大帝カール⑫
1.ホントに気持ち悪いなお前
「正当なる王の帰還だァ!!」
「カール皇帝陛下ばんざぁああああああああああああああああああい!!!!」
「カール! 大帝カール!!」
帝都に入った俺達を凄まじい歓声が包み込む。
まあ、最初に声を上げさせた連中はこっちのサクラなんだがな。
日本人に限らず人間ってのは流され易い生き物だ。
前提としてある程度、支持があるのなら同調圧力を利用してやれば方向性は容易に定められる。
(しかしまあ、何だ)
不敵な笑みを浮かべて歓声に応えながらゆっくり馬を進ませてるんだが……少し、まずい。
自分でやっといて何だがこの盛り上がり。今直ぐ素っ裸になって踊り出したい。おどけたい。すっごくおどけたい。
俺の中にある芸人ハートがうずうずしてやがる……!
「庵、お兄ちゃん絶対馬鹿なこと考えてるわよ」
「ええ。ふざけたくてしょうがないという顔をしています」
「真面目にやってれば二枚目なのに何で頑張れないのかな」
「……まあ、そこが兄様の良いところでもありますし」
「お姉様達ほどじゃないけど庵もお兄ちゃんに甘いよね」
聞こえてるぞテメェ。
それはさておき、アンヘルとアーデルハイドはすげえな。
笑顔で小さく手を振ってるんだが実に様になってる。こう、育ちの差をひしひしと感じるよね。品があるもん。
あんな美人に笑顔で手ぇ振られたら男どもはコロっといっちゃうよね。分かる分かる。
「む」
群衆に紛れているこちらの手の者から合図が届いた。
どうやら帝都に残ってたアホどもは一人残らず捕縛出来たようだ。
流石、腐った権力者を暗殺して世直しをしようなんて考えてる組織の人間だけはある。
(……俺も親衛隊とは別に影での働きを専門にした部隊を作らんとなあ)
そんなことを考えながらたっぷり時間をかけて俺達は城に入った。
遠目でしか見たことのなかった場所に入れるのはちょっとテンション上がったが、見学してるような暇はない。
「陛下、まずはシステムを掌握しよう。この国の心臓だから今回は権利を譲渡してっていうのはなしだよ」
「分かった、案内を頼む。アンヘル、アーデルハイド」
「任せて。こっちはこっちでしっかりやっておくから」
「システムの掌握が終わったら執務室で待っていてください」
「おう」
ゾルタンの先導に従い地下へと向かう。
どうやら中枢は地下にあるようだが……かなり深いところにあるらしい。
何かロボットアニメの秘密基地みてえだと思った。
「少し待ってくれ。パスワードを入力するから」
何もない壁の前で一旦立ち止まると壁面に光のタッチパネルが浮かび上がった。
何か近未来的でますます秘密基地っぽいな。
「転移でぴゅんてわけにはいかんのけ?」
「いかんでしょ。この国の心臓部なんだから……っと、これでよし。ここからはエレベーターだから」
マジで秘密基地やん。
エレベーターで降ることしばし、ようやっとシステムの下まで辿り着く。
広い地下空間の中心には巨大な天球儀みたいなものが浮かんでいる。多分、あれが心臓なんだろう。
「陛下、その端末に玉璽を」
「分かった」
地面から生えて来た端末に玉璽をセットする。
「三十分ぐらいそのままそこでじっとしていてくれ」
「あいよ」
言うやドーム状の魔方陣が俺を包み込んだ。
一つ二つじゃない。何千もの複雑な式が流れる様は圧巻の一言だ。
「ようゾルタン、何か言いたいことがあるんじゃないのか?」
素人目には分からん複雑な作業を幾つもこなしているゾルタン。
その手に淀みはないがどこか、歯にものがつまったような感じがする。
なのでこちらから話を振ってみたのだ。
「…………本当に君は人をよく見ているね」
「まあな。ああ、話したくないなら無理に話すことはねえぞ」
何かあるなら相談に乗ってやろうかなと思ったが無理強いするつもりはない。
俺がそう告げるとゾルタンは少しの逡巡の後、こう切り出した。
「……僕なりに色々調べた後で話すつもりだったが……うん、君の見解も聞かせてもらいたいし御言葉に甘えさせてもらうよ」
