ハートに火をつけて⑧

1.そんな服着てるお前が悪い


「なん……だよ……こりゃあ!?」


 デリヘル明美やティーツにとって拳銃は未知の武器だ。

 しかしそこは実力者、最初に放たれた二発の弾丸には見事に対応してのけた。

 そう、対応してのけた――はずだった。

 回避したはずの弾丸が突如、背後や側面から襲い掛かってきたのだ。


「跳弾って言ってな。上手い具合に当ててやりゃ、良い感じに跳ねてくれるんだわ」


 次々と弾丸をばら撒きながらカールが笑う。

 追加された弾丸も最初の二発同様、教会内を縦横無尽に跳ね回りながら二人を撃ち貫かんとしている。


「だからほら、お前らも踊れ踊れ。足を止めると当たっちまうぞー?」


 もしも二人が拳銃の存在を知っていたのであれば、

 未知の武器でなかったのならば、致命傷にならない部位に当たるようにして被弾しつつも突っ込んで来ただろう。


 だが、それはもしもの話。


 弾丸がただ当たっただけのダメージならば速度や硬度から推察すれば予想できないこともない。

 しかし、その他の部分がまったくの未知。

 何も考えずに当たって、猛毒を体内に仕込まれてしまったらどうする?

 殺意が薄いのでこちらを殺すつもりはないのだろうが、毒とは何も殺すことを目的にしたものだけではない。

 カールほどの実力者が何の勝算もなしに仕掛けてくるか?


