愛鈴とデートに行くなら、こんな感じ
「新作グッズに限定版のブルーレイ、来月発売のCDも予約しないとね……オタショップに行くとやることが多くて困るわ~。いや、楽しいんだけどさ」
店のカウンター近くに張られている発売予定表を見ながらぶつぶつと何かを呟く愛鈴。
そんな彼女ではなく、アニメグッズが大量に並べられている店内の光景を見つめていた枢は、未知の領域に圧倒されているようだ。
フィギュアやアクリルスタンド、キーホルダーなどのグッズはもちろんのこと、漫画やライトノベル、主題歌CDに話題作のDVD、ブルーレイなど、多種多様に渡る品々が取り揃えられている。
客層も老若男女が入り乱れており、自分が想像していた光景とまるで違う店内の様子に枢が驚く中、常連客である愛鈴が得意気に話をし始めた。
「あんた、こういう店は初めてよね? 思ってたよりもお洒落で、人も多いでしょ? 最近はアニメ漫画だけじゃなくて、ソシャゲとかにハマった女の子のオタクとかも来るし、そういう部分にも気を遣ってんのよ」
なるほど、と一昔前のオタクブームからまた少し変化した流行りというものを感じ取った枢が愛鈴の言葉に頷く。
偏見を持っていたというと表現が悪いが、思っていたよりもずっとお洒落なこの店ならば、あまりオタク知識に明るくない自分でも楽しめそうだと考えた彼へと、愛鈴が続けて言う。
「あんたねえ、仮にもVtuberなんだから、こういうサブカルチャーにはある程度詳しくなった方がいいわよ? 忙しいのはわかるけど、世の流行りについていけないと取り残されていくだけなんだから」
確かにまあその通りだと、反論もせず頷く枢。
どうせならばそういった知識が豊富な彼女にご教授してもらいつつ、おすすめの作品について教えてもらおうと考えた彼がその要望を愛鈴へと伝えれば、彼女は満面の笑みを浮かべてその申し出を快諾してみせた。
「いいわよ! 私が最近の話題作から往年の名作まで、あんたにバッチリ教えてあげる! 頭のてっぺんまで沼に沈めてやるから、楽しみにしてなさい!」
どうやら愛鈴も自分の好きなアニメの話ができて嬉しいようだ。
ふんすと鼻息を荒くして(無い)胸を張る彼女の姿を苦笑しつつ見つめる枢へと、愛鈴が店の奥を指差しながら言う。
「んじゃ、まずは取っつきやすい漫画コーナーから攻めるわよ! 気に入った作品があったら全巻買いなさい! そんだけの稼ぎはあるでしょ!? あと、終わったらVtuberコーナーも行くわよ! 本業の流行りも調べておくのも大事なことなんだから!」
はいはい、とはしゃいでいるようにも見える彼女に返事をしつつ、その背を追って歩き出す枢。
彼女のおすすめ作品に対するトークを聞く役に徹する彼は、そこでいい感じに相槌を打ちつつ、話を広げ、今日のデートを上手く盛り上げていくのであった。
「……とまあ、こんなふうに相手の趣味がわかっていてかつ、相手が饒舌な性格だったら、会話の主導権を譲った方が案外上手くいくもんだぞ。その場合、相手の話はしっかり聞いて、適度に相槌とか質問をしてあげような」
【こっちが無理に話を広げる必要はないってことか、メモメモ】
【ぶっちゃけこれはくるるんの得意分野な気がする】
【話をするのは苦手だが、話を聞くのなら得意! 次からこの方法使ってみる!】
わかりやすい趣味と饒舌さを持つ愛鈴を例に出した教えは、多くのリスナーたちからも好評を博している。
その場の光景が目に浮かぶようなわかりやすい枢の話は、初デートを迎える若者だけでなく、他の男性リスナーたちの役に立っているようだ。
最早、一人だけのためのデート指南ではなく、全体からの質問に答える羽目になっている枢へと、また別のリスナーがこんな質問を投げかける。
【さっきデートではラーメン屋に行かない方がいいって言ってたけど、他にやっちゃだめなこととかってある?】
「うん? う~ん……大前提として、行きたい場所ははっきり伝えておいた方がいいと思うぞ。サプライズで楽しませたいとかの気持ちがあるのかもしれないけど、どこに行くのかがわからないとそれに合わせた準備ができないじゃん? バッチリメイクとか決めてお洒落完璧! ってなったのに、暗い映画館でお互いの姿を見ない時間が長く続いたりしたら、女の子からしてみるとガックリしそうだろ? それと……ああ、そうだ! すげえ大事なことを言い忘れてた!」
質問に対して一般常識的な返答をした後、何か大事なことを思い出したであろう枢がパチンと手を叩く。
声を大きくした彼は、今しがた思い出したその情報をリスナーに紛れているガラポンへと伝える。
「絶対に二人きりで密室になる空間に行くなよ!? 正確には、自分からそういうところに行こうって女の子を誘うんじゃねえぞ!」
【密室空間……? ホ○ルとか?】
【出てくるのがその場所な時点でお前がモテない理由がわかった】
【パッと出てくるのはカラオケとかかな? 確かに初デートの相手に長時間二人きりになるような場所に行こうって言われたら、女の子からすると警戒しちゃうかも】
「あとはプリクラも地味にそうだったりするから、そこも気を付けてな。本人にその気はなくっても、相手から下心がある男って思われたら印象がた落ちだからさ」
そう注意する男が初デートで異性と二人きりでプリクラを撮ったことに関しては触れてはいけない。
事情を知っている面々からはお前が言うなとツッコまれそうではあるが、この注意に関して枢は一つの例外を付け加える。
「ああ、女の子の側から言われたら話は別だぞ? だとしても紳士的に振る舞って、変な真似はしないっていうのが大前提だけどな」
【いやでも異性と密室で二人きりになったらそういうことをしてもいいんじゃないかと童貞は思うんですが……】
「いやいや、そういうことを一切考慮しない人っているから! 例に出すと……たら姉とか!」
仮に向こうから誘われて二人きりになったとしても、がっつくような真似はするなと念を押す枢。
向こうは単純に遊びとしてそういった場所に一緒に行こうとしているだけだという可能性もあると、そういうことをする女性もいると、そのことを伝えるために彼はまたしても例を挙げて話をしていった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます