ときめき島津メモリアル~四兄弟攻略RTA~①
1.君の好きなとこ
これはまだカールが帝都に居た頃の話だ。
その日もアンヘルと共に夜の遊びを楽しんだカールは彼女と共に床についたのだが、興奮のせいか夜中に目が覚めてしまった。
「……悪の女幹部に捕まりエロ責めされて闇堕ちするヒーローという新境地を開いたせいかな」
頭の悪いことをほざきながらカールはゆっくりと上体を起こした。
隣で眠るアンヘルの髪を指で掬うように撫で、何となしに外を見た。
自室の窓から見える景色とは百八十度違う、整然とされた貴族街の光景。
アンヘルやアーデルハイドと関係を持ってからは幾度となくここを訪れたが、やはりまだ慣れない。
「根が庶民だからなぁ」
慣れないし、正直に言うとあまり好きではない。
人が住まう場所はもっと雑然としている方が良い。
カールは上品な静謐より下品な喧騒を好むタイプなのだ。
「――――そう? カールくんは案外、王様とかに向いてると思うけど」
背中に温かく柔らかい感触……そう、おっぱいだ。
控えめな二つ丘を堪能しつつ、カールは謝罪の言葉を口にする。
「悪い。起こしちゃったか」
「ううん。気にしないで」
アンヘルはカールの背中に抱きついたまま微笑んだ。
ふわふわの髪の毛に少しくすぐったさを感じながらカールは先ほどの言葉について問う。
「俺が王様に向いてるってマジ?」
「マジマジ」
「えー……俺、自分で言うのも何だけど暴君にしかならないと思うぜ?」
国庫の金を使い込んで酒色に耽るような真似はしない。
まとまった金をパーっと使って成金ゴッコをするのは好きだが、それは自分の金でやるから楽しいのだ。
国の金は自分の金ではない。使っても気持ち良くなれないだろう金に手をつける意味はないのだ。
カールの言う暴君とは最終的に自分の正しさを優先する性のことだ。
「平時ならそりゃあ、家臣の言うことにハイハイ頷いて餅は餅屋っつーことで全部丸投げするよ?
もうこの時点で駄目だけど……俺の根っこに触れるような問題が起きたら確実に誰の言うことも聞かなくなるぜ」
例えば他国との争いが起きたとしよう。
頭を下げれば、痛み分けという形にすれば国益を守れると。
そう皆に進言されたとしても、その争いの根幹が自身の逆鱗に触れるようなものであれば譲るつもりは一切ない。
邪魔する者は例え味方であろうと蹴散らして進む。
いや、邪魔をする時点でそいつはもう敵だ。
よっぽど親しい相手でなければ場合によっては即座に殺すだろう。
そんな男が王様になれるとは到底思えないとカールは苦笑する。
「“暴君”も立派な王様の資質だよ?」
「はぁ? 何言ってんの?」
「まあ聞いてよ。さっきカールくんが言った国庫のお金を使い込んで贅沢三昧なんてのは確かに論外だよ」
でも、自分の正しさを優先することは人の上に立つ者に必要な資質だとアンヘルは言う。
「人間は弱いもん。どれだけ崇高な志を持ってても、ふとした拍子で折れちゃう。
最後の最後まで自分ってものを貫き通せるのはほんの一握りの強い人だけ」
「うーん……」
カールが思い出したのは前世の仲間……のような者達の顔だった。
同じ意思の下に集ったはずなのに、気付けば自分は一人になっていた。
あの忌々しい男の語る正しさを前に復讐の炎を萎えさせてしまったのだ。
それを間違いだと責めるつもりはない。だが、それは弱さなのだろうか? 貫いた自分は強者なのだろうか?
