番外編①

1.IFもしもアンヘルの復活が奇跡的に察知され即日、刺客が放たれていたら


 小雨滴る真夜中の帝都を、黒衣の集団が音もなく駆け抜けていた。

 夜の闇以外に彼らを見咎める者は誰もおらず、その道行きは誰にも阻めない。


「やれやれ、皇子も人使いが荒い」

「しょうがない。我々はこれで飯を食ってるんだ。殺せと言われれば殺すだけさ」

「まあそうね。嫌なら人殺しなんて廃業していまえば良いのだから」


 物騒な会話を交わす彼らは第一皇子お抱えの暗殺者集団の精鋭三十名。

 この三十名が揃えば一国の首脳陣の首を丸ごと獲れる。

 そう噂されるほど、特別危険な屑たち。

 そんな屑が総動員されるあたり、今回のターゲットの危険さが伺えるというもの。


「しっかし、標的の皇女様は何だって幽霊区画なんぞに居るんだ?」


 メインストリートから外れた郊外にあるが、スラムのように治安が悪い場所ではない。

 なのに不思議と人が立ち寄らない場所、通称幽霊区画。

 住宅街として使えそうなポテンシャルはあるはずだが、幽霊区画は一向に開発が進んでいない。

 噂では名の通り幽霊。

 それもヤバイ悪霊が出るとのことだが、何故ターゲットはそんな場所に居るのか。

 暗殺者の一人が首を傾げる。


「あそこにポツンと立ってる店……の二階で店員の男とイチャついてるらしいわ」

「店員の男、ねえ。そいつもツイテないな」


 皇女アンヘルと共に始末される店員を憂い、暗殺者の一人が十字を切る。

 まだ始まってすらいない。

 だというのに彼らの中では既に”終わっている”仕事なのだ。

 傲慢……ではあるが、そうなるのも仕方ない実力を彼らは備えている。


「唯一の懸念はシャルロット・カスタードだが」

「仮にあの女が出て来ても、皇女を仕留める間ぐらいの足止めは出来るわ」

「まあ、その代わり二十人はそっちに人数を割かれるがな」


 流浪の騎士シャルロット・カスタード。

 彼女は今現在、皇女アンヘルの屋敷に居ることは確認済みだ。

 だが、万が一出張って来ても何とかなる。

 勝てはせずとも仕事を終わらせるまでの間ぐらいは足止めができる。

 彼らは疑いもなく、そう信じたまま幽霊区画へ突入した。


「……覚悟は良いな?」

「無論」


 目的地――酒場バーレスクまで後十数メートルまで迫った時、彼らは一斉に足を止めた。

 ビクン! と微かに身体を震わせ硬直。

 次いで、全員が無意識の内に首元に手をやっていた。


「い、今の……は……」


 呻くような声が漏れる。

 全員が全員、あの一瞬に幻視したのだ――自らの首が刎ねられる光景を。

 暗殺者たちが臨戦態勢に入るが、暢気が過ぎると言わざるを得ない。


「! 貴様は……」


 削り落ちるかのように闇の中、一人の女の姿が浮かび上がる。

 少し胸元が開いたシャツにタイトなパンツ。

 動き易いようにと眩い金髪をポニーテールにしたその女は、


「シャルロット・カスタード!!」

「そう大きな声を出さなくても聞こえてるよ」


 極々自然体のシャルロットと臨戦態勢の暗殺者たち。

 この構図を見るだけでも、どちらが格上であるかは明白。

 それでも退かないのは……勇気があると言うべきか、愚かも極まったと言うべきか。


「やれやれ深夜手当ては出るのかな? これ」


 冗談めかして笑うシャルロット。

 暗殺者たちは……動けない。

 足止めに徹すれば、そう思っていた。だが隙がまるで見えないのだ。


「失せなよ、キモンメンズ」


 シャルロットが剣を抜き放つ。


「ここから先はリアルが充実した者以外立ち入り禁止だ」


 白刃に雨が滴る。


「…………私たちは入れない」


 蒼い瞳が夜に煌く。


「――――って」


 空気が軋む。


「誰が非モテのアラサー女騎士だと!? ぶち殺すぞ貴様らッッ!!!!」


 それはそれは理不尽な逆ギレであった。


「え、えー……」

