Wカップル、会話を楽しむ……

「零くん、何話してるの?」


「ん? 優人さんと須藤先輩は本当に仲が良いな~って話だよ」


 風呂上がりのほんのりと上気した肌を見せ、シャンプーのいい香りをふわりと漂わせる有栖へとそう答える零。

 流石に彼女の前では下ネタは止めるべきと判断したのか、優人と澪も口を噤んでいる。


 零の隣に腰を下ろし、まだ少し湿っている髪をバスタオルで拭く有栖に対して、話題を変える意味も込めて零が口を開いた。


「お風呂、有栖さんたちが最後だったよね? 他のみんなはどうしてる?」


「寝室で毛布に包まりながらおしゃべりしてたよ。まだ完全に立ち直れてはないみたい」


「……やっぱり刺激が強過ぎたかなぁ? ああいう映画に慣れてると、どこのランクまでなら大丈夫かがわからなくなっちゃうんだよね」


「有栖さんは思ってたより立ち直りが早いね。一番怖がるタイプだと思ってた」


「わ、私はほら、零くんの最後のびっくりシーンを回避できたわけだし……そこの部分の差が出てるんじゃないかなって……」


「それに、頼りになる零くんが傍にいてくれるしね! 心強さでいったら半端ないでしょ!」


 もじもじとした様子で零に答えた有栖に対して、澪が半ばからかうような言葉を投げかける。

 その途端に有栖の顔の赤みが増したように見えたのは、勘違いではないだろう。


 そういえば、自分は有栖のことを結構長い間抱き締めていたんだな~と思い返した零も、そこでやっと気恥ずかしさを抱いたようだ。

 目の前で似たようなことをやっていたクリエイターカップルがいたせいで感覚が麻痺していたが、あれもあれでかなり大胆な行動だったよなと今さらながら慌て始める零へ、緩い笑みを浮かべた優人が言う。


「零くんは、映画館のカップルシートって知ってる?」


「え? ええ、席の間に肘掛けがなかったり、座席がソファーになっていたりするやつですよね?」


「うん。あとは脚を乗せる用の台もあったりして、ゆったり映画を楽しめるようになってるんだよ」


「……なんで今、カップルシートの話題を出したんですか?」


「さあ、どうしてだろうね?」


 ジト目でこちらを見つめる弟分の質問を華麗に躱しながら、自身のスマートフォンを操作する優人。

 程なくして零のスマホが着信を告げるバイブレーションを響かせ、それを手に取った彼へと笑みを浮かべた優人が言う。


「それ、この近くでカップルシートを採用してる映画館のリスト。良ければ参考にしてよ」


「参考にって……何の参考ですか?」


「それは自分で考えなよ。まあ、どう使うかは零くん次第だから」


 楽し気に笑う兄貴分が何を言いたいのかは、零にもわかっていた。

 視線を自分の隣に座る有栖へと向けてみれば、彼女もこちらへと視線を向けようとしていたところで、目が合った途端に慌てて顔を逸らしてくる。

 ただ、そうしながらも床に置いた指でちょんちょんと零の手を突いて何かをアピールしてくるその姿は、どうにもいじらしくて愛らしかった。


「どうでならダブルデートでもしちゃう? ベッドシーン有りの大人向け映画でも見に行こうよ!」


「落ち着いて、澪。良くない意味でエンジンがかかってきちゃってるから」


 またしても下ネタを口にし始めた澪へと冷静にツッコミを入れる優人。

 てへへと舌を出してごまかし笑いを浮かべる彼女の様子にため息を吐く彼だが、呆れよりも澪への愛らしさの方が勝っていることは明らかだった。


「ね? 仲良しでしょ、あの二人」


「うん、本当にそうだね……」


「にゃっはっはっはっは! お前たちも早くこのステージに辿り着くんだな! 先に行って待ってるぜ!」


「……僕たち、ここまで来るのにざっと二年ほどかかってるからね? ドヤ顔で言える立場じゃないよ?」


 そんな会話を繰り広げる中、部屋の壁掛け時計が深夜の到来を告げた。

 揃って時計を見た一同を代表して、優人が口を開く。


「さあ、そろそろ子供は寝る時間だよ。僕たちは、もうちょっと起きて大人のお楽しみと洒落込むけどね」


「お、大人のお楽しみ……? い、いったい何をするつもりですか!?」


「ふふふ……! 零くんは何を想像してるのかにゃ~? まさかゆーくんとあたしがここでチョメチョメなことをするとでも思った~?」


 うぷぷと煽るような笑みを浮かべながらの澪の言葉に、図星を突かれた零が押し黙る。

 そんな彼をフォローし、恋人を叱るようにチョップを食らわせた優人が、苦笑を浮かべながら言った。


「さっき話したでしょ? 澪が僕の趣味に付き合うきっかけになった、全米が吐いた! ってキャッチコピーの映画があるって。それの続編がサブスクサイトで配信されたんだよ。だからまあ、それを一緒に見ようと思ってね」


「本当は今日、ゆーくんの家でお泊りすることになってたんだけどね~! 状況が変わったからイチャイチャはお預けにするとしても、こっちの映画だけは見逃せないよ!!」


 ふんす、と鼻息を荒くしてそう言う澪は、どうやらリベンジに燃えているようだ。

 泡を吹いてひっくり返ったという優人の話も嘘ではないんだろうなと考えた零は、二人へと言う。


「了解です。じゃあ、俺たちは二人のお楽しみを邪魔しないようにしますね」


「ごめんね。僕たちはキッチンにいるから、零くんはリビングで寝ててくれ」


「いっそのこと、みんなに混じって寝室で寝ちゃえば~? 有栖ちゃんもそっちの方が心強いでしょ!?」


「そ、そんなことしたら、もう絶対みんなで燃えちゃいますよ……!」


 そんな話をした後、今度こそ解散した四人は、それぞれバラバラに動いた。

 有栖は寝室のメンバーと合流し、電気を消したリビングの中で零は横になり、人気のないキッチンで再び澪を膝の上に乗せた優人は、スマホを操作しながら彼女へと言う。


「大丈夫? 前作より予算が増えて、更にグロ描写に磨きがかかってるらしいよ?」


「舐めるなよ~! あたしだってゆーくんに鍛えられてきたんだから! もう前のような無様は晒さない!! 余裕で耐え切ってみせるって!」


 堂々と胸を張り、そう宣言する澪。

 大丈夫かなと不安になりながらも、ここで視聴を中止するつもりはない優人はスマホを操作して映画を再生し始める。


 ……その後、思っていたよりも過激な描写に怯えに怯えた澪は最終的に少し前の有栖よろしく震えながら優人に抱き着く羽目になり、予想以上の映画の内容と大好きな恋人のかわいい反応(と二つの大きな柔らかいお山の感触)に色々と満足した優人は、上映終了後はホクホク顔を浮かべていたそうな。

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