おれのなつやすみ①

1.タクティクスバカ~運命の選択~


「あぢぃ」


 帝都を訪れて半年ほどが経過した七月半ば、ある朝。

 うだるような暑さで目を覚ました。


「あぢぃ」


 再度、繰り返す。

 一階――店舗部分にはエアコンがあるものの屋根裏部屋には存在しない。

 当たり前だ、元々人が住むためのものではないのだから。

 伯父さんがエアコン買いに行くか? と言っていたが、何から何まで甘えるわけにもいかない。

 買うなら俺の金で、だ。貯金、それなりに貯まってるしな。


「あぢぃ」


 エアコンの購入、それは六月頭ぐらいか視野には入れていたのだ。

 しかし、今を以ってしても購入に踏み切れていない。

 金銭的な理由ではない。さっきも言ったが貯金はあるのだ。

 では、何がエアコン購入を拒んでいるのかと言うと――――


「う……んん……


 くぐもった声が胸元から聞こえる、庵だ。

 上半身裸の俺にべったりくっついて眠るこの和ロリこそが俺が中々エアコン購入に踏み切れない理由そのものなのである。


「にい、さま……」


 寝苦しそうだが、俺から離れる気配はない。

 むしろすりすりと顔を胸板にこすり付けてきやがる――可愛い。


(たまんねえな)


 肌蹴た胸元に浮かぶ汗、そして……。

 朝っぱらから随分と俺の頑張りゲージを掻き立ててくれるものだ。


(エアコンを買えば、この暑さからは逃れられる)


 だがそれは同時に、一つの宝を捨てるということでもある。

 汗だくロリと半裸で密着という宝を捨ててまでエアコンを買うべきなのか?

 庵のためを思えば買うべきかもしれないが、本人別にエアコンなくても全然平気言うてるしさ。

 スラムで暮らしてた時に比べたら極楽ですとは本人の言だ。

 底辺と比べるのは悲しくなるから止めようと言いたいが……まあ今は置いておく。

 問題はエアコンだ。


(ロリコンな俺はエアコン問題にどう向き合うべきなのか)


 暑さを凌ぐという一時の快楽のために、この貴重な時間を捨てて良いのか?

 暑い言うても起きたら一階行けば良いじゃん。一階にはエアコンあるんだしさ。

 ああ、庵、庵。俺のマイフェアレディ――ごめん、思考がまとまんねえや。


(――――もう我慢出来ん)


 庵を起こさぬよう、そっと身体を離す。

 居なくなった俺を探すかのようにもぞもぞと身を捩る庵がクッソ可愛い。


「……」


 ゴクリ、と喉を鳴らす。


「にゃー、にゃー」


 ……猫か、朝から元気だな。


「ふごろろろろろろ」


 ……。


「ぶにゃー、ぶにゃー!」


 無視無視、畜生風情に関わってる暇はない。


「「ふぎゃああああああああああ! ギャフベロハギャベバブジョハバ !!」」


 ブチ、っと俺の中で何かがキレる音がした。


「うるっせえええあああああああ! 朝っぱらから盛ってんじゃねえぞ畜生どもが! ぶっ殺されてえのか!?」


 窓を開け外で盛っている猫たちに向け叫ぶ。

 何で朝っぱらからパコついてんだテメェらはよォ! 夜にやれ夜に!

 爽やかな朝を何だと心得てんだ。

 俺は猫だからって甘やかしはしねえぞ。喰らえ! デスビーム!!

 指先から気を放つが……あ、畜生! 避けやがった!?


「……」


 ん? 何か視線を感じ……ハッ!?


「……兄様も、猫さんのことはどうこう言えないと思います」

「いや違うね。俺はアイツらとは違う」


 俺の純然たる下心をあんな畜生どもと一緒にはしないで欲し――――


「正座」

「はい」


 言われるがままベッドに正座する。

 正直、辛い。アレがアレしたまま正座するって普通に辛い。辛いし醜い。

 パンツ一丁で頑張りマッスルしてる男が正座してるって絵面がもう地獄だわ。

 いやだが、こんな無様な姿を庵に見られるのは正直、興奮する。


「……兄様」

「庵、人の目を見て話すんだ。目を見れなくても身体ぐらいはこちらを向けるべきではないかね?」

「お馬鹿ッッ!!」


 フゥー! 庵のお馬鹿ッッ!! を聞くとゾクゾクするな!