「ここまで酷い侮辱を受けたのは生まれて初めてだよ」


 メラメラと憤怒を燃やすシャルロット。

 清々しいまでの被害妄想である。


「貴様らまとめて聖剣モージョの錆にしてやる。一人として、生かして帰さない」


 ここから先は語るまでもないだろう。

 流浪の騎士シャルロット・カスタードは正義という名の逆恨みを貫き通した。

 犠牲になった三十人は……まあ、暗殺者なんてヤクザな商売やってるんだし文句は言えまい。



※1

聖剣モージョ、魔剣キージョと対を成す細身の蒼い長剣。

恋愛運の低下と引き換えに担い手に強力なバフを与える効果がある。

が、シャルロット程の強者だとぶっちゃけ誤差程度。

それゆえ彼女は聖剣の効果に気付いておらず、買い換えずに済む頑丈な剣程度にしか思っていない。


※2

魔剣キージョ、聖剣モージョと対を成す真紅の一振りでシャルロットのかつての愛剣。

敵対者への粘着性が増すという代償と引き換えに

観察力、思考能力に強力なバフがかかる効果を備える。

モージョゲットと同時に使わなくなっていたが後にアンヘルに譲渡され、

今現在は変身アーティファクトの小道具としてカールの手に渡っている。



2.だが俺はレアだぜ(ガチ)


 ジャーシンから帰った翌日、庵はカールを伴って孤児院を訪れていた。

 カールは早々に院長先生と話があるとかで奥に引っ込み、

 庵は友人たちに自分とカールが買ってきたお土産を渡すことにしたのだが、


「あのぅ……お返しとかは別に……」

「良いの良いの。貰ってばっかじゃ悪いしなあ」

「それに、これ今うちで流行ってんだって。庵もやってみなよ」

「そうそう。男前だっていっぱい居るし、見てるだけで楽しいんだから」

「はあ」


 お土産のお返しに。

 そう言われて渡された紙袋の中身を見つめ困惑する庵。

 イマイチ”それ”を使って遊ぶということが理解できないらしい。


「鬼ごっこやかくれんぼの方が楽しいと思うのですが……」

「いやいや、やれば分かるって!」

「そもそもそういう遊びってお金ないからじゃん?」

「今の俺らはゴミから多少マシなゴミになったんだし、ちょっとは文化的な遊びしようぜ!」

「ルールブックと、あと何冊か関連雑誌も入れておくから……ね?」

「わ、分かりました。というか、こんなにも沢山……お金は大丈夫だったんですか?」

「うん。何か少し前に沢山寄付あったんだって。だから皆で何パックかずつ買ったんだよ」

「買って良かったよなあ」

「クッソ楽しい」


 少し会わなかっただけだというのに、

 友人たちの間では新たな流行が生まれているようで何だか疎外感を覚える庵であった。


「おーい、けえるぞー」


 奥からカールと孤児院の責任者である女性が姿を現す。


「あ、カール兄ちゃん! 土産ありがとな!」

「庵にお返し渡しといたからカールさんも一緒に遊びましょうね!!」

「お? おう……よう分からんが分かったよ」


 絶対だからねと子供たちは念を押す子供たちに首を傾げながらもカールは頷く。

 本当に、面倒見の良い男だ。


「あの、カールさん。そろそろお昼ですし、よろしければ……」

「ああいや、出掛ける前に飯は食って来たんで」

「そうでしたか。申し訳ありません、差し出がましいことを」

「いやいや、それじゃまた」

「はい。本当に、ありがとうございます」


 カールと手を繋ぎ孤児院を後にする。

 じりじりと鬱陶しい真夏の日差しに顔を顰めるカールを見上げ、

 庵は気になっていたことを質問する。


「あの、何のお話をしていたのですか?」

「あ? いや別に大したこっちゃねえよ。何時も子供らと遊んでくれてありがとう的な?」

「……本当にそれだけですか?」


 それだけにしては、院長先生はやけに恐縮していたように見える。

 別に浮気を疑っているわけではない。

 カールは軽薄だが”人を選んでいる”。

 顔が良いとか、体つきが良いとかそういうことではない。


(兄様は、色物好き)


