第55話ミナリ見参4 ダンジョンは畑じゃありません

ミナリが進むのは・・モンスターの潜む恐ろしいダンジョンのはずであった


好奇心でガイドを雇い、見た事のない新感覚の恐怖アトラクションに挑むが如く緊張もした


ただまあ、ミナリにとっての恐ろしいとはその程度ではあったのだが


6層でモコが倒したシャドウラビット


魔法で焼けたその肉は、ほんのりとだが良い匂いがした

それで10層にて休憩がてら、ちょっと食べてみるとーこれがなかなか美味かったりして


「焼肉で食べたいなあ」


ミナリは呟く。単なる焼いただけでまあまあ美味いのだ、タレに付けて食べたいと思ってしまった。

日本の味が懐かしい

思い出して思わず喉に唾がたまってしまう



「焼肉?なんだそれは」


ミナリの呟きに反応してテレサが聞いた

なんでも彼女は焼肉と言うのを初めて聞いたそうだ


「テレサ知らないの?今度行ってみる?」


答えたのはミナリではなく、キラッと目を輝やかせたモコがテレサに言った



焼肉屋がある?


確か街を見た時には無かったはずだけど・・・

ミナリは知らなかった


ウルグインには焼肉屋はただ一店舗しかないことを


「え?焼肉屋とかあるんですか?」


今度はミナリがモコに聞いた


「うん、焼肉屋さんはあるよ。ウルグインに一店舗だけだけど。運が良いと凄く美味しいお肉を食べれる」



運が良いとー凄く美味い肉!?


「へぇ!じゃあガイド終わったら連れて行って下さい!」


ミナリの脳裏には日本の、あの焼肉屋が再現されている


「うん、良いかも。店長さん新人冒険者には良い肉を食べさせてくれるから」


「お、じゃあモコさん私もお願いします」


モコの下心が見えてきた所で次の階層に辿りついた





第11層ー


若干の湿った空気が辺りを漂う

どうやら地底湖ならぬダンジョン湖があるらしい


「ミナリ、ここから20層あたりまでは同じような階層が続く。それで序盤攻略において重要な拠点になることは多々あるんだ。その理由はわかる?」


テレサがミナリに問いかける


「え?何?食料補給地点とか?宿屋があるとか?」


「まだそこまでは奥に進んでないだろ?」


そういってテレサは笑う

否定をされないということは、宿屋とかもあるんだ・・・


「まぁちょっとわかりにくいかな。水だよ。このあたりで水を補給できるんだ」


水ーそれは生きる上で不可欠なものだ

この世界には、日本には無かった色々と便利な物があった


その1つ、猫印の水筒だ

そのサイズからは有り得ない程の水を入れておくことができる

この街に来てすぐに購入した

日本に持ち帰っても使い勝手が良さそうだからと思ったからだ


「あーなるほど。そういえばここって何層まであるんですか?」


色々教えて貰う中で、まだまだ聞いてないことはたくさんある


「それは分からない。だが100層とも言われている。私は48層まで進んでいるが、モコさんは・・」


「私は・・一応、だけど82層よ」


モコは言いづらいことがあるのか目を伏せて言った。

それ以上は聞かないでオーラを感じる


「さすがです」


テレサそう言った


そうか、とりあえず100層目指せばいいんだね


ミナリは簡単に考えているが実際はそうではないと教えられた

下に進めば進むほどダンジョンは広大な層ーフロアになっていき、50層辺りからは1フロアに一週間二週間かかるとかもざらにあるらしい


過去数百年の成果がその階層なのだ


テレサの話では、25層あたりからはもう油断もできないと言う

それにはモコも同意した


いかに階層を進めていても、モンスターは油断ならないと言う事だ。

だが最近になり、希少な転移の魔石が大量に発見され始めたらしい


それは60層以降で発見される魔石


途中、これがそうだと言って見せてもらったのは魔法陣だった

各階層にあり、その転移の魔石があれば自由に行き来できるらしい

そしてその魔石が発見されるまでは攻略自体も遅々として進まず、1か月籠っては引き返すといった具合だったとか






3人は順調にすすんで20層まで来ている


さすがに10層までとは違い既に5時間が経過しているが、3人はまるで今まで長年連れ添ったパーティのようにモンスターを撃破していく


当然途中途中でミナリにレクチャーをするテレサ


だがミナリは一度教えたことを全て覚えており、さらには教えたこと以上の質問を返して来たり把握している節があるから教える方も楽しくなってしまうのだ


あの、師匠エリザの様に


「先程のブレイクスネークの歯は高値で取引されているからちゃんと取っておけよ。あと、たまにこのあたりにはモス草と言って甘い草が生えてるんだ。」


テレサはミナリに知ること全てを教えようとしている。よほどミナリを気に入ったのだろう



それと、先程から数名の冒険者にも出会っている

皆ようやく初心者を抜けたばかりの冒険者達だった


テレサとモコはミナリが予想していたより有名人らしく、握手やサイン、記念にと色々貰ったりしていた


「はー、お二人共有名人なんですね」


ミナリは驚いてしまった。まるでアイドルの様な人気ぶりに


「いや、私達などまだまだだよ。モコさんのパーティのカインさんなどはトップ冒険者だからもっと凄いし、この国の王女のアレクシア姫やレオノール姫などは最強と名高くまた、美しい」


はぁーとテレサは惚ける


ん?カインさん・・・って多分男だよね・・


「あ、カインさん好きなんですか?」


「い、い、いや私などが!あ、憧れているんだよ」


顔を真っ赤にしたテレサが何だか可愛い


そこにモコが一言


「確かカインとバジは特定の女はいないはずだよ」


そう言った

テレサの目がギラリと光る


「ありがとうございますモコさん。貴重な情報です」


テレサの中に何か見えないスイッチが入った気がした

何か起こりそうな気がする


「あとお姫様が最強って?」


「この国に限らずだけど王族は強い。ダンジョンに潜っていると聞いたことはないがよく御前試合に出ておられてな、勝つと男性なら婿になれると言うのだが1度も負けたことは無い。最強と名高かった冒険者ーガルネクが手も足も出ずに負けたのを私は見たし、私の姉が親衛隊の隊長をしていたのだが、稽古でも結局1度も勝つことが出来なかったらしい」


「バジも昔負けた。今なら良い勝負かもしれないけど…それでも多分無理」


バジとは先程モコが言っていた普段パーティを組んでいる仲間のようだ


「へぇ、凄いんですね姫様って」


ミナリは姫と言うくらいだからおしとやかなお姫様を想像したのだが、現実は違うようだ


ミナリもある意味その容姿から姫と呼ばれていた事もあるが、少しでもミナリと仲良くなればどこが姫だと言いたくなるのだがそれはこの国の姫も同じだったりする


「そろそろ21層だ、楽しいぞ」


テレサが言った


ミナリがここまでの道中、楽しみにしたのがダンジョン内にある街の存在だ

何でも1000人規模の街が有るらしく、暮らしている者すらいるとか

物流は転送陣と言う特殊な魔法陣があり、それを利用した物流システムがあるので手に入らない物はなく、さらにはダンジョンからすぐに出れたりもするらしい


ちなみにダンジョン1階にも転送屋は存在して、自分が行きたい層まで転送してくれるがギルドが管理しており、冒険者ランクに応じた階層にしか転送してもらえないらしい


ちなみに21層の街は歴史も古く色々な店もあるという事で、ミナリはそれを楽しみにしていた




「よし、ここを抜けたらもうすぐ街があるぞ」




テレサはそう言って階段を駆け上がったのだった



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