「ああ。で、何があった?」
「陛下に任された馬鹿息子二人を拘留していた際にね、彼らから聞き捨てならない言葉を聞いたのさ」
「……ほう」
「曰く、先帝陛下はカール・ベルンシュタインを皇帝にしようと考えていたとのことだ」
「! それ、は」
「ああ。元々臭いとは思っていたけど、皇子二人の愚行に端を発するこの戦争はやはり先帝陛下の思惑通りだったと証明されたわけだ」
……となると、となるとだ。悪役令嬢もグルだと考えるべきだろう。父のこと、わたくしのこととか言ってたしな。
奴は最初から皇帝と結託してて悪役令嬢はこの戦争を通して俺の力を試していた。
中途半端な策謀しか巡らせなかったのはなるべく帝国の国力を落とさないように気をつけていたから。
そう考えれば納得がいく。
「しかし、皇帝は何のために……?」
俺を皇帝にしようという意図が分からない。
実は奴の落胤だった――とかはないだろうな。全然似てねえし。
「……僕は戦う王を求めていたんじゃないかと思っている」
「戦う、王?」
「これまでの君の行いを振り返ってみると良い。君は先頭に立ち皆を率いて戦って来た。帝国でも、葦原でも」
「それは……」
「今だから言うけどね。どうしてかは分からないが先帝陛下は葦原での仕儀を把握していたようなんだ」
葦原でのことを知っていたから俺が戦う王としての資質を持っていると判断したのか?
だが一体何と戦わせようとしてるんだ? そう疑問を抱いた時、脳裏にある言葉がよぎった。
『ええ、これは魔王の力ですもの』
魔王。御伽噺ぐらいにしか出て来ないファンタジーな存在。
悪役令嬢の言葉に嘘がないのなら――……。
「……ゾルタン、俺からも伝えたいことがある。後で検査を頼むつもりだったんだが」
言いつつ俺は未だ心身に深く溶けている魔王の力を発露する。
六対十二枚の翼が大きく広がり、ゾルタンの目が大きく見開かれた。
「それ、は……あの異形の……」
「そう、大元の力だ。これはどうやら魔王とやらの力だそうでな。悪役令嬢が最後の切り札としてこの力を俺に注ぎ込んだんだ」
「……毒、なのか?」
「多分。ただ俺には効かなかった。これは奴も予想外だったようで困惑してたよ」
「どこ由来か、なんてのは考えるまでもないか」
「廃棄大陸だろうよ」
人造神。局所的な重力崩壊を起こす兵器。魔法を無効化する謎技術。
かつてあの大陸に存在した文明は世界の最先端である帝国を遥かに凌駕している。
そんな文明が何故、滅びたのか。
「魔王なんて大層な名前が伊達じゃないなら……なあ? まあ魔王の存在を除くとしてもだ。
仮に廃棄大陸を覆っている嵐の結界が解除されたらどうなる? あそこに居る数も力も半端ねえモンスターどもが世界に溢れ出すってことだよな?」
それは紛れもなく世界の危機だろう。
こっちだとトップクラスの冒険者が対処しなきゃいけないようなのがゴロゴロ存在するからな。
だが強さもさることながら数だ。俺も修行で殺し捲くったがまるで減らなかった。
帝国だけじゃない。全ての国が全力で対処にかからにゃならんだろう。
「陛下」
「分かってる。国がある程度、安定したら廃棄大陸に調査隊を送る」
つっても生半な人材ではあそこでは生きていけない。
俺、シャル、アンヘル、アーデルハイド、クリス、ゾルタン。少数精鋭で乗り込むべきだろう。
「それとジジイにも話を聞かにゃな」
前に里帰りした時、ジジイは言った。
エルフ――ってより亜人は昔、名を記すことも憚れる忌々しい“何か”と戦っていたと。
あの時はさらっと流したが……今はちょっと、無視出来ない。
「つってもジジイはあんま情報持ってなさそうだから……」
「亜人のコミュニティに接触する、と?」
「ああ。無理強いするつもりはないが可能ならそうするべきだろう。亜人は長寿だ。俺達が知らない歴史を知っている可能性は高い」
「可能なら盟を結びたいが……まあ、あまり期待するとダメだった時のショックが大きいし高望みは止めておこうか」