 こう、怒り混じりの照れ顔がたまらなく興奮する。


「……まったく、何故、私の寝込みを襲うのですか」


 ちらちらとこちらに視線を向けつつ庵は説教を始める。


「言ってくれれば……その、いつでも……良いのに……」

「待て庵、よく聞いてくれ」

「はい?」

「俺は、お前の、寝姿に、興奮してたんだ」


 寝ている庵に悪戯するってシチュエーションが良いんだよ。

 いや、起きてる時のイチャイチャも大好きだがな。

 こう、いつもとは違う趣をね? 欲したわけですよ。


(庵にはそういうことしないから余計にドキドキするんだよね)


 マゾ気質のアーデルハイド、夜のトータルファイターアンヘルとは結構ディープなこともやってるけどな。


「色っぽいなんて話じゃねえ。たまんねえよ、あんなん我慢するの無理だって」

「い、色っぽいって……」


 顔を真っ赤にする庵。

 同年代の子供に比べるとかなり進んでるのに、この子は何時まで経っても初心だよな。

 そういうところも好き、大好き。大・大・大だーい好き! 声を大にして言いたいね。


「も、もう! もう!!」

「可愛いよ! 庵ちゃーん!!」


 ペンライトあったら残像発生するレベルで振ってるわ。


「……はあ、まったくもう」


 溜め息を吐きつつ、庵は立ち上がった。


 あ、これはお説教ですねと思ったがどうやら違うらしい。

 どういうわけか、庵は優しく俺の頭を胸に抱き寄せたのだ。


「もう、兄様は本当にしょうがない人ですね」


 少し恥ずかしそうに、だがとても穏やかな顔で庵はそう言った。

 何だろう、胸の内から、何かが溢れ出す。


(おお!)


 胸が熱い。


(これは)


 これは、


(ば、バブみ……!?)


 俺は今、新たな扉を開いた。

 扉の向こうから吹き抜けてきた涼やかな風に一瞬、目を閉じる。

 恐る恐る目を開けると、そこには新世界が広がっていた。


(ば、ば、バブゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!)


 完全に嵌ってしまった。

 性癖という名の沼に深く沈んでしまった。

 だけどああ、不思議と、春の午後にも似た爽快感が胸を満たしている。

 この道は、この性癖は、きっと間違いではない。

 庵ママ……ありだと思います。


(――――バブみを七つの性癖に加えよう)


 入れ替えだ。

 夏前に衣替えもしたし丁度良い。性癖も衣替えしとこう。


 それともう一つ、


(なあ、庵、俺、決めたよ)


 ちゃんとお前にもしっかり相談する。

 もし、お前が望むならその通りにするけどさ。

 俺の思う通りに進めて良いってんなら俺は――――


(エアコン購入は見送りってことで)


 エアコンがなかったからこそ辿り着けた今日だからな。




2.諦めなければ夢は必ず叶う


 俺と庵は昼間から営業している公衆浴場――日本人的にはやっぱ銭湯だな。

 銭湯に来て汗を流していた。

 夏場はなー、どうしてもなー。

 夜にしっかり風呂入っててもさ。やっぱ客商売だしね。

 仕事前にも一風呂浴びておきたい……今日は特にほら……な?


