狩栖優人の意外な趣味……!!

『おい、なんだあの家は? 人が住んでる痕跡があるじゃないか』


『おかしいわね……この一帯の土地の権利は買い上げたんでしょ? だったら、あそこに人が住んでるわけないじゃない』


 映画の登場人物たちが、そう言いながらゴーストタウンの一角にある家を指差す。

 明らかに人が生活している雰囲気があるその家に保安官たちを伴って乗り込んだ彼らは、住人である老婆と対面するや否や、彼女に立ち退きを要請し始めた。


『この土地の権利は俺たちが持ってる! あんたには悪いが、この家から出ていってもらう!』


『土地の権利は私が買い直したのよ。だから、私がここから出ていく必要はないの。権利書も持っているわ』


 そう主張する老婆であったが、リーダー格の男性はそれでも譲らない。

 自分たちも権利書を持っていると、この土地の所有者は自分たちであると主張する彼らは、保安官に頼んで老婆を家から連れ出してもらおうとしたのだが……その瞬間、彼女は大きく咳き込み、その場に倒れ込んでしまった。


『なんだ、どうしたんだ!?』


『興奮した拍子に持病が悪化したんだ! 誰か、救急車を手配しろ!』


「な、なんか、慌ただしくなってきましたね……」


「そ、そうね。これ、本当にビジネス物……?」


「と、見せかけてのリーガルサスペンス的な話でしょうか? つまり半○○ピー樹ではなく、○○ピーガル・ハイ、みたいな」


「あるいは医療物とか? ここでスーパードクター登場! からの手術開始! 的な?」


 明らかに不穏な雰囲気を漂わせ始めた映画の展開を見ながら、当初の予想であったビジネス物の映画ではないのではないかという疑念を抱き始めた天たちがそんな話を繰り広げる。

 彼女たちの会話を耳にする零が、どうにもその全てにしっくりこないといった感想を抱く中……映画の中で倒れた老婆へと、家の中から大きな足音を響かせながら登場した大男が駆け寄ってきた。


『ウオオオオオ……ッ! オオオオオッ……!』


 どうやら老婆を深く心配している様子の大男は、倒れた彼女の無事を心から祈っているようだ。

 結局、立ち退きの話がうやむやになると同時にこのゴーストタウンでは治療ができないという話になり、老婆と大男は保安官たちが用意した救急車に乗って病院へと搬送されることになった。


「……有栖ちゃん、今のうちに零くんに抱き着く準備をしておいた方がいいと思うよ~」


「え……?」


 不意に意味深な言葉をかけられた有栖が驚きながら彼女の方を見やる。

 ニコニコ顔の澪を見つめながら、有栖もまた零と同じく嫌な予感を覚える中……ついにその瞬間が訪れた。


「あっ……! おばあさん、死んじゃいましたね……」


「そう、だね……なんだか可哀想……」


 病院へと搬送されていた老婆だったが、その道中で残念ながら亡くなってしまった。

 彼女を慕っていた大男がその遺体に縋り付き、泣き叫ぶ様子を見て、同情する紫音と伊織であったが……数秒後、その表情が引き攣ることになる。


『グオアアアッ!!』


『ぎゃっ!?』


「!?!?!?」


 唐突に……あまりにも突然に、泣き叫んでいた大男が救急車に同乗していた警官の一人へと襲い掛かる。

 人間離れした怪力を誇る彼の一撃を受けた警官はそのまま救急車の壁に叩きつけられ、頭を潰されると共に動かなくなった!


『わ、わあっ!? なんてこった!!』


『お前、動くなっ!! 両手を上げろ!!』


 残る警官が悲鳴を上げながらも大男へと拳銃を突き付けるも、彼はそんなことまるで気にしていない。

 狭い車内で手を伸ばした大男は自分へと向けられた拳銃を持つ警官の腕をまるで小枝でも折るようにへし折り……骨と肉の断面が見える状態にしてみせた。


「あわ、あわわ、あわわわわわ……!?」


「血が、血がいっぱい……! お肉と骨がぁ……!!」


 そこからはもう大虐殺の始まりだ。

 すさまじい怪力を誇る大男の前に警官隊は成す術もなく叩きのめされ、メスやらハンマーやらといった凶器になりそうな物を回収した大男は、亡くなった老婆の皮で作ったマスクを顔に被ると、ゴーストタウンへと引き返していく。


 恐ろしい量の血と内臓が舞い乱れる映画の内容に絶句していた一同であったが、気を取り直した零がキリキリと首を捻ると傍に座る優人へと声をかけた。


「あ、あの、優人さん……? 上映する映画、間違ってませんか……?」


「うん? いや、間違ってないよ。この【地獄のいけにえ キラーフェイス・リターンズ】であってる」


「じゃ、じゃあ、この映画が優人さんの本当に好きな映画……なんですか?」


「う~ん……好きではあるけど微妙かな? ジャンル的には好きな方面だし、初心者向けではあると思ったからこれにしたんだけど……」


「まあ、そうだよね。ゆーくんが本当に好きな映画ってもっとグロテスクだし、リメイク元は血の量が少ないけど、世界一怖い映画って言われてるし……これで良かったんじゃない?」


「ま、待ってください。ってことはつまり、優人さんが好きな映画って……!?」


 映画を見るほぼ全員が戦慄する中、たった一人だけケロッとしている澪が楽しそうに言う。

 先輩カップルの反応を見た零が大体の事情を理解する中、ニコニコと笑う澪がその考えを肯定するかのようにこう言った。


「うん! ゆーくんが好きなのはこういうスラッシャー映画! それも、ゴア表現マシマシのヤバいやつだよ!!」


――――――――――――――――

今日はここまで!

続きはまた明日!

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