第61話ミナリ見参7 ネコヤへようこそ

まだ日が暮れてそう経ってはいないはずなのに、見上げた空はすでにこぼれ落ちそうな程の満点の星が煌めいている


この世界に来てからというもの、ミナリは空を見上げるのが好きだった

日本に住んで居た時でも空気の澄んだ田舎町には住んでいた、だけれども、これほどの星の数は見たことがない


でも、ここってダンジョンの中・・・ではないわね


99層までの洞窟チックなダンジョンとは違ってここには空がある


それを抜けた先のここは明らかに地上だ


先ほどまでは太陽があったし、今は空には星が出ている


ということは宇宙もあるのだろうと推測できるけど・・


それが閉鎖空間というのはどうも、考え辛い

まぁ、この謎の考察は後回しでいいか・・


それよりもさっきからちらっと目に入った建物が気になる


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「猫の道具屋?」


ミナリの後ろでモコとテレサはきゃーきゃーと騒いでいる


なんでも、ウルグインにも猫の道具屋はあるがそこには製作者である猫さんを見た人はいないらしく

従業員ですら月に一度、商品を補充する時すら会ったことはなく、表には出てこないとか・・・


曰く、選ばれた者でなければ会うことができない

曰く、猫さんなんて者は存在しない。または既に死んでいる


などなどそんな話がまことしやかに流れていたのだ


ただ、猫印のアイテムは非常に便利で中には原理のわからないものもあるのだとか

複製品、コピーを作ろうとした業者が分解してみたが見たこともない素材が大量に使われていて

分解したが最後、元通りに直すこともできなかったのだとか


それゆえ、製作者を見つけ出してさらって利益を独占してやろうとする者もいたらしいのだが一切製作者は見つからなかった


ミナリも実は、猫印のテントを持っている

ダンジョンに入る前に水筒も買った

両方とも不思議な魔力に包まれていたアイテムだった


そんな道具屋がなぜかダンジョンの深層

それも冒険者未踏の地にある


ああいや、正確には王家の祖であったりがここには来ていたらしいのだけど


それでも一般の冒険者には初めての到達だ

自然と3人はその店に向かって歩いていたの前に来て唾を飲んだ


一体誰がどうやって建てたのか・・

今も営業しているのだろうか?


ゴクリ


夜の風がさわさわと三人の体を撫でていく


「中に入ってみましょうか」


おもいきって進むミナリは木製の階段を上がって、ドアを開ける


 ギィ・・・


中に入ると様々な商品が陳列されていていかにも普通の道具屋といった雰囲気だ

掃除も行き届いており誰かが居ることが分かる

大きな差があるとすればそれはただ一つ

あ、猫印の魔法瓶だ。

全ての製品が猫印が付いている事だった


後に続いて入ってくるモコとテレサも商品に目を奪われている


狭い店内をミナリは奥へ進む

なんでこんな所に店を作ったんだろう?

てゆうかお客なんて来ないんじゃないだろうか?


カウンターがあり、そこに居たのは一匹の白い猫だった・・


「ホントに猫じゃない」


思わず声がでてしまった

マスコットかな?まあ、猫の道具屋だから猫は居ても良いのか

そう思っていた時


「いらっしゃいだニャー」


!!??

猫が・・・・しゃべった!?


「初めて見る顔だにゃ。普通に玄関から入ったところを見るとダンジョンを抜けて来たお客さんだにゃ?」


平静を装いながら、ミナリは言った


「え、ええ・・それであなたは?なぜこんなところにお店を?」


「にゃ、その話はあとにゃ。後ろの二人が商品を買いたいようにゃ」


ミナリが振り向くとそこには既に両手いっぱいにアイテムをもった二人が立っていた


「こんな値段で買えるなんて・・・ウルグインなら100倍はします!」


そういって次々と買っていく


「まいどありにゃ!」


白猫はニヤリと笑って器用に二人の精算を済ませていく



その間暇なミナリは、店内のアイテムをじっくり見ていく


猫印の水筒・・・あれ?これって大中小とある。

その下に入る容量が書き加えてある

小は見た目3倍のサイズ入ります

中はたるにいっぱいくらい入ります

大はたる10杯分くらい入ります・・・


質量が・・計算が合わない?