 なまじっか考える頭があるから、二人は突破口を開けずにいた。


「おいコラ! ティーツ、お前が弾いたやつがこっちに来たぞ!!」

「そないなこと言われても知らんわ! 勝手に行くんじゃからしゃーないじゃろ!?」


 デリヘル明美は短剣で、ティーツは太刀を以って当たりそうな弾丸を弾いている。

 だがその弾いた弾丸ですら互いを狙う攻撃になってしまう。

 偶然か? いや違う。カールは完全に跳弾をコントロールしていた。


「クッソ……ますます欲しいなカール! どうだ、給料は期待して良いんだぞ!?」


 規則性がまるで見出せない弾丸の舞踏に翻弄されつつも勧誘は忘れない。

 カールが攻撃を仕掛けてきたことに文句を言わないのは彼女にも負い目があるからだろう。


「じゃからわしは素直に正面から訪ねよう言うたんじゃ……ちゅーかカールァ!!」

「あん?」

「子供を盾にするんは卑怯じゃろうが!!」


 二人が責めきれない要因のその二がすたすたと教会内を歩き回る庵の存在である。

 カールは一瞬たりとて足を止めず教会内を駆け回りながら弾丸をばら撒いているのだが二人に接近されそうになると必ず庵を前面に押し出してそれを阻むのだ。


「卑怯ではありません。私もまた兄様と共に戦っているのです」


 絶え間なく放たれ続ける弾丸のせいで教会内は酷い有様だ。

 常人ならば一歩動くことすら恐ろしく蹲って震えることしかできないだろう。

 だが庵は実に堂々と不規則に教会内を歩き回っている。

 恐怖などは微塵も感じていない。それは何故か。

 カールが決して庵を傷付けないと言ったから、その言葉を信じたからだ。


「俺が了承も取らずにこんな真似させるとでも?」

「言われてみればその通りじゃ!!」

「だろ?」

「うむ!」


 更に補足するならカールはデリヘル明美らの性格如何によってはこの方法は却下するつもりだった。

 庵の存在を利用した立ち回りは相手の良心があって、初めて成立するものなのだ。


 盾にされて近寄れない。

 自分たちが下手な動きをすれば庵に弾丸が当たってしまうかも。


 それらの懸念を捨て去ってしまえばこちらを制することは容易い。

 だが二人にはそれが出来ない。

 最初の会話でその確信を得たからこそカールはこの戦法を採用したのだ。


「うぉいカール! これお前、落とし所は!?」


 柄頭で弾いた弾丸が自身の額に飛来する。

 ティーツは仰け反るようにそれを回避しつつ、この一件の落とし所を問うた。

 何のかんの言っても幼馴染。

 ある程度のラインで妥協することは分かっていた。


「んー……当初の予定ではデリヘル明美のケツ穴にワイン流し込むつもりだったんだが」

「お、お前あたしにそんなことするつもりだったのか!? つーかお前どこ膨らませてんだ! へ、変態!!」


 カールは引き金を引く度にえもいわれぬ快感を覚えており、

 その逸物は隆々とそそり立っていた――たまらぬ射撃であった。


「るっせえ。カタギの人間にチョッカイかける似非義賊がナマ言ってんな」

「う……」


 デリヘル明美のことはよく知らない。

 だが幼馴染のティーツのことは嫌ってぐらいに知っている。

 彼が好きで行動を共にしているということはデリヘル明美も癖はあるが”良い奴”なのだろう。

 これまでの言動や行動からも、何となくそれは分かる。

 カタギ――庵にちょっかいを出したのは自分の力を測るため以外に私情もあったのかもしれない。

 だがそこはご家庭の事情ゆえ踏み入るつもりはない。


 何にせよカールは当初考えていた過激な報復を行う気は既になかった。

 というかデリヘル明美だけならまだしも、ティーツの存在は予想外が過ぎる。

 男のケツにワインを流し込むような趣味はないのだ。


「どうすっかなあ。何を落とし前にしようかなあ」

「普通に謝るんじゃ……あかんなあ!」

「あかんわ」


 謝るぐらいなら最初からやるな。

 謝罪の言葉を受けたらむしろ、逆に怒りが増してしまう。

 そして、そちらもそんな恥知らずな真似をするつもりはないだろう。

 カールはそう言って不敵に笑ったかと思うと急に真顔になってこう告げた。


「何か明確なビジョンもないまま、おっ始めちまったから俺自身どうして良いかわかんねえや」

「お、おおおお前そんなふわふわな感じで来たのか!?」

「いやだって……ティーツ居るとか予想外だったし……」


 居なければ多分、ケツ穴ワインはやっていただろう。

 デリヘル明美への好印象の大部分は幼馴染のティーツありきなのだから。


「ほんま、変わらんのうカールゥ! そういうとこやぞ!!」


 弾丸が掠めティーツの頬に紅い線が引かれる。

 手を緩めるどころか更に苛烈さを増す銃弾の檻は徐々に徐々に二人を追い詰め始めていた。


「どうしたもんか。普通に半殺し――――閃いた」


 突如、天啓が舞い降りた。


「ティーツ!!」

「ん? おお、そういうことか! ええじゃろ、やったるわ!!」


 デリヘル明美の身体の三箇所に視線を走らせ、ティーツの名を呼ぶ。

