SunRise Realize
「覚悟なさいって、肩に力が入り過ぎだよ~! そんな仰々しい場面じゃないはずさ~!」
「沙織さんの言う通りですよ。2人の前だからって、張り切らなくていいんですからね?」
「別に張り切ってなんかないわよ! 仕事に対しては常に全力、それが普通でしょ?」
「確かにそれはそうですけど、どうでしょうね? 普段の倍以上は気合が入ってる気がしますよ?」
ここまで邪険にされ続けてきた祈里が気合十分に決めた李衣菜のことをからかうようにしながら視線を向ける。
同じグループのメンバーたちから次々に沙織を意識していることを指摘された李衣菜は、羞恥を怒りに変換させながら仲間たちへと怒鳴った。
「うるさいわね! 本番前の演者にああだこうだ言うんじゃないわよ!」
「わーっ、李衣菜さんが怒ったーっ!」
「沙織さんの前でからかわれて恥ずかしかったんだーっ! やっぱ意識してるんじゃないですか!」
「奈々、羽衣、あんたら後で覚えてなさいよ?」
後輩たちが見事なコンビネーションを見せて自分を笑う様に青筋を浮かばせて怒りを露にする李衣菜を見て、沙織がくすくすと笑う。
随分と丸くなったというか、メンバー同士の距離が縮まっているように見える彼女たちの様子に頷いた彼女は、目を吊り上げて怒る親友へと静かな声で言った。
「変わったね、みんな。奈々ちゃんと羽衣ちゃんも仲良くなってるし、祈里ちゃんと恵梨香ちゃんも自分を出すようになってる。李衣菜ちゃんも、今では立派なリーダーだよ」
「……あれだけのことがあったんだもの、変わらざるを得ないわよ。というか、元に戻っただけ。あんたが居なくなって狂った歯車が、ようやく少しずつ元通りの噛み合いを見せ始めてるってだけの話よ」
「今、みんなが生き生きとアイドルとして活動出来てるってだけで、もう十分凄いことだと私は思うさ~。あれだけの事件を乗り越えて前に進んでるんだもの、今のみんなは本当に凄いよ」
「……そうね。2年間、とんでもない遠回りをしちゃったけど……ようやく、私たちは元の姿に戻りつつある。本当は、人数だって元通りでありたかったけど……」
2年前の事件によってアイドルを引退せざるを得なくなった親友と、様々な要因によって精神を歪ませ、おかしくなってしまった元リーダー。
その2人も含めた7人組のアイドルグループ【SunRise】として在り続けたかったと、沙織に本心を吐露した李衣菜は、すぐに首を振ってその言葉を引っ込めた。
「いいえ、そんなこと言っちゃ駄目ね。もう時間は戻らない。起きたことは覆せない。過去を悔やんで生きるより、今を後悔しないようにしながら未来に進むべきだって、あなたとあの子に教わったんだもの。私たちは進むだけよ、No.1アイドルの座を目指してね」
「李衣菜ちゃん……」
事件の中で様々なものを失い、大きく傷ついた【SunRise】であったが、新しく得たものもある。
メンバー同士の団結だとか、新しい目標だとか、前を向いて進むという気持ちの持ち方がそれだ。
いくら後悔しても過去は変わらない。ならば、更なる後悔を生み出さないようにしながら今を懸命に生きるしかない。
アイドルとしてステージに立っているのに、過去を振り返ってばかりで目の前の観客に集中出来ずにいたあの日の自分を思い返した李衣菜は、小さく息を吐いてからリラックスした笑みを浮かべて、目の前に立つ親友へと言った。
「……今日、公演が終わったら時間を作るから、付き合いなさいよ。久々に、ゆっくり話をしましょう」
「……うん、わかったよ。舞台、楽しみにしてるね!」
李衣菜が穏やかで落ち着いた気持ちになったタイミングで、スタッフが彼女を呼びにやって来た。
短い時間であったが、開演前に彼女と話が出来たことを喜ぶ沙織は、笑顔で李衣菜を送り出す。
「頑張ってね、李衣菜ちゃん! 応援してるよ!」
スタッフに連れられて楽屋を出て行く李衣菜は、彼女の声に軽く手を上げて応えるのであった。
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