スタート地点は死の大地

「……で? どうしてこうなった?」


 ゲーム開始から数秒後、枢は死んだ目で画面を見つめながらそうぼやいていた。

 その目に映っているのは広大な大地……といえばそうなのだが、ちょっとだけ意味合いが違う。


 一面、肌色。木も岩も草も何もない、真っ新な土地。

 ギラギラと照り付ける太陽によって水分のゲージがみるみるうちに削られていくこの土地の名は砂漠……砂しか存在していない、不毛の土地だ。


「普通さ、こういうのって町とかから始まるんじゃねえの? そうじゃなくったって、少しは過ごしやすい場所からスタートするもんだよなぁ!?」


【流石は枢www開幕ベリーハードとか、持ってるわwww】

【食糧も水も何もないじゃん……マッドワールドサバイバルくん、手厳し過ぎない?】

【大外れのスタート位置だけど、ある意味大当たりでもあるよな】


 本当に笑ってしまうくらいに何もない砂漠のど真ん中に放置された枢は、先程までの自分の期待を返してくれと天に祈った。

 多くの人たちと出会い、協力したり争ったりしながら生活を充実させ、この世界で生き抜いていくプレイを想像していたというのに、どうしていきなり周囲に誰もいない不毛な土地に投げ出されなければならないのだろうか?


 これはもう完全に外れスタートだと、一度死んで全てをリセットした方がいいと、そう考えて最初の生を諦めようとした枢であったが、コメント欄ではこんな声が上がっていた。


【諦めるな、くるるん! 厳しいかもしれないけど、十分に生き残れる可能性はある!】

【マッドワールドサバイバルは初期スポーン位置の周辺に生きるのに必要な物資とかが揃ってる場合が多い! むしろここで死んだら、次は完全にランダムな位置で生き返ることになるぞ!】

【とりあえず周囲を探索してみようぜ。生き延びるのに必要な水とか発見できるかもしれないしさ】


「え~、そうなのか? んじゃまあ、お前らを信じて適当に探索してみっか……」


 初期スポーン位置の周辺には、必要最低限の水や食料があることが多いというコメントを信じ、キャラクターを操作して探索を開始する枢。

 まあ、このままぼさっと立ったまま死を待つわけにもいかなかったし、どうせ失うものなんてないのだから強気に調査を進めてみようと動いていた彼の目に、青く光る何かが映る。


「あっ! マジであった!! あれ、オアシスだろ!? 水だ水だ~っ!!」


【うっひょ~っ! 最高だぜ~っ!!】

【これで生き延びられる!!】

【諦めずに足掻くとどうにかなるもんなんだなあ……!】


 砂漠のど真ん中に出現した緑の楽園、オアシスへと歓喜の声を上げながら突撃した枢は、キャラクターを泉の中に飛び込ませるとボタンを連打して乾いた喉を潤していった。

 危険値まで低下していた水分のメーターが一気にMAXまで回復したことを確認した彼は、自分が取るべき次の行動を確認し始める。


「水はこれでOKだろ? じゃあ、あとは飯か! 食える物とかどうやって調達すればいい?」


【オアシスにはヤシの木があるから、それで数日はしのげると思う。あとはサボテンだね。砂漠の貴重な食料】

【ヤシの実を食べると時々種が手に入るから、それをオアシス周辺の土地に植えればいい。サボテンの場合は砂漠ならどこでも育つから便利】

【そんなことよりくるるんが入ったその泉の水、いくらで売ってくれますか?¥5000】『Pマンさん、から』


「ヤシの実とサボテンな、OK、OK! あれ? もしかして俺って、順調に滑り出しちゃったりしちゃってる!?」


【超順調。まさかの事態】

【砂漠に放り出された時はどうしようかと思ったけど、これならかなりいい感じ】

【家も砂を集めて砂岩を作ればどうにでもなる。木材が少ないのが気になるけど、そこはヤシの木が増えたら伐採しちゃえばいいだけだし、サボテン探してる間に多少は手に入るでしょ】


 リスナーたちからアドバイスを受けつつ、生活基盤を作り上げるために行動していく枢。

 水場を発見できた今、次に必要な食料を確保すべく動き出した彼は、ギラギラと陽光が照り付ける砂漠を元気いっぱいに駆け回り始めるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る