「ふぅー……きたねえ富士山だなあ」


 湯船に浸かりながら、積みあがった男のケツを眺め感想を漏らす。

 昼間からやってる銭湯の客層というのはあまりよろしくない。

 朝帰りや、昼に仕事を寝る前にひとっ風呂を浴びるあんまり大っぴらに職業を公言できないような奴らをターゲットにしているからだ。


 女湯は風俗嬢とかの夜のお仕事やってるお姉さんばっかりで、こっちは存外気の良い人らばかりなんだが男連中はなあ。

 ヤクザかチンピラ紛いのカスばっかだから困る。

 絡まれたらブチのめす以外に選択肢ねえんだもん。


「女湯行きてえなー、俺もなー」


 ちなみにそんな少々危ない場所だが、庵の身の安全には気を遣っている。

 具体的には何かあれば俺が今首から提げている紫水晶。

 こいつは前に頼んだ俺の変身アイテムなんだが、割と多機能なのだこれ。

 複数ある機能の一つに防犯アイテム的な効果があり庵の身に何か起きた場合がこの水晶が紅く染まるようになっている。

 いざとなれば女湯の壁ぶち抜いて助けに向かうぜ、俺は。


「あ、あんちゃん……」


 ふと、ケツの山から一人の禿が這い出て来る。

 俺がボコった内の一人で、全身に刻まれた傷を見るに多分ヤクザ者だ。

 冒険者って線もあるが、柄の悪さがな。

 冒険者も大概、野蛮な職業だが、それゆえにマナーの良さが求められる。

 安いチンピラに仕事回して依頼主の信頼を損なうような真似はギルドとしても避けたいからな。


「か、かなりやるじゃねえか」

「俺がやるってよりアンタやそこのカスどもが雑魚いだけだよ」


 ちょっと小突いてやったら漫画みてえな愉快な吹っ飛び方するんだもん。

 頭から落ちた奴を見た時は腹筋捻じ切れそうになったわ。


「言ってくれるぜ……どうだ、うちの組の用心棒にならねえかい?」

「ならねえよ。善良な一般市民をアウトサイダーなお仕事に誘うなや」

「善良な一般市民……?」


 おやおや、どうしたのかねこの禿は。怪訝な顔しちゃって。


「あんまり舐めたこと抜かすとリアル人柱にして一軒家建てんぞオラ」


 俺に流れる大工の血を解放しても良いんだぜ? んん?