おそらくは魔法によるものだろうと納得する

ミナリの認識は


「魔法とは一定の条件のもと魔力を使用することで物理法則を書き換える行為」


そう認識している

そして道具・・マジックアイテムについては、


「一定の時間しか効力のない物理法則の書き換えを保存し、常時発動状態のまま留め続ける事ができている」


そう思って納得している

それゆえ、魔法って科学より簡単に便利に使えてとっても楽ちん!と気楽に納得しているのだ


道具の中にはいろいろな物があった


その中でミナリは目を付けたの念話イヤリング

これは魔力を持たない人とでも話ができる便利アイテムとある


なんとなく3セットほどを買う


あとは、猫印ランタンとか鍋、そういった生活に必須と思われる物を手に取っていって、はっとする

あちゃ・・これって持ちきれない・・


あれ?これは・・猫印魔法の皮袋・・・

家一軒分くらいのアイテム収納が可能とある

見た目はリュックサックみたいだし、これ買っておこうか

値段は家一軒分くらい・・でもま、必須よね


「ミナリさん、それ買うんですか!?」


後ろから会計を終えたテレサがリュックを見て驚く


「ええ、たくさん持てるのって必須じゃない?」


「それはそうですけど、高いですよそれ」


「幸いお金は持ってるから大丈夫よ。それにー」


言いかけてやめる

それに、長居はする気がないーのだからと言おうとしただけだが

ほかの世界から来たとか説明がメンドクサイしね


「そうですか、まあ我々も魔法の革袋を一つづつ買うことにしましたし」


「高いんじゃなかったの?」


「ええ、私はモコさんにお金を借りました。モコさんはさすがSSS級だけあって、お金持ちですから」


「いいわよ、返さなくて。テレサにはここに来るまでお世話になったし。それに仲間じゃない」


そうにっこり微笑むモコにテレサは感激して


「あ・・・ありがどうございまず」


感激して涙を流す・・・

あーあもう、でもなんかいいな・・学生の時みたい


なんかもう、ダンジョン抜けたら親友になってたーみたいな感じだね

ていうかその金額をポンっとあげれるってやっぱり冒険者って儲かるんだ・・

おっと

ユキちゃん忘れたらだめだね

そろそろ街に帰って探さないと



「猫さん、あー猫さんでいいのかな?」


「猫でいいにゃ」


「私もこれください。」


「まいどありにゃー」


猫さんはそういって会計をささっと済ませてくれる

魔法を使ってお金やアイテムはふわふわと移動しているようだ


「で、君たちはこれからどうするのにゃ?先に進むのなら西の方角に転送陣があって、そこから次の階層にいけるにゃ。もしももどりたいのにゃらうちの店の裏にある転送陣でウルグインのうちの店まで転送してやるにゃ」


なるほど、まだ「先」があるのか・・・だけど今回のところはそろそろ戻りたい

それなりの時間も経っているし


「いえ、今回は帰ります。ちょっと寄り道がすぎちゃったみたいなんで」


「そうにゃ?それじゃ裏から帰るといいにゃ」


「ありがとうございます」


「久々のお客だったにゃー。また来るにゃ」


猫さんはそういうと裏口のドアを開けてくれる


「うちの店の裏にでるにゃ、また来るんにゃよ~」


そういって名残惜しそうに手を振ってくれる

肉球がピンクだ

かわいいなぁ


奥に行くとすぐに転送陣があった


「さて、じゃぁ帰りましょうかー」


3人は猫さんに手を振りながらウルグインの街に帰るのだった



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街に着くとそこは猫印道具店の裏だった

先ほどまでと同じ夜だ


どうやらあそことここの時間は同じらしい


「そういえばミナリ先生は何処に住んでいるですか?」


「あ!そうだった!家買ったんだった!」


「え?」


モコとテレサがミナリの発言を考える

家を買った?まだウルグインに来たばかりと言っていたような気がするんだけど・・


「とりあえず私は家に帰るわ、たぶんここから近いと思うし」


そういって街の地図を開く


「そうですか、モコさんも家に帰りますよね?私も今日は帰ります。なんだかそんなに疲れてないんですけど、明日はギルドに顔も出したいので」


「そうね、じゃぁみんなまた明日ね」


「「はい」」


そう言ってミナリは二人と別れる


大通りに出るとそこはいろいろな飾りつけがしてあり、なんだかダンジョンに入る前と雰囲気が違っていた


うわぁ、何これお祭りみたい


あ、そっか建国祭ってやつか。もう始まってたんだ・・・


様々な人、そして種族が行き交う


まるで違う世界に来た

そんな実感がいまさらながらミナリを襲う

ほんの少し不安と寂しさが胸を包んだ。先ほどまではモコとテレサが居て・・


「私ってこんなに寂しがりやだったかなぁ。ちょっとこれはへこんじゃうかもしんない」


そう口にだしたら、涙が一筋頬をつたう感触


「あーヤダな。帰りたいなぁ」


今の姿を見たらモコとテレサはきっとびっくりするだろう

家に・・帰ろうか・・・

その家も誰も待ってないが

そして歩き出したその時


「お姉ちゃん大丈夫?」


え?

下を向くと小さな女の子だ

ウサギっぽい耳が生えている

獣人の女の子?


「お姉ちゃん迷子なの?」


「ううん、大丈夫ちょっと寂しくなっちゃっただけだから」


そう言って女の子の頭を撫でてやる


うわ、柔らかい・・そして可愛い・・・


わしわしわしわしわし


「あわわわわ・・・お、お姉ちゃん?」


「はっ!ごめんごめん、夢中になっちゃった。それよりもあなたこんな遅くに一人?」


「ううん。シルメリアといっしょなの」


「そうなの?」


「うん、あ!あれ!シルメリア!」


そういって指さす方向には緑の髪でスレンダーな怖い程の美人がこちらに歩いてくるのが見える


あ・・転んだ!?


ミナリは走ってシルメリアを起こす


「あ、あなた大丈夫?」


「大・・丈夫・・・」


なんだかしゃべり方が大丈夫じゃない


「よし、家まで送ってくよ!私の名前はミナリ、君はシルメリアで、えーっと・・・」


「キトラだよ!」


「よしキトラちゃん、うちはどこかなー?」


そう言うとキトラはミナリの手を握って引っ張る


「こっちー!」


そう言って走り出してしまった」


「ちょ、ちょっと待ってシルメリアが!」


「えー?なに?」


後ろを振り向くとシルメリアは居ない

あれ?

前を向くといつの間にかシルメリアも一緒になって走っている


「私は・・大丈夫・・・」


なんとか聞こえるか細い声でぼそっと言った

きっとこの子はもとからこういうしゃべり方なのかな・・・


そしてそのまま10分ほど走っただろうか、そこは飲食街のようだった

だが祭の影響か夜だからか営業している店は少ない様だった


「ここだよ!いらっしゃいお姉ちゃん!」


シルメリアとキトラがお辞儀をしてー


見事な行書体で書かれたその看板は・・・


「焼肉・・・ゴッド!?」


「うん、ウルグイン唯一の焼肉屋だよ!」

「いら・・しゃい」



そしてミナリは二人に案内され店に入る



巨大都市ウルグイン


その都市唯一の焼肉屋へ








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