第3話とにかく、兎に角、

「お前のぉぉ!角ぉを寄こせぇー!」



飲食街の朝は静かだ。

人通りもまばらで、騒いでいる人間もいない

いると言えば酔っ払いがそこらへんのゴミ捨て場に捨てられて寝ているくらいのものだ


大体の店は締まっているか、準備中

カンザキも焼肉屋の二階で寝ていたのだが、騒がしい声で起こされてしまった


何事かと降りてみればそこには酒屋のガルバが斧を握りしめ、鹿の被り物、をした男を襲っていた所だった。


「た、助けてくれぇ!」



鹿男が俺の後に隠れる


「おいおいどうしたガルバ、尋常じゃないぞ」


俺がなだめるとガルバは


「どいてくれカンザキ、ソイツの角が必要なんだ!」


うわ、目が血走ってるな


「角?この鹿の角か?」


鹿男の頭には立派な角があった


「あ、ああ、それが薬になると聞いてよぉ、だからカンザキ、後生だ、どいてくれ。」


すると鹿男が、


「俺の角は薬になんてなんねぇよぉ」


かぼそい震えた声で訴えるが、


「さあもう観念しろい!」


ガルバは聞く耳がないな


どうしたものかと考えていると、



隣の酒場の扉がガラッとあいて、キャサリンが出てきた。

相変わらずクソ可愛いです、はい



「うるさいわねー、寝れないじゃない。ガルバ、角の霊薬がほしいんならそんな被り物の角じゃ作れないよ!」


キャサリンがそう言うとガルバは、そこにヘタリと膝を折って



「分かってんだよぉー、でも、それでも、それでも!!」


泣き始めやがった


とりあえず店に入れてキャサリンと話を聞く。


鹿男はガルバが泣いている隙に逃げたようだ。



で、なぜ薬がいると言えばガルバの娘が病気になったらしい。

難病の様だった


医者からはエリクサーか万能薬があればと言われたが、そもそも値段が途方もないし、希少すぎて手に入らない。


そんな時、昔聞いた話を思い出したらしい


とある鹿の角を煎じて飲めば、万能薬とも言える効果となる霊薬となる。と、


するとキャサリンが


「うん、心当たりがある」


「本当か?」


俺は聞いた

キャサリンがそれに答える


「たしか半年ほど前にカンザキ、アンタが狩った奴がいるだろ?アイツの角さ」



俺は腕を組んで思い出す。

いたな、そう言えば。だがアイツは厄介だぞ?


「確かに。だがあの角はもう棄てちまったし、そもそも偶然罠にかかった奴だ。肉は美味かったから、また捕まえに行ったが速すぎて捕まえられなかったぞ」


あれは霧が濃い層だったから視界も悪いしなあ…



「うちの娘を貸してやるよ、弓使い見習いだから修行にちょうどいいしね。私が行けたら良いんだけど、生憎しばらく店を離れられないのよ」



「か、カンザキ!頼むよ!か、金はないが、とっておきの酒を卸すから頼む!」


おう、ガルバのジャバニーズ土下座が炸裂したぞ


「まあ、ガルバには世話になってるしな、キャサリンも協力してくれるし、いっちょやってみるか」


俺がそう言うとガルバはまた、泣き出した

本当によく泣くやつだよ


「カンザキ、まあ頑張ってね。うちの娘も頼んだよ。無事にやり遂げたらキスしてあげるから」


と、キャサリンは色っぽくウインクした。


「ふん、キスなんか要らないがガルバの為だ」


俺はムスッとして言ったが・・・


(よし、死ぬ気で頑張る)


と、心に決めたのだった。





ひとまずはいつもの用意をして、


今回は念のために罠をいくつか持っていく

猫印罠シリーズだ






巨大都市ウルグイン


その中心にはダンジョンがある。

1層から3層あたりまでは大したモンスターもいないため、どの冒険者も通り過ぎるだけであるのだが、

カンザキは隠し通路に入るため1層を進む。



キャサリンから派遣された娘の名前はキトラと言った。

まだ幼いが、腕は確からしい

頭にはうさぎのような耳が生えている。


どうやら獣人の子供ようだな

なるほど、聴覚が鋭いか、ハンター向きではあるのだろう


「あのぉ、カンザキさん何処まで行くんですか?階段過ぎちゃいましたよ?」

不安なのか、キトラの耳がぴくぴくしている。


「ああ、こっちに隠し通路があってな。」

耳がぴくぴくしている。


「へええ、そ、そんなトコロがあったんですね。」

耳がぴくぴくしている。


「まぁ、ある魔石がないと使えないんだがな」


耳がぴくぴくしている。


「へえー」


くっそ耳が可愛いじゃねえか



そして隠し通路へ付いた


扉を開けたり転送したりする中で、キトラの感情が耳に現れるのかせわしなく動いて最高に面白かった

可愛いしな



第512層


高原の様な層で、いつも霧に覆われている。

シダのような植物が多くあり、白い花を咲かせていた


また、濃い霊気の為か、希少な霊草なども多く取れる。


ここの主が確か、そうだったはずだ 

俺はメモをめくって確かめた


「よし、探すか。確か向こうの山の方に居たはずだ」


そういって俺はひょいひょいと大き目の岩を登っていく。

しまった、キトラは登れないか?