 流石は幼馴染、何を考えているか即座に悟ったようだ。


「オラァ!!」


 ティーツは隣にいたデリヘル明美の首を薙ぐように太刀を振るった。


「な……お、お前裏切る気か!?」


「この場においては侘びを入れることを優先したまでじゃ。

カールが何ぞ小細工しちょるようじゃが、いつまでもここに留まっとるわけにもいくまいや」


 ティーツはまだ手配書が出回っているわけではないがデリヘル明美は別だ。

 全国クラスのお尋ね者が一所に留まっているのはあまりよろしくない。

 ゆえにティーツはカールに協力してさっさと禊を済ませようとしているのだ。


 ちなみにティーツが口にした小細工というのはアンヘルに張らせた遮音結界のことだ。

 如何にスラムと言えど大声で暴れ回っていれば流石に目立つ。

 無関係な第三者の介入を嫌い、その手の結界を張るようアンヘルに頼んだのだ。


「カールをこの場で勧誘出来んかったんは残念じゃが、今日はこれで成果ありにしとこうぜ」

「いや、何時来ても乗る気はねえぞ」

「ガッハッハッハ! また今度じっくり話そうや!! 弊社の理念とか色々なァ!!」

「話聞かないよね、お前そういうとこだぞ」


 呆れつつもカールは既にティーツを銃弾の檻から外していた。

 ここからは二対二ではない、三対一の戦いだ。


「な、何だ……お前ら何が目的なんだよォ?!」

「何を考えているかは分かりませんが兄様の顔を見るにロクでもないことでしょうね」

「いやそれはあたしにも――え、兄様? アイツもあたしの甥っ子だったのか?」

「違う! プレイだ!!」

「お、おおおおお前、年端もいかない童女に何させてやがる!?」

「カールはそういうとこあるからのう」


 大上段から振り下ろされた太刀の一撃。

 デリヘル明美は後方に跳ぶことでそれを回避するが跳んだ先ではカールが待ち受けていた。

 放たれる殺戮刃、しかしデリヘル明美はこれも回避してのけた。


「チッ! 無駄に良いコンビネーションしやがって。だが残念、その程度じゃあたしにゃ届かねえよ!!」


 その言葉に悪ガキ二人はニヤリと笑った。


「いいや」

「届いたようじゃぜ」

「何……だと……!?」


「「目ん玉かっぽじって、よーく見晒せェ!!」」


 ビシッ! とその胸元を指差す二人。

 デリヘル明美は足は止めずに、二人の視線を辿り――愕然とする。

 レオタードの胸部分――もっと正確に言うと先端のあたりが綺麗に破れポッチが露出していたのだ。


「肉を傷付けずに布だけを斬り飛ばす……生半なことじゃなかった」

「しかもそうとは気付かれぬように、じゃからのう」

「だが」

「わしらのコンビネーションを以ってすれば不可能はない」


「「現に貴様は言われるまで気付かなかったわけだからなァ! グワーハッハッハッハ!!」」

「……」


 馬鹿笑いする二人は気づかない。

 庵が生ゴミを見るような視線を向けていることに。


「お、おおおおおおおま……おまえらぁ……!!」


 涙目で顔を真っ赤にし、両手で胸を隠すデリヘル明美。

 そう、彼女はこの手の性的な経験が皆無なのだ。割と良い歳をしているのに。

 知識がないわけではないし、悪党を殺す際に”そういう”ものを目撃したことはある。

 だが自身に向けられる性的な視線やアクションに対する免疫は皆無だった。

 獲るか獲られるか、真剣な命のやり取りをしていたなら無視も出来よう。

 しかしこの緩くお馬鹿な空間ではそれも難しい。


 尚、カールとティーツ、ドのつくアホ二人は至って真剣である。


「決めるぜティーツ!」

「おうさァ!」


 ともすれば凶衛を相手取っていた時よりも動きが洗練されているカール。

 そのカールに数段劣るものの、紛れもない実力者であるティーツ。

 その二人のある意味では親子兄弟よりも濃密なアホの絆、そこから繰り出される連携により徐々に追い詰められるデリヘル明美。


「今じゃカール、やれぇええええええええええええええええええええええええええ!!!!」

「な、は、離せティーツ!!」


 太刀を放り投げ背後に回り込んだティーツがデリヘル明美を羽交い絞めにする。

 デリヘル明美は瞬時に幾度も肘を叩き込むが、ティーツは血を吐きながらも拘束を止めない。

 だが物理的な限界というものがある。リミットは0.4秒。

 しかし、


「――――条件は全てクリアされた」


 カールにとっては十分過ぎた。


「頂きぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」

「あっ、や……ふぅんッ!?」


 ピッと伸ばされたカールの人差し指が、レオタード越しにデリヘル明美の割れ目をなぞる。


「フッ……またつまらぬものを斬ってしまった」


 はらりと、僅かに遅れてレオタードの布地が切り裂かれ大事な部分が露出する。

 これを以ってカールの報復は終了した。


「三日間、テメェにゃその格好を続けてもらう。

ああ、上からマントで隠すのは良いぞ。ただし破れたとこの修繕は不可な」