 アンヘルやアーデルハイドを見る限り、間違いないと思っている。

 多分、普通の女性では刺激が足らないのだ。

 自分は普通だが、まあ、きっと特例なのだろう。

 それはさておき、他の女に手を出すのならそういう兆候があるはずだ。

 上手く言葉には出来ないが、何となく分かってしまう。


「それだけだよ。他に何があるよ?」

「むぅ」


 頬を膨らませ無言の抗議。

 気に入らないのはアンヘルやアーデルハイドならば素直に答えていたであろうこと。

 子供だから、自分が子供だから深い話をしないのだ。

 子供は余計なことを考えず、日々楽しく過ごせば良い。

 そう考えているのだ。この男は。優しく、その気遣いは嬉しくもある。

 だがそれはそれとして、隣に並び立てていないようで不満だった。


 悔しくって悔しくって、だから腕に抱き付く。


「やれやれ」


 ほら、その顔。

 しょうがないなあと笑う、大好きだけど、ちょっと嫌いな笑顔。


「およ?」


 店の近くまで戻ってきた時、カールが足を止めた。

 その視線を辿ってみると、


「アンヘルさん、アーデルハイドさん? それにシャルさんも」


 入り口の前で三人が立っていた。


「よお、どうしたよお前ら?」

「いやほら、最近毎日、日中から顔を合わせてたでしょ?」

「だから少々落ち着かなくて、こうして参った次第です。迷惑でしたか?」

「いや別に? 顔が見たくなった、それだけでも良いだろ別に」

「うんうん。アーデルハイドは気にし過ぎだね。ちなみに私は暇だから早めに出て来ただけだよ」


「だろうな。伯父さんが顔出すまでまだ時間あるし。

ま、立ち話も何だし全員店に入れよ。クソ暑……くはねえか。お前らなら」


 炎天下の中、汗一つかいていない三人。

 つくづく、魔法というものは凄い。


(私も魔法を習えば兄様のお役に立てるのでしょうか……)