「ぜん……りょう……?」


 善良じゃろがい。

 いきなり喧嘩売られて気絶させる程度で済ませてやったんだぞ。

 良かったな、今日の俺は紳士的で。

 イラついてたら半殺し確定だ。

 半殺しにした後、全裸で外に放り出して豚箱行きにしてやったさ。


「あんちゃんどう考えてもこっちの人間だろ」

「だからちげーって」


 わっかんねー奴だなあ。

 ああでも、ヤクザ者ならちょっと聞きたいことがあったわ。


「ようオッサン。何か最近どうも、日の当たらない場所が殺気立ってねえか?」


 スラムや大人向けの歓楽街。

 そのあたりを歩いていると、結構な頻度で絡まれるのだ。

 特にスラム、流れ者がまた一段と増えたような気がする。

 だから俺も庵がスラムに行く時は必ず着いて行くようにしてるし。


「ん? ああ……まあ、上のゴタゴタがな」

「上?」

「第一皇子と第二皇子さ」

「何で皇族が……ああいや、そういうことか」


 俺もゴシップ誌で得た情報ぐらいしか知らんが、

 第一皇子と第二皇子が次期皇帝の最有力候補らしい。

 他にも第二皇女が他派閥をまとめて対抗しようとしてるらしいが……まあそっちは置いておこう。


 問題は派閥闘争だ。

 派閥闘争に利権はつきもの。

 で、利権ってのは何も表沙汰に出来るようなものばかりではない。

 むしろ、表に出せないようなのが多いだろう。

 集まって来る人間も同じ。公権力と密接に結び付いた裏社会の連中は相当数存在する。

 天覧試合でも凶衛の奴が皇子との関係を匂わせてたしな。


 あれ? ひょっとして俺皇子に恨みを買ってるんじゃ……いや、大丈夫だよな。

 凶衛みてえな小物が一人殺られたところで何だってんだ。

 きっと大きな心でスルーしてくれる――ってか、そもそも眼中にないか。

 面子潰されたって行動起こすんならもっと早くしてるだろうし。


「そういうこった。皇帝の目が厳しくて表立って行動に出られねえらしくてな」

「代わりに裏でってことか? しかし、なっちゃいねえな」


 そりゃ重要な人物は表で見かけることはないだろうさ。

 だがそいつらの下に居る連中は別だ。

 今溢れかえってるカスどもは正直、表社会的にも裏社会的にもカスとしか言いようがない。

 下の人間を見れば自ずと、それを統率してる上の人間の質も見えてくる。

 正直、使える連中が集まってるかは怪しいな。


 そう俺が指摘すると禿はニヤリと笑った。


「まったくもってその通り。ボンボン兄弟は陛下に比べるとどうもな、下手糞なのさ」

「ほう……それはまた」

「鼻が利いて、尚且つ力のある連中はヤサを変えることも視野に入れてるらしいぜ」


 中途半端にデカいが、そこまで力のない。

 つまりは帝都を動けないような連中は渋々付き合ってんのか。

 だから使えねえカスばっかりが集まって来てると。

 一般人からすりゃ迷惑な話だぜ。


「ちなみにオタクはどうなのよ?」


 こんな場末の銭湯で一般市民にボコられたヤクザ者。

 期待は出来ねえなあ、と笑ってやると禿は苦笑いを浮かべた。


「痛いとこを突きやがる……まあ、中堅どこだよ。

あんちゃんに絡んだのはちょいと苛々してたからだ。

つかあんちゃん、よく見れば……ひょっとしてスラムに出没するあの妖怪……?」


「誰が妖怪だ」


 むしろ真逆、天使だろ俺。

 馬鹿を穏当な手段で大人しくさせてる俺はもっと褒められても良いだろ。


「はは……しかし、ホントにカタギなのか?」

「アンタもしつけえなあ」

「カタギにしちゃ、鼻が利き過ぎる。普通のパンピーなら俺と会話が成立するもんかね」


 パンピーだよパンピー。

 少なくとも現世では、由緒正しい大工の家に生まれた善良な男の子さ。


「それより、だ。何時まで続くよ?」


「月末ぐれえから本番って感じだが……そうさなあ。

八月の十日ぐらいからは落ち着き始めて下旬には何時も通りの帝都になってると思うぜ」


 そりゃまた早いな。

 ああいや、なっちゃいないボンボンだからか。

 真面目にやるのも馬鹿らしいし裏じゃ既に皇子二人を除く当事者間で落とし所を決まってるのかもしれん。


「色々ありがとよ。何かあったら一回ぐらい力貸してやるよ」

「はは、そいつぁ良いや。期待してるぜ」


 オッサンに手を振り浴場を後にする。

 脱衣所でもケツジェンガが積みあがっているが無視無視。

 直視すると折角の良い気分が台無しになっちまうからな。


「あ、兄様」


 男湯を出たところでバッタリ庵と出くわす。

 どうやら良いタイミングで風呂を上がれたらしい。


「気持ち良かったか?」

「はい! とても」

「そうかそうか。んじゃ、牛乳買って飲みながら帰ろうぜ」


 番台で二本、瓶牛乳を購入し俺たちは銭湯を出た。

 じりじりと降り注ぐ日差しが若干鬱陶しいが風呂上りだからそこまで気にはならない。