「だ、誰がそんなこと……!!」

「んー? 別に守らなくても良いぜ。落とし前をつける気が欠片もないってんならな」

「う、ぐ……」

「そん時は俺も素直に”そうかそうか、つまり君はそういう奴なんだな”で諦めるから」


 一時的にエーミール・ベルンシュタインに改名するのも吝かではない。

 などと意味不明な供述をするカールにデリヘル明美が食ってかかる。


「じゃ、じゃあティーツはどうなんだ!? コイツもあたしの共犯者だぞ!!」

「いや、わしはカールの性格的にあの子を利用するんは止めた方がええ言うたぞ」

「う、うううるさい! 止められなかったんだから同罪だ!! そうだろ!?」

「そうかもしれないが――司法取引って言葉知ってるか?」


 元々、友達だしこちらに加担した時点で借りはチャラにしてある。

 そうカールが告げると、


「ず、ずるい! ずるいずるい! ずるっこだ! お前ずるっこだぁああああ!!」


 涙目で駄々っ子のように叫ぶデリヘル明美を見て、庵がポツリとこう漏らした。


「……良い歳した大人のああいう姿見てると、何か色々どうでも良くなります」

「だよな」

「元凶が賛同しないでください」

「げん……きょう……?」


 カールは心底意味が分からないという顔で首を傾げている。

 そう、彼は自分が間違ったことをしたとは微塵も思っていないのだ。


「それより兄様、これで用は済んだわけですし行きましょう」

「お? おう……だが、良いのか?」

「良い、とは?」

「凶衛は実行犯で、お袋さんと庵を殺すよう命じた黒幕は別にいる――アイツなら知ってるんじゃねえのか?」


 ちらりとデリヘル明美を見やると、これまでの慌てふためいた様子はどこへやら。

 シリアスな表情でこちらを見返していた――右手で胸を、左手で股間を隠したまま。


「知ってる知らないで言うなら、ああ確かに知ってるぜ。教えて欲しいか?」

「結構です」


 何の逡巡もなくそう答えた庵に三人は目を丸くする。


「凶衛は言っていました。私と母様に生きていられると都合が悪い者がいる、と」


 凶衛に見逃され屋敷を脱出してからのことだ。

 先に避難していた家人やその他の人の手助けで各地を転々としていた際、執拗に襲撃があった。

 ほぼ毎日のように襲い来る刺客のせいで国外逃亡せざるを得なかったのだが。

 国外へ逃れようとしている最中もこれまで同様――否、これまで以上に苛烈な襲撃があったと庵は言う。


「あの娘を船に乗せるな、土壇場で聞こえた焦りに満ちた声を思い出したのです」


 国外へと追い出してしまえば、都合が良くなるというわけではないらしい。

 本当に、生きていられると不都合なのだろうと庵は言う。


「だから、生きることが何よりの報復になると思ったのです」


 たかだか十にも満たぬ小娘をあそこまで躍起になって殺そうとするのだ。

 黒幕とやらは余程、小心な人間に違いない。

 きっと、今も自分が生きていると疑っているはずだ。

 普通は野垂れ死んでいるだろうと楽観するだろうに、庵は皮肉げに笑った。


「あとはまあ、分かってはいても顔の見えない相手だとイマイチピンと来ないのです」


 だから一先ずはこれで区切りとする、庵はそう宣言した。

 もしもこの先、自分の人生に黒幕が絡んでくるようならばその時に考えれば良いのだと。


「……まあ、そう言うならあたしも無理にとは言わないさ。

だが、自分が何故狙われたのかぐらいは知っておかなくて良いのか?」


「そちらも構いません。母の意を、尊重したいので」

「どういうことだい?」

「母は何も語りませんでした。それは私が幼かったからでしょうか?」


 それもあるだろう。だがそれだけではないように思うのだ。

 くだらないしがらみに囚われずに生きて欲しい。

 そう願ったから何も語らなかったのではないのか?

 今となっては確かめる術もなく、希望的観測だと言われても否定はできない。

 だが、自分は自分の知る母を信じたい――庵はハッキリとそう言い切った。


「…………そうかい。なら、これ以上はあたしも止めておくよ」

「ええ、お気遣いありがとうございます。行きましょう、兄様」

「おう、それじゃあなティーツ! 精々達者でやんな!!」

「おう、カールもまた今度な!!」

「死ね」


 面倒そうだからもう関わりたくはない、そうハッキリ告げてカールは教会を出た。

 外はもうすっかり暗くなっていて、空には幾つもの星が浮かんでいた。


「…………これで庵は俺のもの、それで良いんだよな?」


 カールがそう確認すると庵は顔を真っ赤にし、俯き気味に”はい”と答える。


「”ナイン”! 俺と庵は徒歩で帰るから今日はもう解散な! 祝勝会はまた明日ってことで!!」


 一度、足を止め、虚空に向かって叫ぶ。

 ナインという偽名を使ったのはアンヘルの素性に配慮してのこと。

 ティーツやデリヘル明美の性格上問題はないだろうが今回の報復に貴族である彼女が絡んでいると知らせるのはあまりよろしくないと思ったのだ。


’了解、それじゃ、また明日’