「おう。それに盟云々っつーなら亜人よりも先に同じ人間同士でやっとくべきだろう」
全人類の意思統一なんてのは現実的ではないがいけそうなとことは手を結ぶべきだ。
「とりあえず外交では俺が直接、他国を訪れるわ。話が分かりそうなのを見極めたいしな」
「アズライール殿には?」
「話す。あのイケメンは話が分かるし出来る男だ。今ある情報は全部ぶちまけて引き込むぞ」
「葦原は君の影響力が強いから問題なく友好関係を築けるだろうが、他はどうするんだい?」
プロシア帝国改めベルンシュタイン帝国。
法の神を崇める神国ロウ
ヘルメス商業連合国
竜国ブリテン
ジラソーレ王国。
大陸には五つの国が存在して上三つが三大国家と呼ばれている。
ヘルメスは確定として、
「……ブリテンだな」
国力で言えばそう大したことはない。だが、あそこは戦士の国だ。
手を組むなら魔道大国である帝国との相性はバッチリだし、何より根性がある連中が多い。
世界を危機に陥れる強大な敵が相手でも一緒に中指をおっ立ててくれるであろうあそこを味方にしない手はない。
「ブリテンは確実に口説き落としたい。他は……正直、どうでも良いかな」
神国は国力で言えば二位だが対等な同盟は多分、無理だ。
第二位だから元々、帝国とは緊張関係にあったし生まれ変わった帝国の皇帝が俺みたいな小僧だからな。手を結べるとは思えない。
ジラソーレは……あそこは単純に戦いに向いてない国だ。
上から下まで穏やかな気質で平和ボケしたとこだから世界の危機だから協力してくれ! つっても難しいと思う。
「妥当なところだろうね。僕もその方針で動くとしよう」
「おう、頼むぜ宰相様」
「分かってる」
はぁ、と溜息を吐きながらもゾルタンは頷いてくれた。
コイツとしては研究職にのみ専念していたいんだろうが、俺が皇帝として立った時点でそれは不可能になった。
政治に疎いのならそのまま研究だけさせてても良かったんだがアンヘルとアーデルハイドの師匠だけあってコイツも万能の人だからな。
若い上に庶民の出である俺が皇帝をやるならナンバー2は絶対に裏切らない奴でないといけないわけだ。
ゾルタンもそれが分かってるから受け入れてくれた。俺に負い目があるってのも理由だろうけどな。
「まあでも、まずは内向きの仕事を片付けよう。一つ一つ仕事を片付けていっていずれは結婚式も挙げないとね」
「…………結婚式かぁ」
「嫌なのかい?」
「嫌ではないけどさぁ」
アンヘル達はもう俺の嫁さんだ。そこは揺るぎない。
だが改めて結婚式と言われると俺の独身はもう終わっちゃったんだなって……ちょっと複雑な気分だ。
「はー……この歳で所帯持ちかぁ。国家元首になるより気が重いぜ……」
「皇帝の椅子が軽過ぎるだろう……」
「そういや式ではお前がバージンロードの付き添いするのか?」
庵はまあ、葦原に居る爺やさんを呼んで歩いてもらえば良いだろうがアンヘル達はな。
親父はくたばってるし母親も――……そういや母親については聞いたことなかったな。
クリスのおっかさんはもう死んでるらしいがアンヘルとアーデルハイドの母親はどうなんだろう?
皇女であることをカミングアウトした後でも特に言及はなかったし、死んでるか生きてても縁が切れてんのかねえ。
「まあうん。僕は一応、三人の保護者だからね。お嬢様達が僕で良いと言うのならそうするつもりだよ」
「嫌とは言わんだろう」
口ではぞんざいな扱いしてるが三人共、結構ゾルタンを慕ってるし。
何なら本当の父親より父親らしい立ち位置だと思うわ。
「ただ、未婚の僕で良いのかと思わなくもないけどね」
「でも所帯を持つ気はないんだろ?」
「先帝陛下に操を立ててるからね」
気持ち悪い奴だなぁ。
「……いや待てよ? 御三方の親代わりということは実質僕と先帝陛下は夫婦に……? 僕はママだった?」
「ホントに気持ち悪いなお前」
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