 汗かいても、どの道今日も仕事だからな。

 仕事終わりにまた風呂に行くから問題はない。


「はー……しかし何だ。夏だし、旅行にでも行きてえなあ」

「旅行、ですか?」

「うん。海とか山とかでリフレッシュしたい」


 具体的にはさっき禿が教えてくれた期間、帝都を出たい。

 バーレスク周辺は寂れてるが、それでも何が起こるか分かんねえしな。


「あの、里帰りなどはなされないので?」

「何で?」

「何でって……兄様、一月に郷里を出て帝都に来たのでしょう?」

「うん」

「兄様のお父様も心配してるでしょうし、ここらで一度顔を見せるべきなのでは?」

「心配、ねえ」


 してるかなあ。

 いや、工具箱の一件でも分かるように気遣いの男ではあるけどさ。

 でもそれ以上に雑なとこもあるからなあ、あの親父。


「むしろ帰って来られた方が困るんじゃねえかな」

「え……それは何故?」

「女連れ込めなくなるから」


 故郷で俺が住んでた家は親父が建てたものだ。

 しかし、親父が祖父さんらと暮らしてた生家も別にある。

 俺は知っている、親父が女を連れ込む時はそっちの家を使っていたことを。

 多分、教育に悪いとか思ったんだろうな。

 でも、今は俺も家を出てるし誰に気兼ねすることもなく今住んでる家を使える。


 と、そんな説明をしてやると庵は呆れたように溜め息を吐いた。


「親子ですね」

「照れる」

「褒めてませんッッ!!!」


 微笑ましい会話をしながらバーレスクへ戻った俺は、中に入る前に備え付けのポストの中を覗き込む。

 伯父さんがあんなだから、よく怪しいチラシとか入ってるんだよなあ。

 最近は俺がいるから減って来てはいるが、そろそろまた溜まって……おや?


「俺宛の封筒?」


 邪魔なチラシやら詐欺臭え手紙を炎気で灰にしつつ封筒を手に取る。

 差出人は……これ、俺が定期購読してるエロ雑誌の編集部じゃん。


「中身は――おお!」

「どうかしましたか?」

「懸賞だよ懸賞!!」


 おー、応募したの春先だったからすっかり忘れてたわ。


「見ろ! ダグーンビーチ、七泊八日の宿泊券だ! 海だぞ海!!」

「おぉ……兄様、良かったですね」

「おうとも! しかもこれ、ほら。同行者は十名まで可だって!!」


 俺、アンヘル、庵、アーデルハイド、伯父さん、シャル、全員で行けるぞ。

 しかも日程が丁度良い。八月頭からだから、丁度面倒な時期の帝都を離れられる。

 ううむ、これは嬉しい。やっぱ日頃の行いって大切だなあ。


「皆さんで行けるんですか?」

「勿論!」

「わあ」


 目をキラキラさせる庵がクッソ可愛い。

 だが、俺も庵に負けじと目を輝かせている自信がある。

 海、海だぞ。海と言えばそう――――水着だ。


(くふ、クフフフ……)


 アンヘルは白だな。

 ビキニでもワンピースタイプでも映えると思う。

 水着でラーブラーブ(意味深)するのが今から楽しみだ。


 アーデルハイドは色は黒。

 水着のタイプはビスチェとかクロスワイヤーが結構似合いそうだ。

 水着ックスをするのが今から楽しみだ。


 そして庵は、


(色は一先ず置いといて……)


 マイクロビキニ、どうだろう?

 バインバインの女の子がマイクロビキニを着ればそれはもう凶器だ。

 しかし、小生は思うのです。

 つるぺたーんなロリが着るマイクロビキニもまこと、良きものであると。

 だがしかし、ロリだからこその水着も捨て難い。


 そう、王道を往くスクール水着である。

 マイクロビキニも良いが、他の奴らに見せたくねえしな。

 それならスクール水着のが良いかもしれぬ。


(問題は、この世界にスクール水着が存在しないことだが……)


 それが、それが何だと言うのだ。

 最早俺の脳内はスク水一色。スク水を食べるまで収まることは知らぬと思え。

 ないなら、ないなら作れば良い。

 俺は大工の息子――物作りの熱い血潮が俺には流れているのだ。


 え、手作りでスク水を!? 出来らぁっ!


 本気を出せばやってやれないことはない。

 縫製だって今から必死こいて頑張れば身に着けられるかもしれんだろ。

 やる前から諦めるなんてダサい真似はご免だぜ。

 作ってやるよ、俺の、俺だけの、俺のためのスクール水着を。


「諦めなければ夢は必ず叶ぁああああああああああああああう!!!!」

「兄様、どうしたんです? 暑さで頭がやられましたか?」

「失敬な」


 ――――んん?


「兄様?」


 俺、懸賞送ったけど……応募したの高級な肉の詰め合わせとかだったような……?


「気のせいか」


 大事なのはスク水だスク水。よーし、パパ頑張っちゃうぞー!!

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