社長、盛大に勘違いする……(オチ)

「いや~……予想以上にひっどい映画だったね~……!」


「仮にも前作を見てるんだから、こうなることはわかってたでしょ? だからやめて注意したのに……」


「前作のお股から脳天までの逆真っ二つを見たら、これ以上なんかないって思っちゃうじゃん! 予算が増えたからか知らないけど、これでもかってくらいに残虐描写を増やしやがって……!!」


「でも前作よりマシじゃない? 休憩時間がちょくちょく取れるしさ」


「……ゆーくんってメンタル鬼だよね。零くんもそうだけど、ベクトルが違う意味で鬼メンタル」


 沙織の家での強制お泊り会の翌日のこと、優人と澪のクリエイターカップルは、夏に販売するボイス脚本の打ち合わせのために【CRE8】事務所を訪れていた。

 社長室で薫子を待っている間、昨晩に見た映画の感想を話し合う二人であったが、優人がケロッとしているのに対して、澪はどこかブルーさが残っている。


 内容が内容だから当たり前といえばそうなのだが、優人に鍛えられたグロ耐性をもってしてもここまでのダメージを残すというところから、映画のヤバさが伝わってくるだろう。

 一般ピーポーには易々と見せられない映画だなと改めて優人が思う中、深いため息を吐いた澪が呻くようにして言う。


「あ~……暫くはお肉が食べられそうにないな~……特にホルモンとかは無理。絶対に無理」


「あはは。まあそうだろうね。あれだけのものを見た後だし、映画を思い出しちゃうしね」


「そもそもあの映画の犠牲者たち、妙にタフじゃない? 普通、体を半分切られたら死ぬでしょ? なんで完全に両断される寸前くらいまで生きて、叫び続けてるの?」


「そこが全米が吐いたとまで言われる所以じゃない? お陰で凄惨さとか残虐さが際立っていいよね」


「……最近気づいてきたことなんだけどさ、優人って結構Sだよね。あたしを責める時とか、本当に嬉しそうだもん」


「君が誘い受け体質なだけでしょ? Mっ気が強いからいい反応をする澪が悪い」


「おい~っす! 待たせてごめんな! 早速で悪いけど、打ち合わせを始めようか!!」


 とまあ、二人きりだからできる下世話な会話をしていた優人と澪は、勢いよくドアを開けて部屋に入ってきた薫子の姿を見て、仕事スイッチを入れた。

 昨晩の出来事は忘れ、お仕事に集中していき……そのお陰もあってか、サクサクと打ち合わせが進んでいく。


 数十分後には大体の概要も説明し終わり、色々なものが形になっており、順調な話し合いに薫子も大喜びだ。


「お前たちが揃うと仕事が早くて助かるよ。梨子にも見習ってもらいたいもんだねぇ……」


 そんなことをぼやきながら視線を上に向けた薫子の目に、壁にかけられた時計が映る。

 そろそろ昼時かとそれを見て思った彼女は、上機嫌なこともあってかできる部下二人に食事を奢ろうと考えたようだ。


「よし! 昼飯にでも行こうか! 今日は私が奢ってやるよ!」


「おおっ! 薫子さん、太っ腹~! ありがたく、ゴチになりま~す!」


 いつも通りに元気な澪に囃し立てられ、増々機嫌を良くする薫子。

 そうしながら腕を組んだ彼女は、何を食べに行くのかを考えていく。


「さて、何を食べようか? このメンバーだし、おしゃれさとかは考えなくていいだろう。コスパとかも考えるとやっぱり……焼肉でも行くかい?」


「……えっ?」


 男性である優人もいるし、ガッツリと食べられる食べ放題ランチでの焼肉なんかがいいだろうという薫子の案を聞いた澪の表情が一変する。

 薫子はそんな彼女の変化にも気付かないまま、話を続けていった。


「やっぱ肉がいいよな。赤みを帯びたカルビとか、王道の牛タンとか……かぶりつきたくなる!」


「うぐっ……!」


「そういえば、近くの店ではデカいカルビとか扱ってたよな? ほら、自分で切り分けて焼くやつ! ナイフでギコギコ切るのが結構楽しくて、結構好きなんだよなぁ~……!」


「ぐっ、うっ……!!」


「あとは……なんか今日はホルモンが食べたい気分なんだよ。ハツにシマチョウ、ハチノスにミノもいいねぇ! う~ん、考えてたら食べたくなってきた! 今日の昼は焼肉で決まりだな!」


「うっぷっ……す、すいません! ちょっとトイレ~っ!!」


 薫子の話を聞いていた澪は、昨晩の映画の内容を思い出してしまったようだ。

 込み上げてきた吐き気に口と腹を抑えながら猛ダッシュでトイレへと駆け出して行った彼女の背中を、薫子はぽかんと見つめていた。


「……どうしたんだ、あいつ? 具合でも悪かったのか? でも、会議中はそんな様子は一切なかったのに――はっ!?」


 ――薫子に電流走る。


 体調が悪くなさそうなのに不意に込み上げてきた吐き気。

 優人という愛する恋人の存在。

 そして……結構な頻度で行われる夜の営み。(実際は配信や作業等があるので頻度は高くない、薫子の勝手な想像である)


 そこから導き出される結論は一つだと……そう考えた薫子は優人に向き直り、真剣な表情を浮かべながら口を開く。


「狩栖くん……!」


「あ、はい。申し訳ないんですが、昼食は肉系以外のお店にしていただけると――え?」


 ガシッと、優人の肩を掴む。

 激励とほんの少しの嫉妬を含めた眼差しを彼に向けた薫子は、大いなる勘違いの下にこんな言葉を口にした。


「色々と、頑張れよ……! あと、育休とかの相談にも乗るから、今度澪を含めて話し合おうか……!!」


「いや、あの、え? なんで?」


 暫し、薫子の言葉の意味が理解できなかった優人は、頭の上にはてなマークを浮かべ続け、困惑しっぱなしだったそうな。

 その後、誤解が解けたことで色々と落ち着くことはできたが……こんな予想外の事態が起きるなんてなと、自分の趣味が引き起こした事態に、優人は遠い目で宙を見上げるのであった。


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明日の10時に(ひっどい)おまけがあります!

ちょっとした宣伝もあります!(心の広い人は)読んで!!

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