第30話閑話休題その3 レオノール

さて、前話でカンザキが不安に思っていたカンザキの店、焼肉ゴッド


実は一人残されていたガルバはキャサリンの言いつけ通り待っていた

それはもうずっと。

何故ならばカンザキが帰って来ない理由が自分にあるのではと思っていたからである。

あとキャサリンが凄く怖かったから…



夕方、1度家に返り妻には事情を説明してある

だがさすがにお腹も空いたし、ただただひたすら待つのは飽きてしまう

その後素直に店で夜中まで待っていたのだが、ようやくガルバは気づいた


「ダイダロスまで行ったんなら4日は帰って来ないじゃねえか!」


気づくのが遅すぎである


しかし気づいたのならばさっさと帰ってしまうのが通理である。ガルバは戸締りをしてから帰ろうと思い、立ち上がる



するとガラリと店の入口が空いた

そこに立っていたのはカンザキではなく、ましてキャサリンでもなくて



「鹿じゃねえか」


鹿の被り物をした、1人の男が立っていた


「あれ?ガルバじゃないか。カンザキは居ないのか?」


「まあちょっとな」


ガルバは説明するのも面倒くさいので適当にごまかす

と言うかホントにコイツが全部わるいのだが


「そうか……居ないのか」


残念そうにしょげる鹿頭


「で、何しに来たんだよ」


「いやぁここの三階増築の件でちょいとな。最近昼間に来ても閉まっていたんだが、今通りかかったら明かりが付いていたから帰ってきたのかと思ってさ」


なるほど、鹿は大工の様な仕事をしていたとガルバは思い出す

実際は何でも屋だったりはするのだが



「へぇ、ここの三階を増築すんのか」


確かシアさんは住み込みだから部屋が足りなくなったのかな?だから増築すんのかなーとガルバは納得する


「そういやよ、鹿は酒飲むか?新作があるんだよ」


ガルバは酒屋であり酒の蔵元(みつぞう)である


先程帰宅した際にゆっくり飲みながら待つつもりで持って来ていたのだ


「おお、良いのか?」


「かまわねぇよ。それにお前さんにゃ悪いことしちまったし、詫びも含めてな」


以前ガルバは鹿の頭の角をへし折ろうとした事がある

その時はカンザキが止めて、結果的に何事にもならなかったが申し訳ないと思っていたのだ


「なんだ、あん時のか?安上がりな詫びだな。まあ頂くよ、てゆうか娘さん、治って良かったな」


鹿は頭をポリポリと掻きながら言った

ガルバは少しだけ顔を赤くして


「ありがとよ、さあ飲もうぜ」


そう言って鹿をテーブルに座らせた



そして二人とも雑談をしつつ、ある程度酔が進んだ時であった



「ドガアッ」


魔法攻撃なのか

入口が派手な音を立てて吹っ飛びさらに鹿がガレキの下敷きになって吹っ飛んだ



「べぶらっ!」


「鹿ぁーーっ!!」


慌てガルバが立ち上がると壊れた入口を踏み潰しながら入ってくる男がいた


ボロいマントをつけえぐい程の輝きを持った大剣を握っている



「お前が……カンザキか?死んでもらおうか!」





そう言って男は剣を構えた










時は少し戻る。

場所はウルグイン王宮の執務室

代々に伝わるその豪華な机と椅子に腰掛けるのはこの国の国王である


「今週の報告書になります」


その国王に、紙束が渡される


それは数十枚に及ぶ紙の束だ


ダンジョンの攻略情報、魔石採掘量

人口推移と冒険者の人数


さらには土地の活用状況に食料自給率などなど


王の仕事の大半がその書類に詰まっているのである


基本的には目を通し確認するだけのものだ


だがその中に1枚だけ白紙が混ざっている



「ご苦労だったな」


そう言って王は王国の金貨を数枚渡した

それはいつもの仕事以外をした報酬であり、かつ国が依頼した仕事でなく

誰にも知られることの無いように国王が個人的に頼んだ仕事の報酬であるからだ



王はその男が出ていくと白紙の紙を持ち魔力を通すと


ほわりと淡く光ると文字が浮かび上がった


誰にも見られないように細工の施された魔法紙である



表題には、キャサリンの店及び焼肉ゴッド調査書


そう書いてある



それに熱心に目を通すと王はブルブルと震え始め


その手の報告書が激しく燃え上がる



ふ、ふろに一緒にだと・・・


しかも一緒に住んで・・・ルシータとシアと・・


やはり・・・ルシータとシアは騙されているに違いない!


