反撃③

1.カール・ベルンシュタイン~テロの流儀~


 カノッサの屈辱よりも惨いシャルへの仕打ちに俺はかける言葉を見つけられなかった。

 だが身体というのは正直なもので痛い沈黙の中、盛大に腹が鳴ってしまい一先ず食事をすることと相成った。


「つーか、お前の隠れ家食堂まであんのかよ」


 どうやらここはゾルタンの隠れ家らしく大っぴらには出来ない私的な研究を行うための場所なのだとか。

 その割にはやたら広くて部屋数も多いし食堂まで完備してるのはどういうことなんだ。


「信の置けるキチ……んん、研究熱心な部下の子達を招いたりもするからね」

「……情報の漏洩は大丈夫なのか?」

「問題ないよ。あの子ら権力者が大嫌いだから」


 お前、確か国立魔法研究所の所長やってるんだよな? 公務員だよな? 立場的に。

 そんなお前の部下が権力者が嫌いって。


「ちょっと予定の予算を超過したぐらいでガミガミ言うし納期を破ると怒鳴り込んで来たりして姑より鬱陶しいんだってさ」

「悪いのそいつらじゃねえか」

「うん、僕もそう思う。ただまあ優秀なアウトローだから僕んとこの子達は」


 世も末だな……。

 俺がこの国の未来を憂いていると風呂上りの親父が食堂にやって来た。


「お、目ぇ覚めたんか」

「軽い……軽くない? 可愛い息子が意識不明の重態からようやっと目覚めたんだぞ」

「おめえがこれぐらいのことでくたばるタマかね。兄貴、キンキンに冷えた酒を頼む!!」


 キッチンに居る伯父さんにオーダーを飛ばす親父。

 兄貴は働いてるのに弟は……やはりジャギ様理論は正しかったわけだな。


「で、お前さんこれからどうするんだよ? ああ、報復するのは分かってるぞ。その手段だ」

「とりあえずこの国潰して俺の国を作ろうかなって。大帝カールになっちゃおうかなって」

「マジでか。大工の家系から皇族になるとか温度差激しすぎて風邪引きそうだぜ」

「自分で考えといてアレだが御先祖様もびっくりだよな」


 庶民の血統がいきなり貴き血に変わるわけだからな。


「ま、しばらく窮屈な暮らしさせちまうが我慢してくれや」

「おう。だがまあ、なるたけ早く皇帝になってくれよ。俺も溜まってる仕事があるからな」

「おいおい、俺が皇帝になっても大工続けるのかよ。死ぬまで遊んで暮らせるんだぜ?」

「バーカ。メリハリがないと人生に張り合いがねえだろ。真面目に仕事するからお姉ちゃんとも楽しく遊べるんだよ」


 生涯現役だと胸を張る親父に俺は思わず笑ってしまった。


「ああそうだ。アンヘル達にはもう言ったんだけどさ」

「ん?」

「俺、前世の記憶があるんだよな。いや記憶っつーか……俺視点ではずっと意識は連続してるみたいな?」

「ほーん? すげえな」

「それだけかよ」

「お前は俺の息子で、俺はお前の親父だ。それ以上に何があるよ?」

「……そうだな。親父は親父だし、俺はあんたの息子だ」


 俺にとって親父はずっと親父だが、親父からすれば……なんて思ったが親父はやっぱり親父だったな。


「ああでも、赤ん坊の頃から意識があるってんなら……母さんの顔も覚えてんのか?」