結果を語るなら貫き通した自分は本懐を果たしたが死んでしまい、迷い足を止めた彼らは生き残った。
「カールくんさ。私の話を聞いて、俺は別に強くないって思ったでしょ」
「まあ、な」
「自分からすれば当然のことをしているだけ――そう思える時点でカールくんは強くて、特別な人間なんだよ」
弱くて薄い衆愚はその揺ぎ無い強さにどうしようもなく惹かれてしまう。
安心感だ。この人に着いて行けば大丈夫。
そう思わせられるだけの強さがカールにはあるのだとアンヘルは断言した。
「まあそういうことなら王様に向いてる……のかな?」
「向いてる向いてる」
一から国を興し始まりの王となるか。
革命で玉座を奪い王となるか。
アンヘルは楽しげにもしもを語る。
「アンヘルは俺に王様になって欲しいのか?」
「それは嫌かな」
「おい」
この話の流れ的にそうじゃないかと思ったが違うらしい。
まあ、王様になって欲しいと言われてもそれはそれで困るのだが。
「だって王様になっちゃったらこの背中、独り占め出来なくなっちゃうもん」
ぎゅう、とアンヘルは細い肢体をより強くカールに押し付けた。
「私ね。カールくんの背中、好きなんだ」
「ほう、背中フェチですか」
「いやそういう意味じゃなくて」
直ぐ性癖に結びつけるのがカールの悪い癖だった。
「大きくて、温かくて……何からでも守ってくれそうな……世界一安心出来る背中」
「……世界一安心出来るかは分からないが」
それでも、
「守ってみせるさ。自分の女ぐらい守れなきゃ男とは言えないからな」
「……えへへ」
顔は見えないが、さぞ可愛い笑顔を浮かべているのだろう。
カールは今、とてもムラムラしていた。
「アンヘル」
「ん、良いよ」
このGOODコミュニケーションである。
多くを語らずとも通じ合う。それがこの二人の関係だった。
「アンヘル、何か希望のプレイはあるか?」
「んー、そうだねえ。家庭に居場所のない冴えない中年パパが娘の友人に誘惑されてドハマリしちゃう感じでお願いします」
「何それめっちゃ興奮する」
2.Go To 薩摩
「……懐かしい夢を見たな」
家庭に居場所のない冴えない中年パパが娘の友人に誘惑されてドハマリしちゃうプレイは実に素晴らしかった。
一晩で二つも扉を開けてしまったことに恐怖とこの上ない興奮を覚えたものである。
「アンヘル達、元気にしてるかなぁ」
葦原人の手で八俣遠呂智を討つ。
それがプランの要ゆえチート魔法少女を連れて来るわけにはいかなかったが、それはそれとして俺はとても寂しい。
いや庵に不満があるわけじゃないぜ? 久秀も居るしさ。
ああ、昨晩の久秀とのプレイは最高に盛り上がったよ。
でもおらは欲深な人間だから……アンヘル達にも和服を着せて帯クルクルとかやってみてえんだ……。
「そのためにも頑張らんと」
寝巻きを脱ぎ捨て庭の井戸に向かい水を浴びる。
芯まで凍えるような冷水で心身がキューっと引き締まっていく感覚が堪らない。
「あ、兄様。起きたんですね。これから起こしに行こうと思っていたのですが」
「お? 庵か。おはようさん」
「おはよう御座います――って言っても、もうお昼をとうに過ぎていますが」
昨夜は遅くまでお疲れ様ですと頭を下げる庵に罪悪感が刺激される。
信長達とも真面目な話し合いしてたけど今の今まで寝てたのはエロいことしてたせいなんだ。
ズキズキと痛むハートを無視して、俺はそそくさと着替えを始める。
「今日は島津という御武家様を口説きに行かれるそうですが……その、大丈夫なのですか?」
「大丈夫って?」
「いえ……久秀らに聞いたところ……あの……何と申しますか」
色々物騒な話を聞いたのだろう。庵の表情はよろしくない。まあ気持ちは分かる。
「言いたいことは分かる。アイツら、伝え聞く話だけでもやべーもんな」
島津に暗君なしと謳われるほど代々優秀な当主を輩出して来た鎌倉の頃より続く由緒正しい名家。
これだけを聞けば上品な印象を受けるが、どっこいそんなことはない。
戦関連の逸話を聞くに先天的に闘争本能が肥大化してんじゃねえの? ってぐらいおっかないのだ。
上の人間が優れた能力と苛烈な気質を持っているってだけなら……まあまあ、分かる。
だが島津は違う。上から下に至るまでその身の内に鬼を飼っている。