 店に入ると、ひんやりとした空気が全身を撫で付けた。


「出掛けにエアコンつけてって正解だったな」

「ですね」

「ところで庵、その紙袋何よ?」

「ああ、これですか。お土産のお返しに貰ったのですが……」


 庵が袋の中身をテーブルにぶちまけると、

 四人はどれどれと物珍しげな顔をして近寄ってきた。


「カード、ですか?」

「はい。何でも、今子供たちの間で流行っている……えーっと……」

「これは……ああ、英雄決闘ヒーローズ・デュエルってカードゲームだね」

「シャルティアさんはご存知なのですか?」

「おめー、その歳でカードゲームなんかやってんのか」

「ち、違うよ。何かで見た覚えがあるだけさ」

「ふぅん。にしても、俺がガキの時分にはこんなの――――んな!?」


 さして興味もなさそうにカードを摘み上げたカールだが、

 そのカードを見た瞬間、表情が一変する。


「こ、これ……け、拳帝じゃねえか!?」

「実在の英傑や悪漢悪女を使ったゲームだからね。そりゃ拳帝も居るさ」

「おいおいおい。これ最高レアなんじゃねえの? ガキどもに返さなくてええんか?」

「いやいや、よく見なよ。文字が金色じゃないし、キラキラもしてないだろ? ノーマルカードだよ」

「は? 拳帝がノーマル? 殺すぞ」

「いや、私に言われても」


 どうやらカールは拳帝なる人物に相当の思い入れがあるようだ。

 庵は質問してみようかと思ったが、


「じゃあ誰だよ? これ出してる会社か? おい、どこの会社だよ」


 この様子を見るに少し考えた方が良さそうだ。


「落ち着きなって。あくまで、その拳帝がノーマルなだけさ」

「は? どういうこった?」


「何でそんなマジな顔してるんだか知らないけど……。

拳帝や隻眼の賢者、黒の射手、麗剣道士あたりの有名どころはバリエーションが豊富なんだよ」


「き、汚ねえ……」

「商売だからね、しょうがないさ」

「まあ、それも分かるが……いや、好きな英雄で固められるなら種類が多いのは良いかもしれん」

「それもあるかもね。私はやっぱり騎士、剣士系統で固めたいかなあ」

「分かってねえな。男なら拳一つで勝負せんかい」


 ごそごそとカードを漁り始めたカールの横で、

 アンヘルとアーデルハイドがルールブックや雑誌を手に取っていた。


「……見てよアーデルハイド、これ」

「……”悪役令嬢”エリザベート……これ、よく発禁にされなかったわね……」

「しかも最高レアだって……」


 心なしか苦い表情をしているように見えるが、何故だろう?


「あ、シャルロット・カスタードも……だから知ってたんだね」

「というか、魔道士が少ないんじゃない? ちょっと、物申したい気分だわ」

「……おかしなことはしないでよ? っていうかこのカード、術式が刻まれてない?」

「おや、確かに。これは……立体映像、かしら? 何パターンか登録されているようね」

「多分、別売りで専用の機械があってそれで再生するって感じかな」

「恐らくは。ああでも、多少心得があるのなら機器なしでも再生出来そうだわ」


 カードを貰った庵そっちのけで盛り上がる四人。

 ちょっと疎外感を覚えるが、楽しそうで何よりだと庵は頷く。


「……集まった拳帝は四種類か……しかも全部ノーマル……」


 悔しそうなカールだが、はたと気付いて庵を見る。


「な、なあ庵」

「え? ああはい、兄様に差し上げますよ」


 カードを貰ったのが庵だということを思い出したのだろう。

 だが、庵的にはそこまでそそるものではないから分けてやっても問題はない。

 というか、子供たちも元々そのつもりで渡したのだから渡さない理由がなかった。


「そ、そうか? 悪いな、何か催促しちゃったみたいで。

いやほら、俺もこの歳でカードゲームなんてどうかと思うよ?

でもガキどもに誘われちゃったわけでね……子供に優しいカールくんとしては……」


「良いのです良いのです」


 カードも、これだけ望んでくれる者の手にあった方が嬉しいはずだ。


「いやあ、悪いね。あ、そうだ。

貰いっぱなしも悪いし、これからちょっとカード買いに行こうぜ。

庵もやっぱレアカード欲しいだろ? な? な?」


「は、はあ」


 これはどう考えてもあれだ。

 庵のためと言いつつ、自分が買いたいだけだ。


「よっしゃよっしゃ。お小遣いをあげよう。これで幾らかパックを買うと良い」

「い、いえ……自分のお金がありますし……」

「ま、ま、ま。取っとけって、な? よしアンヘル、ちょっと玩具屋まで飛ばしてくれ」

「ん、ちょっと待ってね。玩具は――あ、見つけた」


 景色が一変する。

 アンヘルの転移魔法で玩具屋の前まで飛ばされたのだ。


「……拳帝シリーズ、何枚手に入るかは分からんが……いざ!!」


 カールは脇目も振らずに店内に飛び込んでいった。


「何か、可愛いよね」

「ええ」


 全肯定姉妹がほっこりしている。

 とはいえ、庵も今回ばかりは同感だ。

 普段から子供っぽい顔を見てはいるが今日のは特別可愛い。


「恋は盲目、上手いことを言ったものだね……おや?」

「どうかしましたかシャルティアさん」

「いやほら、あそこ」


 シャルが指差した方向を見る。

 そこには、


「「!?」」

「に、兄様……?」


 期間限定排出! 今年度天覧試合優勝者、謎の詩人仮面登場!!

