第166話木の実亭のオスタ3
さて、オスタが連れて行って欲しいと願った、仲間の消えた遺跡までは馬車等を利用してもそれなりに日数のかかる距離である
オスタはあれから十数年、大きく様変わりした移動手段を詳しくは知らないがそれでもかなりの日数がかかると思っていたのであるが
馬車の為に整備された街道を土煙を巻き上げながら疾走する魔動車、それはオフロードタイプで荒れた道でも、難なく進んでいる
いわゆるジープタイプだった
「私の前にいる馬車には容赦しない!」
それは一風変わったエルフが運転していた
金髪に緑眼、但し軍服のような服を着ている
「ちょ、ちょっと!安全運転しなさい!って危な!馬車追い越す時気をつけなさいよ!馬が驚いてたでしょ!」
タダでさえガタガタの道を、それでもかとスピードを出す
馬車を見つける度に追い抜く為にスピードをあげるのだ
「ふ……遅いのがいけないのよ」
「アイ…あなたねぇ」
そしてその軍服エルフに文句を言っているのも、似たような容姿のわりに服装は軽装で、ジーンズにパーカーのようなものを着ている
彼女の名前はエイラン、その綺麗な美貌でしかしアイを見る目つきは殺気で溢れている
そんな視線を向けられてはアイと呼ばれたエルフもしおしおと大人しくなる
「しかしエイランとアイが来てくれるとは思わなかったよ」
キャサリンが言うには、その遺跡はエルフの物だろうと
であれば、知り合いの、それも歳を重ねたエルフと行く方が良いだろうとの事で…
まあ知り合いのエルフと言えばこの二人だったのだ
「あー、まあ多分私らのそれでも先祖の遺跡っぽいからねー」
「はぁ、私はあんまり詳しくないんだけど、アイを一人でつけたら不安だしね」
車酔いもしそうな程の道と運転でかっ飛ばしていく
舗装されておらず、主に馬車すらも通らない場所をとばせばガタガタと揺れる車
それは当然、慣れないものは酔うわけで
後部座席に座るカンザキの横には、オスタがすやすやと寝ていた
この振動でも目覚めない眠りは魔法によってもたらされたもの。魔動車が初めてだったオスタは叫ぶだけ叫んでいたが、エイランがぎゃあぎゃあ煩いと眠らせたのだ
さて、この不幸の中の幸いとしては移動速度が速い以外には無い
とは言え、出かけた時間が時間である
午後に出たせいもあり、既に本日は野宿となる
このエルフ2名はそれでもエルダーと呼ばれる程に古い
そしてカンザキ以上に旅慣れている
魔法のバッグから取りだしたのはコテージが4軒
驚く事に風呂まで完備している
「な、なにこれ…スゴいな…引退してからずいぶんと変わったんですね」
オスタが驚いて言った
ずずんと並んだコテージはそれなりに壮観である
今はその周りに動物除けや他の人間が近寄らないように魔法で結界を張っている
「いや、こいつらがおかしいだけだろ。今でも冒険者はテントだし、結界もここまで上等なものは張れない」
カンザキはやろうと思えばできないことはないが、その必要はないのでやらない
どこぞの王族ならばコレを見たらすぐ取り入れるだろうが
「さあ、準備できた。あとは晩御飯だねぇ」
「アイ、食べる気なの?」
「そりゃカンザキ君がいるんだもん。焼肉でしょ?外で食べる焼肉は格別なんだよ?」
アイがニコニコと陽気に笑って
そのまま魔法を用いて石焼きコンロをくみ上げた
「普通、魔法でここまでのことは出来ないからな?」
オスタにそう伝える
さすがのカンザキにもその辺の常識はあったらしい
魔法は万能ではない。所謂戦闘技能としての魔法は簡単な部類になる
結界や回復魔法もまだ理解できるだろう
しかしながら、今の様にただコンロを組み上げるだけの魔法なんていうのは信じられないほど緻密に組み上げた魔法でなければ無理である
魔力は無駄に使用するし、そんなことをすればいざと言うときに魔力が足りないなんてことになりかねない
だというのに、このエルフ二人は何ともなくそれを行使するのである
これは長い時間を過ごすエルフが、その旅路を楽にせんと編み出した魔法だった
その日の夕食はアイの希望通りの焼肉となった
「おおー、コレ、ミノタウロスの肉でしょ!?スゴっ、高級食材じゃん!」
石の上で焼かれる肉をみてはしゃぐアイ、それにエイランも肉から目が離せないでいる
「何がすごいんだ?」
カンザキの非常識、というのは今に始まったことではないがそれは指摘する人間が少なかったからというのは大きい
香ばしく焼かれた肉をつまんで、それをカンザキの用意したタレを付けて食べる
「うはぁ、おいっし…何百年ぶりなのこれ…」
カンザキの質問にアイは答えない
それはもう夢中になって食べていた、これにはちゃんと理由がある
見ればエイランも夢中である
オスタはまだ少し気分がよくないのか、エイランが一緒に置いた野菜サラダから先に食べていた
ひとしきり満足できるまで食べた後、カンザキが水筒からお茶を入れて皆に配ると飲んで
それでようやく落ち着いたらしい
「いやあ、話には聞いていたけどほんとにミノタウロスやオーク肉だねぇ」
口につまようじを突っ込んだまましゃべるアイのしぐさはもはやオッサンそのものである
見た目が綺麗なだけに違和感がすごかった
ここでようやくなぜこんなにエルフ二人が喜んでいたのか
この世界、特にウルグインのある大陸ではダンジョン以外の場所でミノタウロスはもういなくなっている
それはオークなども同様である。何百年も前に絶滅、つまりは危険なモンスターは駆除ができたということ
アイやエイランが幼い時に食べたその味を、今再び食べれることに感激をしていたのである
「え、じゃあ何か、食べる為に狩りつくさえたってことなのか!?」
「そうだよ。だって繁殖させようにもうまくいかなかったらしいよ」
まさかの理由も出てくる
それはそうである、無限に湧き出るダンジョンと違い野生と言う意味ではモンスターは狩ればその分減っていく
特に魔法的、魔術的にダンジョンが出来てからと言うものは遠慮なく野生のモンスターは狩られていった
とはいえ完全には居なくなっておらず、狩るものが居なくなれば増えていくのだけれど、その生息域は狭くなりすぎている故に人目に触れなくなっていた
「なるほどなぁ…そこまではモンスターの肉って食われていたのか」
「そうだね。それを見てかいつの日にか禁忌となって根付いた。これには世界を管理する側の制限、まあ呪いだとかそう言う類のものもあったと思う」
なるほどと、カンザキは思った
今でも店に来てくれるお客さんというのは金のない冒険者か知人くらいのものである
ドワーフの連中は酒を飲みに来るから例外としても
そういえば最近クナト、クマのような執事を見ていないなとカンザキは思った
「さて、満腹になった事だしそろそろ寝ようか。オスタ君もゆっくり休みなさい」
エイランがそう言うと
「はい、ありがとうございます」
元気なくオスタは答えたのだった。
それに、この旅が決まってから今日まで満足に寝れていなかったオスタだったが、この日ばかりは移動中寝ていたというのに疲労もあり、よく寝れたのだった
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