「覚えてるよ。一発ギャグかまして死んだ面白母ちゃんの顔は一生、忘れられねえよ」

「そうか。なら、アイツも喜んでるだろうぜ」


 シャルが運んで来た酒をぐいっと一気飲みし、親父は笑った。

 ……改めて、無事で良かったと思う。

 ここでも親を殺されてたら、と考えるとぞっとする。


「…………注文の品だ。しかし、病み上がりの人間にこんなコッテリとしたものを出して大丈夫なのだろうか……?」


 伯父さんが俺の注文したピザやら何やらを持って来てくれた。


「大丈夫大丈夫。俺、若いから」

「そうなのか……? まあ、おかわりが必要ならまた言ってくれ。俺は厨房に居るから」

「ん、ありがとね」


 よし、早速食おう。そろそろ空腹が限界だったんだよな。

 サラミと茸とチーズがたっぷり乗ったピザに齧り付いた瞬間、全身に喜びが駆け巡った。


「う、うめえ」


 八俣遠呂智戦の後もそうだったが意識不明から回復した後の飯って堪らなく美味いんだよな。

 意識を失っている間は水か流動食ぐらいしか口に入れてなかったからだろう。


(このまま食事を楽しみたいが……)


 時間は有限だ。食べながら少しでも計画を詰めていくべきだろう。

 実際に動くのは俺の即位発表と宣戦が終わってからになるが準備はしなきゃだしな。


「ゾルタン。帝国で一番、力のある貴族ってのは誰だ?」


「ん? 北方のローゼンハイム大公だね。大昔に皇族の一人が興した分家で家格として最上位で土地も良い。

彼の領地は大規模な穀倉地帯もある関係でかなり栄えてるんだ。君も商業都市ヴァレリアの名前ぐらいは聞いたことあるだろう?」


 頷く。帝国の地理を全部把握しているわけじゃないが大きな都市の名前ぐらいは知っている。

 ヴァレリアは第二の帝都とも称される都市だ。

 まあ知ってるのは名前ぐらいでそこを誰が治めてるとかは知らんかったが。


「そいつの派閥は?」

「第二皇子の閥だね。派閥の筆頭で第二皇子が帝位を握れば宰相の地位は固いと言われているよ」


 なら集中的にイジメるのは第二皇子の派閥だな。


「……仲間割れを起こさせるのかな?」

「流石参謀。俺の考えはお見通しってわけか」


 皇子らが歩幅を合わせられているのは両派閥の力が拮抗しているからだ。

 均衡を崩してやれば内部に火種を作ることが出来る。

 そうすることで足並みを乱し、動きを鈍らせてやろうってわけだな。


「これぐらいは子供でも分かるよ。しかし、大公は今帝都に詰めているはずだ。その首を獲るのは容易じゃ……」

「あれだな、ゾルタンには卑劣さが足りない」


 そりゃ頭を潰すのがベストだが手足を千切るだけでも十分、効果は出るんだぜ?


「ヴァレリアに奇襲をかけてまずは大公の親族を皆殺しにする。その後は大公軍の指揮官だ。

まとめ役を殺しまくれば後は烏合の衆よ。雑兵を幾らか残酷に殺してやりゃあ蜘蛛の子散らしたように逃げ出すだろうぜ」


 そうすりゃヴァレリアは陥落したも同然だ。


「いやいやいやいや! 簡単に言うがそう都合良く出来るわけがないだろう?