 そんな煽り文句がデカデカと描かれたポスターが貼ってあった。


「「……」」


 アンヘルとアーデルハイドはダッシュで店内に飛び込んで行った。


「やれやれ……庵ちゃんは良いのかい?」

「まあ、正直、欲しくはありますが」


 欲しい、正直、欲しい。

 あの装いは自分にとっても思い出と思い入れがあるから。


「が?」

「最高れあ? というもののようで、私の運ではとても……それに無駄遣いするのも忍びないですし」


 傍にカールが居てくれる。

 それに勝るものはない。

 だからカードが手に入らずとも別に良いではないか。


「そっか。でも、カールにお小遣い貰ったんだしその分ぐらいは買っても良いんじゃない?」

「それは……そう、ですね」


 当たるとは思えないが運試しがてら買ってみるのも悪くない。

 そう考え、店内に入る庵だったが、


「……」


「クッソァ! 拳士パックなのにレアどころかノーマルの拳帝も入ってねえ!!」

「あれ? あれれー? 何で出ないのかな?」

「嘘ですか? 私、嘘を吐かれたのかしら? あのポスターに騙された?」


 パックの山を開封する駄目な大人たちを見て言葉を失う。

 庵はそっと三人から目を逸らし、

 カールから貰った小遣い分のパックを無造作に手に取り会計所へと持って行った。


(……当たると、良いなあ)


 買った五パックをカールたちも居る休憩スペースで開封し始める。


 一パック目、はずれ。

 二パック目、はずれ。

 三パック目、はずれ。

 四パック目、はずれ。


(これで最後……やっぱり……おや?)


 お目当てのカードではなかった。

 だが、これはカールが執心している拳帝とやらのカードだ。

 文字が金色で、全体的にキラキラしたこれは間違いなく最高レア。


「あの、兄様」

「く、くぅ……んな? どうした庵?」

「あの、これ」

「! え、これ……お、おいおい……す、すげえなあ。強運じゃねえか庵!」


 明らかに何かを期待した瞳。

 まあ、元々そのつもりだったのだから別に構わないのだけど。


「よろしければ、どうぞ」

「い、いやいやいや! 流石に! 流石にこれは……!!」

「ああ、ではこうしましょう。もし兄様が私のお目当てのカードを引き当てたらください」


 別に今日でなくても構わない。

 いつか、いつか引くことがあったら譲って欲しい。

 そう条件とも言えぬ条件を提示し、カードを押し付ける。


「わ、分かった。そういうことなら……うん、ありがたく受け取ろう」


 するとどうだろう?

 子供のようにキラキラした笑顔が浮かび上がったではないか。

 何か良いことしたような気分になる庵であった。


「ちなみに庵の欲しいカードって?」

「その、謎の詩人仮面……兄様のカードを……」

「は? 俺? 俺もこれ、カードになってんの?」

「ええ、ほら、あそこのポスター」

「うわ、マジだ。つか、無許可じゃねえか。せめて俺に話を通せよな」


 ぶつくさ言いつつカールは残りのパックを開封し始めた。

 最高レアの拳帝を手に入れたからだろう。

 先ほどまでの気負いは欠片もなく、鼻歌交じりで封を開けている。


「あ」

「拳帝さんが出たのですか?」

「いや、そうじゃなくて……ほらこれ、俺のカード」

「「「!?」」」


 カールが手元のカードを見せ付ける。

 そこには確かに謎の詩人仮面が描かれていた。

 凶衛の炎を支配し、身に纏っている時の姿だ。


「じゃあほら、これで取引成立な」

「え、あ」


 カールが手渡したカードを受け取る。


(……兄様)


 カードを見ていると、あの時の情景が、感情が胸を満たしていく。


「ッッッ」


 感極まった庵はカードを胸に掻き抱く。


「大切に……大切に致しますね」

「お、おう……よろしく?」


 少し真面目にこのゲームを勉強してみよう。

 そう決意する庵なのであった。

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