が広がっていた


「ん?あれここはどこだ?天国・・か?」


「ちがうよー」


横に目を向けるとキトラがうちわであおいでくれていた

ああ・・気を失ったのか・・・


「お兄ちゃん」


「ん?」


「お兄ちゃんのエッチ!」


「がはっ!」


にやにやとカンザキを見るキトラに・・


「ごめんなさい」


思わず謝ってしまった


「よろしい」


そういってキトラは頭をなでなでしてくれて気づく


あれ?


「そういえばシアとキャサリンは?」


「あ、二人ならなんかちょっと話し合いをしてくるとか言って出て行ったよ?」



そ・・それは・・良い話し合いだと良いなぁ・・・怖いなぁ・・


「聞いたか!?コロシアムで王女様が決闘してるらしいぜ!」


「ああ、今から行く所だ!急がないと終わっちまう!」


そう言って駆けていく二人組が居た


け、決闘かぁ



「なあキトラ、最近どうだ?楽しいか?」


カンザキは聞かなかった事にしてキトラに話しかける


「うん、楽しいよ!シアお姉ちゃんも優しいし、キャサリンも前より楽しそうだし!」


「そうか、そりゃ良かったな」


「うん。だからお兄ちゃん」


「ん?」


「早くどっちかと結婚したげてね」


「がはっ!」


「すみませんカンザキさん」


そう言ってシルメリアがやってきた


「最近、ユキさんとみにゅうさんに遊んでもらっているうちにだんだんキトラが・・・」


ああ、そう言う事か・・


アイツらお仕置きだな


ズガアァァアン


遠くのコロシアムから爆音が響く



「さて、そろそろ夜の準備をするか。キトラ、シルメリア手伝ってくれるか?」


「うん!いーよ!」


「はい、わかりました」


よっしゃよっしゃ


「ねぇお兄ちゃん」


「ん?」


「お兄ちゃんは楽しい?」


そうだな


楽しいか・・・

カンザキは少しだけ考えて



「そんなの楽しいに決まってるじゃないか」




そう言った


巨大都市ウルグイン


その巨大な都市に唯一の焼肉屋がある


店の名は


焼肉ゴッド



本日も営業中である




「そういえばキトラ、なんでお兄ちゃんって言ってるんだ?」


「その方が面白いからってユキおねえちゃんが!」


「あ・・・あそう」


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