奇襲って多分、僕らの転移を利用するんだろうが不可能だ。

君は知らないだろうが帝国の主要都市、軍事拠点には魔道防衛システムが存在する。転移は封殺されて……」


「システムとやらは知らんけど直接転移が出来ないことぐらいは分かるわ」


 俺らは寡兵だがあちらさんもゾルタン達が自由自在に転移を出来ることぐらいは知っているはずだ。

 コイツらの転移を悪用すれば数の利は完全に覆せる。当然、向こうも対策は立てているだろうさ。

 それぐらいの予想も出来ないほど俺はアホじゃねえ。


「だが結界にも有効な範囲があるはずだ。結界の影響が及ばない高度に転移することは出来るだろ?」

「それはまあ、可能だがそこから何が出来るんだい? 魔道士による空爆は帝国の十八番だ」


 システムには対空迎撃も含まれているから地上に魔法を撃った時点でバレるとゾルタンは首を振る。


「魔道以外……例えば魔力も何もない岩を投下するとかも無駄だよ? しっかり防がれる」

「お前さあ、忘れてない? 俺は奇襲を仕掛けると言ったんだぜ?」


 システムに感知されてる時点で奇襲になってねえじゃん。


「空から落とすのは魔法でも岩でもねえ――――“人間”だ」

「人間……? いやだが……」

「論より証拠だ。ゾルタン、そのシステムに使ってる結界を張ることは出来るか?」

「え? ま、まあ出来るよ。今のシステムの開発には僕も関わってるしね」

「ならちょっとそれ展開してくれや。ああ、分かり易いように色か何かつけて視覚化してくれると助かる」


 席を立ち、ゾルタンから距離を取る。

 ゾルタンは首を傾げつつ結界を展開、俺と奴の丁度中間の距離に半透明の蒼い壁が出現した。

 俺はピザを齧りながらゆっくりと結界に近付き――“すり抜けた”。


「んな!? な、何故……? 敵意を感知する機能はすり抜けられるかもしれないが他の部分に……」


 俺は魔道防衛システムなんて名前は知らなかったが、そういうもんがあるだろうとは予想がついてた。

 魔道大国なんて呼ばれてる帝国だ。魔法を用いた防衛機構がないなんて考える方が不自然だ。

 そして詳しい原理は分からずとも、予想出来ることは多々存在する。


「システムにゃマナバッテリーが使われてるんだろ?」

「あ、ああ。緊急時には魔道士もシステムの維持に加わるが基本はね」

「広大な範囲をカバーするシステムだ。常時展開してたら幾らマナバッテリーがあっても足りんだろ」


 普段は停止してて戦時中にのみシステムを起動させる感じなんだと思う。

 が、システムを起動したつっても今言ったように常時展開してたらコストがかかり過ぎる。

 となると普段はスリープモードみたいな状態で簡単な網ぐらいしか張られていないと考えるのが自然だ。

 そしてその網に引っ掛かるものを感知した時、脅威の排除や防衛のためシステムが完全に展開するのだろう。


「どれだけの時間、展開しなきゃいけないかは状況によりけりだ」


 何週間もかかるかもしれないし、ほんの一瞬で済むことだってあるかもしれない。

 となればどこかでコストを削る必要が出て来る。

 ならどこを削る? 網――より正確に言うなら展開のために設定された条件だ。

 例えば鳥。空を飛ぶ鳥に反応して一々展開してたら直ぐ電池切れになっちまう。

 必要だと思われる条件だけを設定して簡単には展開出来ない仕組みになっているはずだ。


「だったらそこを避けて網の目を抜けてやりゃ良い」

「理屈は分かるが具体的に何をしたんだい?」

「生命力を限りなく零に近付ける、ようは仮死状態になったのさ」


 抜け道に使えそうな案の中で一番可能性が高そうなものを選んだのだ。

 ちなみに失敗してた場合はテヘペロ☆ で笑いを取る方向にシフトしてた。

 んで改めてゾルタンに結界の詳細を聞いて抜け道を検証するつもりだった。


「え、お兄ちゃん普通に歩いてなかった?」

「これは俺の経験則なんだが肉体的には完全に死んだ状態でも人間、根性があれば少しぐらい動けるんだよね」


 だって俺、前世で最後に心臓ぶち抜かれてからもしばらく気力で保たせてたからね。

 なら仮死状態でも動けますよそりゃあ。


「……人間を阻む判定も織り込んでいたんだが死体は人間と見做されないのか?

いや完全な死じゃない。あくまで仮死状態だ。生命力は完全な零じゃない。限りなく零に近いが存在する。

誤動作を起こして鳥なんかの人間以外の対象を選別する判定になったのか?