そう思って振り返ると、彼女はぴょんぴょんと跳ねるように登ってきている。


大丈夫のようだ、さすがキャサリンとこの娘だ


そしてしばらく進むと、霧がさらに濃くなり、ほぼ視界ゼロになる。

いつもはもう少しおとなしい霧が今日に限って濃い。


「あ・・・」


キトラがつぶやいた。


「どうした?」


「な、何かいます。あっちです!」


ひそひそ声でキトラは指を差す


キトラが指さした方向を見てみる


ようく、目を凝らすとそこには


大きな角。緑色の混ざった角だ。

そしてキラキラと煌く、白い体毛。


ヤツだ。


ヒュン!ヒュン!


気づかれた!?


まるで落雷が落ちるがごときスピードでこちらに向かってくる。


まずい!俺はキトラを抱えて横に飛びのく


そこを鹿が駆け抜ける


ザシュン!


さっきまでいた所の足元の岩がえぐれてやがる


駆け抜けただけでコレか!



「俺がひきつける、キトラはそこを狙い打ってくれ」



そういうと俺はキトラを置いて鹿へ向かって掛ける


振り返るとキトラが弓を構える姿が見えた


頼もしいな!


「おい!こっちだ!」


俺は鹿へ向かって叫ぶと、奴はこちらに向かって来る


ヒュン!


やばい!ぶつかる!


そう思ったが、鹿は俺にぶつかるとふわりと霧の様に霧散して消えた



もしかして、霧を操る?



俺は耳を澄ませ、感覚だけを頼りに奴の居所を探す。



カツン!カツン!


そんな音が小さく聞こえる



いた・・・・・


岩の裏に隠れてやがるな



「いくぞキトラ!」



「はい!」


いい返事だ!

俺は本気で駆ける


一瞬で岩の後ろに居た鹿に詰め寄る


すると鹿は慌てて、岩に向かって飛び上がる!!




カァンッ!





キトラの放つ矢が、鹿の額に突き刺さった。

本当にいい腕してるなぁ


あれに当てるとか神業みたいなものだと思う



だが、まだ絶命には至っていない。俺はふらつく鹿に近づいて、矢をケリで押し込んだ




「やったー!」


キトラがぴょんぴょんと跳ねている

心も跳ねているようないい笑顔だ


鹿の角を切り取り、血抜きをして魔法の袋に詰めた


その間、適当にその辺の草を取って、


仕掛けた罠を回収。その一つに、角の生えた野兎が掛かっていたのをゲットした。

キトラも弓の練習かそのあたりに要る獲物を狩っている

本当にいい腕をしていると思う


「たくさんとれたな」


「はい!」


耳がぴんぴんしている。どうやら自信もついたようだな。






店にもどると、そこにガルバが待っていた


「ど、どうでした?」


不安そうなガルバに


「大丈夫です!」


キトラが答える。


俺は魔法の袋から大きな角を取り出し


「これがその角だ。薬屋のばあさんとこで煎じてもらえ。」


そう言ってガルバに渡す。


「あ・・・ああああああああ」

本当によく泣くやつだなぁ


何度も何度も会釈をして、走って帰った。


「娘さん、良くなるといいな」


俺は心からそう思った。


隣の店からキャサリンがやってきた


「無事に取れたようだね」


「あ、店長!私、頑張りました!」


びょんぴょん跳ねるキトラ


「ああ、お疲れさま」


頭をなでなでしている。もふもふ。

いいなぁ・・・・俺もしてみたい。


「カンザキもお疲れさま」


そう言ってキャサリンが俺の頬に、ちゅっと・・・・・・・・・・・・


しようとしたのを全力で避ける


「まったくもう、何を恥ずかしがってるのよ」


しょうがないだろ・・・ほんとに恥ずかしいんだから



「よし、んじゃみんなで焼肉でも食うか。肉はたくさんあるから、今日は好きなだけ食べろ」


俺は話をそらすように提案する


鹿肉での焼肉だ


「この肉はうまいぞ?」


キャサリンとキトラの目が輝いていた

やっぱ肉はうまいからなー




後日



無事にガルバの娘は助かったようだ


しかも、角の残った分を薬屋のばあさんが買い取って、同じ病気の子供たちに無償で薬を配ったとか。

まぁ、無償でってのは怪しいけどな。あのばあさん、金あるところには容赦しねぇからなー。


なんにせよ、子供の命が助かるのだ。



こんなに嬉しいことはないさ。





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本日のメニュー




 「麒麟の焼肉」


    効果はスピードアップ・・かな?


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