クナトを呼ぼうとしたところで王は


いかんいかん


クナトはレオノールに通じておる。


また止められてはかなわんからな…ことは静かに行わなければならん



時は戻り、その夜である



王は決意とともにこっそりと街へ向かったのだった


焼肉ゴッドの店舗を見つけた王はその入口から漏れる光に殺意が湧き上がる

殺意は溢れんばかりにあるのに、その店を見つけた喜びで顔はあふれんばかりの笑顔になる


「ふ、ふ、ふ、ファイアボール!!!」


震える声で魔法を唱えて入口を吹っ飛ばす



「ふはー、ふはー……ふふへへへへへ」


余りの興奮のあまりに呼吸が荒くなり、破壊した入口へと足は一歩一歩力強く大地を踏みしめながら進む



もう完全に怪しい人である


周りでは衛兵を呼べと叫ぶ声が聞こえるが、今彼の耳には何も入らない



壊れた入口を踏みしめながら店内に入るとそこには一人の男が酒を飲んでいたと見える


(鹿は入口扉の下に敷かれているので王には見えなかったようだ)


そしてガルバを見るやいなや


そうか、コイツがカンザキか・・


私の可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い娘達をたぶらかしているクソ野郎か!!!



「お前がカンザキか!死んでもらおう!」



勘違いした国王は剣を振り上げたのだった







ウルグイン王宮にて



「なに!?王がいないだと!?」


レオノールは叫んだ

既に就寝の用意をしていたが

緊急の報告と言ってクナトが訪ねてきたのだ


レオノールはキャサリンにもシアと違い父親似の美人である


赤い瞳は同じだが大きく違うのは髪の色

金色ではなくどちらかと言えばシルバーに近い色だ


そしてその胸は2人よりまだ大きく育っているし、身長も2人よりもかなり高い


クナトはたんたんと報告をする

できる執事だからね、仕方ない


「はっ!おそらくは焼肉ゴッドに向ったものと思われます。執務室の片隅に燃え残っていた書類がございました。それは焼肉ゴッドを調査したと思われる文面がありました故!」


クナトはレオノールにありのままを報告する


そう、クナトはレオノールに逆らえない!


「それで居なくなってからどのくらいたつの?」


「少なくとも……数刻は経っているかと」


「あのクソオヤジめ!」


レオノールの目が赤く輝く

そして抱いていたぬいぐるみを放り投げると鬼気迫る顔で言った


「連れ戻すわよ、クナト!親衛隊を集めなさい!」



シアお姉さまの恋路を邪魔するなんて許せない!


ただでさえお姉さまは23歳・・・


今までまったくと言って良いほど男に興味を示さなかった。きっと、これを逃せは行き遅れ確定なのよ!


あの男勝りのお姉さまに結婚してもらわなきゃ私が先に結婚なんて出来ないのよ!


私も相手はまだいないけど!


とりあえず障害物はあのクソオヤジね・・・


引っ捕まえて牢に放り込んでやらなきゃ


そんな事をしたら事実上の幽閉である

そしてあの父にしてこの娘ありなのである!



クナトが親衛隊を集めて回るその間にレオノールも「出陣」の準備を整える



「クナト首尾はどう?」


「ただ今すぐにだせる飛竜が5匹は用意出来ました」


「充分ね。クナトは念のため…あともう一部隊を用意しておいて」


「分かりました」


クナトは礼をしたまま返事を返す

クナトは震えている

レオノールの覇気に震えている!



「姫様!準備は出来ております」


一人の美しく、背丈の大きな女性兵士がそう言った


実はレオノールの親衛隊は女性兵士のみで結成されている


「シャルロット頼むわね」


「はっ!」


シャルロットと呼ばれた女性兵士は敬礼をする



「今夜は少々手荒になってもかまいません。もしかしたらお姉さまとお会いする事になるかもしれませんが、何も見なかったふりをするのですよ!」


お忍びで行っているお姉さまの邪魔をしてはならない


かつて噂を聞いて焼肉ゴッドに行った兵士にはキツイ厳罰を与えたのもレオノールだ


それを知る親衛隊には万が一は無いが念を押しておく






「はっ!了解しております!」






そして王宮より、五匹の飛竜が飛び上がった



街の空へとー




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