そっちは生命力の多寡で判断しているからすり抜けられても……もしくは複数の判定をどれも微妙にすり抜けたことで意図せず穴が出来た?」


「はいはい、検証は後にしてくれ」


 パンパンと手を叩いてゾルタンを現実に引き戻す。


「今俺が使ったのは最強無敵流に伝わるドッキリ奥義の一つ、死んだ振りだ」

「まんまですね……というか兄様、それは武術の奥義なんですか?」

「俺に言われても困る」


 兎に角だ。


「俺に使えるってことはジジイは当然として明美もシャルも使えるわけだ」

「ああ、あたしもその手の技は修めてるよ」

「私はそういう技はないけど……まあ、やり方を教えてくれたら出来るだろうね」

「というわけで俺ら四人が奇襲要員だ」


 転移で大公の身内が住まう屋敷なり城なりの超上空に転移。

 夜の闇に紛れてシステムの判定を受けないラインまで自由落下して仮死状態を解除して突入。


「あとはさっき言った通りだ」

「ねえカールくん、確かに奇襲で一時的にヴァレリアを陥落させて都市を奪えるかもしれないけど維持するのは少し厳しいんじゃない?」


 実力者揃いだから防衛は可能かもしれないけどそれで手一杯になってしまい他に手が回せない。

 アンヘルの指摘は正しいように思えるが、


「別に維持する必要はねえさ」

「え、でも……」

「最終的にゃ大所帯になるが今の俺らは寡兵だ」


 ただ勝つだけなら別に寡兵のままでも良いが皇帝になる以上、民意が必要だ。

 そして民意が集まるということは数が増えるということでもある。

 そうなりゃ動きも大分、鈍くなってしまう。


「寡兵の強みは何だ? 身軽さだよ。ヴァレリアを陥落させたら直ぐに次だ。

あっちが対策を打つ前に第二皇子の派閥に属する貴族の本拠地をヴァレリアと同じやり方で落とせるだけ落とす。

一箇所だけなら身内を大量に殺されてもと大勢にゃ影響は出ないだろう」


 だが一つだけじゃな十なら 二十なら?

 貴族社会において血縁は重要だ。殺された身内の中にゃ他所から嫁いで来た女も居るだろう。影響はドンドン広がっていく。


「中には後継者を本拠地に残してる奴も居るだろう。全員が全員、本拠地を空にして帝都に詰めてたら領内の問題に対処出来ないしな」


 さあ大変だ。やらなきゃいけないことがいっぱいだぞ。どうする?

 更に混乱を加速させるなら都市も荒らすだけ荒らした後で火付けをして逃げるべきなんだが……そうすると民意がね。


「この策の何が素晴らしいかって種が分かってても対処が難しいことだ」


 システムを弄る? そう簡単に複雑な防衛システムを弄れるものなのかね。

 魔道研究の権威であるゾルタンは居ないし、ゾルタンを慕う連中も非協力的だろう。

 強硬姿勢――人質なり何なりでで無理矢理やらせるか? そりゃ悪手だ。

 そんなことをして気付かれないようにシステムに致命的な欠陥でも仕込まれたらどうするよ?

 帝国の心臓とも言えるシステムに手を加えるのなら慎重に慎重を期すべきだ。

 なら自分達に協力的なものだけで? どれだけ時間がかかるの?


「となれば俺らに対応出来る実力者を派遣するのが現実的な手だが皇子二人が派遣を許すかは怪しい。

帝都から実力者を吐き出すってことは帝都が同じ手段で狙われた際の危険度も跳ね上がるからな」


 仮に皇子二人が認めたとしても問題がある。


「どこも自分とこに来て欲しいだろう。そうなると第二皇子は優先順位をつけなきゃいけない。

いいや、それ以前に第一皇子の派閥に属する連中が声を上げるかもな。

連中も馬鹿じゃない。これを対岸の火事だとは思わんだろう。

今狙われてるのが第二皇子派閥だが自分とこだって襲われるかもしれんわけだしな。

既に襲われたとこよりまだ無事な自分達を優先しろってなるのも不思議じゃない。

そして同じ第一派閥の中でもどこに行かせるかで紛糾するだろう」


 こうなればもう派閥も糞もない。

 ひたすら自分の利を守ろうと足の引っ張り合いが始まる。中にはこっちにつこうなんて考える裏切り者も出て来るかもな。


「大局を見られる奴も当然、居るだろうがそいつらが動くのも難しい」


 慌てふためく連中を鎮めようと思ったら相応の利益が必要になる。

 が、その利益はどこから持って来る?

