上映会が終わった後、男性陣……

「澪にも話したけど、映画のセレクトを間違えた。もっとゴア描写のマイルドなスラッシャー映画にすべきだったよ」


「まあ、そこそこ新作で最近ゲームも出たばかりの映画ですし、そっちを出そうと考えちゃうのも仕方ないと俺は思いますけどね」


「……それと、スラッシャー映画って大体がベッドシーンがあるのがお約束だからさ。そういうのを避けてたらこの映画になったって理由もあるよね」


「ああ、なるほど……」


 それから暫くして、急遽開催されることとなったお泊り会に強制的に参加させられる羽目になった零と優人は、リビングで先の映画について話していた。

 既に零の部屋でシャワーを浴びた二人はラフな格好になり、順番に風呂に入る女性陣と遭遇しないように待機している状況だ。


 どうやら優人は割と本気でスラッシャー映画が好きなようで、先ほど見た映画に関しての感想を結構熱めに零へと語っていく。


「さっきの映画はスラッシャー映画の始祖ともいえる作品のリメイクというか、リブートというか、続編みたいな立ち位置なんだけど、内容がね……」


「微妙でしたか? 俺は結構力入ってた思いますけど?」


「殺害の描写は良かったよ。バス内での大量殺戮も気合が入ってたと思う。でも、ストーリーがね……スラッシャー映画っていうのは、大概にして被害者たちが理不尽にも凶悪な殺人犯に襲われ、犠牲になっていくっていうのがミソなんだ。だけどこの映画の場合、殺人鬼側には敬愛する人間を間接的にとはいえ殺されたという動機がある。結果、殺人鬼に対して復讐を応援する気持ちが生まれてしまうし、老婆の死のきっかけを作った犠牲者たちには殺されても当然という感想を抱くようになってしまう。これが新作の映画ならそれでも良かったんだろうけど、世界一怖い映画と呼ばれたスラッシャー映画の新作だからね。オリジナル版の殺人鬼の恐ろしさを知ってる身からすれば、その恐怖や設定が崩れてしまうこの映画は微妙と言わざるを得ないかな……」


 そう、熱く長く感想を語ったところでハッとした優人は、苦笑を浮かべながら零へと言う。


「……ごめん。厄介ファンの長々とした感想を聞かせちゃったね。零くんはあんまりこういう映画に詳しくないだろうし、あまりこういう話をすべきじゃなかった」


「いえ、結構楽しかったですよ。少なくとも俺は、優人さんが熱く映画について語る姿が見れて、嬉しかったです」


 結構ミステリアスな部分が多かった兄貴分の意外な姿が見れたことを喜ぶ零は、謝罪する彼に向かってその気持ちを伝えた。

 優人は照れ臭そうに笑った後、女性陣が集合している寝室の方を向いて口を開く。


「零くんにはちょうど良かったのかもしれないけど、他のみんなには刺激が強過ぎたかな……次があったら、もっと取っつきやすい作品を紹介することにするよ」


「あはは! そうしてあげてください。でもその前に、轟さんと臼井さんのおすすめ映画を見る会を企画した方がいいんじゃないですか?」


「ああ、そうだね。どうせなら配信でやるのも良さそうだな……」


「今日の仕返しをされないといいですね! ヤバい映画を持ってくるかもしれませんよ!」


「……轟さんならやりかねないな、本当に」


 なんだかんだでグロに耐性がある男性陣は今日の映画上映会を楽しんだ上で絆を深めたようだ。

 血みどろの映画を観終わった後だとは思えないくらいに楽し気に二人が話をする中、ふと零がこんな質問を投げかける。


「そういえば、須藤先輩は優人さんの趣味を知ってたんですよね? あの人もスラッシャー映画好きだったんですか?」


「あ~……いや、違うね。澪はその、とんでもなく不幸な出来事に遭遇した結果、僕の趣味に付き合ってくれるようになったっていうか……」


 優人の彼女である澪は、彼がああいったスラッシャー、ないしはゴア・スプラッター映画が好きであることを知っていた。

 ということは澪も女性には珍しく最初からああいう手合いの映画が好きだったのかと質問する零に対して、優人は苦笑を浮かべながら過去の出来事を語っていく。


「昔、色々と偶然が重なった末に澪が僕の家に泊まることになったんだ。で、偶々ちょうどその日にサブスクサイト限定でとあるスラッシャー映画が公開されることになってたんだ。それがまあ、キャッチコピーに『全米が吐いた!』って文言が使われるくらいにグロテスクな内容でね……その話を聞いてからずっと、僕は公開を楽しみにしてたんだよ」


「そ、そうなんですか……」


「で、まあ、そんな状況の中で澪が泊まることになってね。色々あったけど無事に彼女が寝静まったから、僕はこっそりその映画を見ようとしたわけ」


「ああ……その後の展開が読めました。何かの拍子に須藤先輩もその映画を見ちゃったんですね?」


「そういうこと。なんでこの状況で何もしないんだ! って怒ってたらしくて、それで僕に文句を言おうとこっそり部屋まで来たらしくてさ……そこで暗闇の中、ソワソワしながらイヤホンを付けてパソコンの画面を見つめてる僕の姿を見た。さてはアダルトな動画でも見てるんだろうと考えて、からかってやろうと忍び寄りながらどんなプレイや女優が好みなのかを確認するために画面を覗き込んだら――」


「全米が吐くレベルのグロい映画を見てしまった、と」


「そういうこと。その後は本当に大変だったなぁ……」


 遠い目をしながら過去を振り返った優人が、少しだけ楽しそうな声で呟く。

 その場面を想像して零も笑みを浮かべる中、話題の中心人物であった澪の声が不意に響いてきた。


「そうやっていきなりスーパーハードなスラッシャー映画を見てしまったあたしは、これ幸いにとゆーくんの手で血みどろスプラッターな作品が大好きな女になるように調教され……今や立派なグロ映画好きの女に開発されてしまったのです、よよよ……」


「僕の記憶では、泡を吹いてひっくり返った君が「今のは不意打ちだから驚いただけで、普通にこういうのも見れるし!」って主張して、自分から僕にこういう映画を見せるようせがんできたはずなんだけど?」


「内容はほぼ同じでしょ? ゆーくんはもっと、自分の趣味に付き合ってくれるかわいい彼女に感謝すべきだと思うけどにゃ~!」


「感謝はしてるよ。ただ、言い方含め、色々とツッコミどころが多いんだって……!!」


「ツッコミどころ? 上と下の穴以外にある? ああ、後ろの穴? あたしをスラッシャー映画好きにしたみたいに、こっちも開発してみる? やったねゆーくん! ツッコミどころがもう一つ増えるよ!」


「そういうところだって!! 零くんの前なんだから、少しは控えてよ!!」


 ぺんぺんっ、と大きなお尻を叩きながらの澪の発言に慌てた様子でツッコミを入れる優人。

 先輩の下ネタは笑えないが、普段冷静な彼がここまでペースを乱される姿は面白いなと思いながら零が笑う中、澪と一緒に風呂に入っていた有栖が声をかけてきた。

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