North From South
李衣菜の返事を耳にした沙織がドアノブを握る。
それをガチャリと音を立てて回し、思い切り力を込めて扉を開いた彼女は、テンションMAXの明るい雰囲気を全開にしながら楽屋にいた面々への挨拶の言葉を口にした。
「はいた~い! みんな、元気してた~!?」
「沙織さん!? それに、あなたは――」
「ヌ゛ッッ!?」
楽屋の中では、【SunRise】メンバーが李衣菜と話をしていた。
どうやら彼女たちも零たちと同じく、リーダーからの招待を受けていたようだ。
ドッキリでも仕掛けられたのかと思うくらいに勢いよく開け放たれた扉と、その先に立つ2人の姿を見た彼女たちは、一瞬だけ驚いた顔を浮かべた後にぱあっと華やかな笑みを浮かべる。
旧友が応援に駆け付けてくれた喜びと、またこうして沙織と会えたことに対する嬉しさを入り混じらせた表情を浮かべる3人の姿にちょっとだけ微笑ましさを感じた零は、その横で自分の顔を見た瞬間に胸を抑えて苦しそうに呼吸を始めた祈里のことを視界から排除して、彼女たちへと挨拶した。
「どうも、お久しぶりです。今日は俺まで招待してくださって、ありがとうございます」
「久しぶりね、阿久津くん。忙しい中わざわざ来てくれて嬉しいわ」
「り、李衣菜さん……! どうして阿久津さんが来ることを事前に教えてくれなかったんですか……? お、お陰でし、心臓が、心臓が……っ!!」
よろり、よろりと足元をふらつかせながらもなんとか持ち直した祈里が息も絶え絶えになりながら李衣菜へと問いかける。
そんな彼女の反応をちらりと横目で窺った李衣菜は、溜息を吐いてからその質問にこう答えた。
「そんなこと言ったらあんた、銀行からありったけの預金をおろしてくるでしょ? そんな馬鹿な真似させないために、わざと秘密にしておいたのよ」
「そりゃあ、現実世界で推しを札束でぶん殴れる機会を逃すわけにはいかないじゃないですか。前回のクリアニくるめい回の分のスパチャもし足りないし……はっ!? そうだ、芽衣ちゃん!? 入江さんは今日はいらっしゃってるんですか!?」
「い、いや、来てないっすけど……」
「どうして誘ってないんですか!? 折角、リアルでイチャつくくるめいを見られるチャンスだったのに! あ、でも不意打ちでそんなもの見せられたらまず間違いなく私の心臓が止まる!!」
「はぁ……だから呼ばなかったのよ。それに、女の人が苦手なあの子をそんなに親しくない私たちと会わせるっていうのも酷な話でしょ?」
色々と考えてくれているんだなと李衣菜の話を聞き(ついでに慌ただしい祈里の様子を見)ながら思う零。
祈里はそんな彼女にまだ厄介オタクとして言いたいことがある様子だったが、そんな彼女に後ろから抱き着いた沙織が、話を強引に切り替えてみせた。
「祈里ちゃんも元気そうでなによりだよ~! いつも私たちのこと応援してくれてありがとうね~!」
「そ、それは当然のことです。いちVtuberファンとしても、元同僚としても、沙織さんのことはこれからも応援し続けますよ」
「うんうん! 私は幸せ者さ~! 優しい後輩がいてくれて嬉しいよ~!」
わしわしと祈里の頭を撫で回し、先程から異様なテンションでの言動を見せる彼女を圧倒した沙織が、今度は李衣菜へと視線を向ける。
楽しそうに笑いながら、何かを思い返したかのような懐かしさをその笑みに含めながら、親友と見つめ合った沙織は、少し落とした声で李衣菜へと感謝の言葉を告げた。
「李衣菜ちゃんもありがとうね。またこうして会えて、嬉しいよ」
「……まあ、色々と心配掛けたからね。問題なく活動を続けてるってことを教えてあげるための丁度いい機会があったから、呼んであげただけよ」
クールに返答しているようだが、その声からは親友が自分の晴れ舞台を観に来てくれたことへの喜びが滲み出ている。
感情を隠し切れていない李衣菜を零や他のメンバーがにやにやとした笑みを浮かべながら見守る中、そんな周囲の面々の様子に気が付いた彼女は、咳払いをした後に気を取り直してから2人へと言った。
「久しぶりね。今日は楽しませてあげるから、覚悟なさい!」
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