 これが国家同士の争いなら奪った領土なり金銀財宝を与えてやりゃ良いが俺らから命以外の何を奪える?

 俺を人質にしてアンヘルとアーデルハイドという強大な戦力を意のままに使えるかもしれんが、そんな状況になりそうなら俺は自殺を選ぶ。

 伯父さんを人質にシャルを? 伯父さんは非戦闘員だし隠れ家から動かすつもりはない。

 それに危なそうなら葦原に逃がすつもりだからな。

 俺は一つたりとて奴らに益となりそうなものを渡すつもりはない。


 じゃあ皇子や大局を見られる連中が身銭を切るか?

 ある程度の被害ならまあ、足場を固めるための必要経費だと割り切れるだろう。

 だが俺が与える被害の度合いによってはそうもいかなくなる。

 被害者達が納得のいくレベルで補填をしようってんなら素寒貧になっちまう。

 身銭を切るにしても慎重にやらないと逆に悪化する可能性がある以上、迂闊なことは出来ない。


「その間にこちらは陣営を肥え太らせていくというわけですね?」

「そうだ。皇子とその傘下に居る連中が揉めているのを見れば中立の貴族は間違いなくこっちに就こうとする」


 今更皇子らに協力を申し出ても、毟り取られるだけだ。

 優遇しようものなら最初から協力している自分達を差し置いて何事だと不満が出るからな。

 更に皇子達に協力するってことは俺の標的になるってことでもある。損しかない。


「まあ、俺に味方する振りをしてって展開もあり得るから味方に引き入れる奴は選ぶ必要があるがな」

「そして貴族がカールくんに味方をし始めれば民衆も、だね?」


 俺らが正しいんじゃないのか?

 こっちにつけば成り上がれるんじゃないか?

 様々な思いが民衆を突き動かすだろう。


「おうとも。アイツらは利益を示せないが俺は勝利すればと但し書きはつくが利益を出せるからな」


 取り潰した家の財産。能力があるなら貴族の位を用意してやっても良い。

 特に得るもののないあちらと違ってこっちは奪えるものは山ほどあるのだ。


「そして新帝国軍としての体裁が整ったところで帝都に攻め入ることを大々的に布告する。決戦だな」


 奴らは受けざるを得ない。

 下手に分散するとただでさえガタついてる結束が更にガタつくことになるからな。

 一番勝率が高い正面からの決戦を受け入れるしかないのだ。


「状況によってその都度、微調整は入れてくがこれが俺の大まかな指針だ」


 一見すれば良いことだらけのように思えるが懸念も当然、存在する。

 一番大きいのは他国の介入だな。最初は静観するだろうが長引けば間違いなく仕掛けて来るだろう。

 国家ってのはそういうものだ。だから俺らもなるべく早くケリをつけねばならない。


「…………カールくん、一つだけ確認したいことがあるんだが」

「何だよゾルタン」

「君は、皇帝になると言った。それは内乱後もその命ある限りこの国を背負い続ける覚悟を決めたということで良いのかな?」

「当たり前だろ」


 やると決めた以上、俺なりのやり方で筋は通すさ。

 俺がそう答えるとゾルタンは瞑目し、深々と息を吐いた。


「君ならそう言うとは思っていたがしっかり言葉にしてもらいたかったんだ」

「満足かよ?」

「ああ。安心してこれを託せそうだ」


 首を傾げる俺にゾルタンは宙に展開した魔方陣から何かを取り出し、俺に差し出した。

 何だこれ? 判子? にしてはやけにゴテゴテしてんなあ。

 などと考えていると視界の隅でアンヘルとアーデルハイドが驚愕に目を見開いているのが見えた。


「「……玉璽?」」

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