雑兵が四肢をもがれても戦おうとするか? 命尽きるまで敵を殺す意思を燃やし続けられるか? 普通は出来ない。
「何かこう、策があるのですよね?」
「あるっちゃあるが……策……策なのかなあ?」
お粗末過ぎて策と呼ぶのもおこがましい気がする。
「は、ハッキリ断言してください!!」
「庵が『兄様! 好き好き大好きチュー★』ってしてくれたら断言出来るかも」
「……」
「おっと。無言で刀を手に取るのは止めなさい」
部屋の中に飾られていた刀に手を伸ばす庵を制し、ちょいちょいと手招きする。
庵は不機嫌そうな顔を隠しもしないが、それでも近付いて来てくれた。
ホント素直で可愛い子だ。
俺は庵を抱き寄せ、その耳元で告げる。
「……俺の目的は天下を統一することでも八俣遠呂智をぶち殺すことでもない」
これまでは八俣遠呂智を殺すことが唯一にして絶対の目的だと思っていた。
だが、アンヘルの夢を見て俺は自分の心得違いを悟った。
天下統一も八俣遠呂智討伐も所詮は途中経過でしかないのだ。
「何の憂いもなくこの国を出て帝都に――あの
これまでもそのつもりで戦って来た。
だが、異国の地を踏んで慣れない生活を続けていたせいだろう。
俺自身、気付かない内に駄目な強張り方をしていたらしい。
そんな俺の背中を見てアンヘルは安心して頼れるだろうか? 絶対無理だ。
「よく言うだろ? 家に帰るまでが遠足だってよ」
「兄様」
「こんなところで躓くつもりは毛頭ねえ」
「…………はい。しかし、私は同行しなくても良ろしいのですか?」
信を示すために、か。
一度やった以上、二度も三度も同じだが今回に限っては無用だ。
俺の目論見が成功すれば全幅の信を得られる――多分な。
「全部俺に任せとけ。だから安心して俺の帰りを待っててくれ」
ぽんぽんと頭を撫でて庵から離れる。
気分的にはこのまま一発しけこみたいが、カッコつけた手前それは出来ない。
「じゃ、行って来るわ」
「あの、幽羅さんと共に行かれると聞いたのですが……」
「いやどうせアイツのことだし」
こっちの動きは把握してるはず。
そう言い切るよりも早く庭先に幽羅が出現する。竜子と虎子も一緒だ。
昨日、アイツらも同行させると言ってたけど……そういや理由は聞いてねえな。
いや、どうでも良いか。幽羅には何か考えがあるのだろう。
「足は?」
「ここに」
幽羅がふっ、と符に息を吹きかけると符は大鳥に変化した。
四人でも乗っても十分余裕はありそうだな。
「兄様、これを。道中でお食べください」
笹包みをと水筒を渡される。
中身はおにぎりだろう――ふむ、ロリが手ずから握ってくれたおにぎりとかクロスが聞けば発狂ものだな。
想像するだけで飯がうめえや。
「サンキュ。じゃ、改めて行って来ます」
「はい。いってらっしゃいませ」
俺達が飛び乗ると大鳥は空高く舞い上がった。
空は雲ひとつない快晴で風も涼やか。実に良い行楽日和だ。
でもそれはそれとして、
「なあ幽羅。転移で薩摩まで飛ぶとか出来ねえの?」
「残念ながら。カールはんの恋人さん方が使う転移と違うてそこまで使い勝手がええ術やないんですわ」
曰く、飛ぶのにマーキングが必要なのだとか。
そしてマーキングを施せる数にも限界があるらしい。
「分身に注いどる力を回収すればもっと使い勝手もようなりますけど……」
安倍晴明として果たすべき仕事を放り出すわけにはいかないと幽羅は苦笑する。
地味に気になってたんだが、コイツ何で陰陽寮の長をやっているのだろう?
幽羅が八俣遠呂智抹殺に並々ならぬ執念を燃やしているのは明らかだ。
そちらに多くリソースを割くべきなのに幽羅は分身に大半の力を渡してしまっている。
帝への忠義? まあ、見た感じそれもなくはないが一番ってほどではない。
単に真面目だから? そんな感じでもないんだよな。
「聞いて良いのか分かんないけどさ」
「はい?」
「お前、何でそこまで真面目に陰陽師としての職務を全うしてるわけ?」
問われた幽羅は一瞬キョトンとし、苦笑気味に答えた。
「アレの抹殺と同じぐらい、うちにとっては大切なものなんですわ」
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