 頭の中にアンヘルの声が響いた。

 魔法というものはつくづく便利なものだと再び歩き出す。


「…………あー、その何だ……悪かったな、庵」

「はい?」


 スラムの大通りに差し掛かったところで突如、カールが謝罪の言葉を口にした。

 突然何をと首を傾げる庵にカールは気まずそうな顔をして話を続ける。


「ほら、元をただせばティーツ……俺のダチが原因だったわけじゃん?」

「ああ、そういう。でも、それを言うならデリヘル明美が私の叔母であったせいでもあるでしょう」

「いやでも庵は知らなかったわけだろ?」

「それを言うなら兄様もでしょう」


 郷里の友人が法で裁けぬ悪党を殺す人斬りになっていたなぞ誰が予想できるのか。

 だから、この件に関してカールが気にすることは何もない。

 そう庵は言い切った。

 しかし、カールはやはり気になるようで……。


「ふふ、兄様は律儀なのですね」

「……律儀っつーか、あんなでも俺のダチだからなあ」

「まあ、仲がよろしいのは見ていて分かりました。類は友を呼ぶのでしょうね」

「ちょっと待って? それどういう意味? 俺が半裸の人斬りと同類だとでも?」

「息ピッタリでしたよ、ええ。実に……実に」


 鋭い視線に思わずさっと目を逸らすカール。

 そんな彼を見て庵は、小さく溜息を吐き、こう続けた。


「……ティーツさんでしたか? あの方のことは悪く思っていませんよ。

だって、その……あの方がいたから、私はもっと兄様と深く交わることができたのですから。

兄様は、庵にとっての幸いなのです。だ、だから……最初は下心だけでも良いです……」


 顔を赤らめ、もじもじと内股をこすり合わせながら庵はこう告げる。


「で、でも……いつか、庵の全部を愛してくれると……嬉しいです」


 そこまで言い切って恥ずかしくなったのか俯いてしまう。

 それがまた、どうしようもなくカールの興奮をかきたてた。


「庵」

「は、はい」

「俺のこと、好きか? 愛してるのか?」

「……い、言わずとも分かるでしょう?」

「幸いとかよう分からん言葉じゃなくハッキリ聞かせて欲しい」


 立ち止まり、膝を折って庵の目を真っ直ぐ見つめ、カールはそう言った。


「ッ――――はい、お慕い申し上げております」


「そうか、俺もだ。ぶっちゃけ最初は可愛いロリをゲット出来てラッキー程度だったんだよ。

でもさ、健気に慕ってくれる姿にこう、熱いものが胸の内からこみ上げてくる。好きだ、愛してる、お前が欲しい」


 力を入れれば折れてしまいそうな身体をそっと抱き締める。

 庵はおずおずとその背中に腕を回し……決して離すまいと抱き締め返した。


「そして、だからこそ言っておきたい。俺はお前一人で満足する男じゃない」

「でしょうね」

「うむ。まあ、気付いてるかもしれないが俺はアンヘルとも関係を持っていてな」


 SSRのフレンド(意味深)、最初はそのつもりだった。

 しかし自分のためにあれやれこれやと骨を折ってくれて、

 それをおくびにも出さず振舞う姿にカールはすっかり絆されてしまっていた。

 未だ薄ら寒い何かを感じるのは事実だ。

 しかし、あの一途さに嘘はない。どこまでも純粋だ。

 無理、好きになる、俺はチョロインなんだとカールは供述している。


「それでも良いか?」

「嫌と言っても改めさせられるとは思いませんし……ダメな部分も含めて、ですから」

「そうか。ありがとな」


 もう一度強く庵を抱き締める。

 庵は痛いです……と言いつつも、抱擁を拒むことはなかった。


「こ、股間ザ・リッパーが道の往来でロリに愛の言葉を囁いてる」

「公衆の面前で自他問わず股間晒す男はやることがちげーな」

「あんまりにも堂々としてるから私の方が間違ってるんじゃないかと思ったわ」


「――――そうだ。私は本当に、美しい性癖ものを見た。

非合法な手に走らずとも攻略できるロリはあり、正道を貫いたからこそ辿り着けるEDがあった。

おめでとう、帝都の善きロリと善きロリコンよ。社会規範は君たちによって倒された」


「誰だお前」


 お忘れかもしれないがここは道のど真ん中である。

 ど真ん中で、数えで十二歳の童女に本気の愛を囁いているのだ。


「庵」

「はい」


 名残惜しげに抱擁を終えた二人。

 カールは目線を合わせたまま、一枚のメモを庵に手渡した。


「これを」

「こーれーは……――――って昼間のメモじゃないですかお馬鹿ッッ!!!!」

「こ、今度こそ最後までいけるとおもっ……ぶはぁ!?」


 庵は全力でカールの顔面を殴り飛ばした。

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