リアとデートに行くなら、こんな感じ

「蛇道さん! すごいですよ、このラーメン! 真っ黒なんです、真っ黒!! あっちにはレモンのラーメンもありましたし、日本には珍しいラーメンがいっぱいあるんですね!!」


 醤油をベースとしたインパクト抜群な真っ黒いラーメンをこちらへと見せつけながら、瞳をキラキラと輝かせて語るリア。

 麺が伸びないうちにといただきますをした彼女は、ほとんど一瞬でそれを平らげると幸せそうな笑みを浮かべる。


「んむ~っ! たげうめぇ! 見た目みっぱよりずっと食いやすぇね、こぃ!!」


 濃い味付けではあるが、くどいわけではない。

 太めの麺も食べ応えがあっていいし、サイズが小さめなのが残念だとブラックラーメンの感想を語った彼女が、手を合わせてごちそうさまの挨拶をする。


 スープを最後の一滴まで飲み干した後、次なる獲物を探して会場をぐるりと見渡した彼女は、四方八方から漂ってくるいい匂いに鼻をひくひくとひくつかせてから言う。


「ご当地ラーメンフェスタって、こった面白ぇお祭りがあったんだね! 連れでぎでぐれで、ありがとうございます!」


 大食いのスイは、右を見ても左を見ても美味しそうなラーメンの屋台が並ぶこのお祭り会場に興奮を隠せないようだ。

 子供のように無邪気な笑みを浮かべながら、彼女は枢と共に会場を歩き、次に食べるラーメンを吟味していく。


「さっきしゃべったレモンのラーメンも美味すそうだす、北海道の味噌ラーメンもいなあ……! サンマーメンっていうのも捨てがたいし、迷ってまりますね」


 まだまだ胃の容量には余裕があるリアだが、それでも目に付くもの全てを食べ尽くすような馬鹿な真似をするほど愚かではないようだ。

 のんびりと会場を観て回り、枢との会話を楽しんでいた彼女は、ある店を目にするとそこを指差し、叫ぶ。


「あ~っ! あれ、あのお店に行ってみましょう、蛇道さん!」


 言うが早いが小走りに駆け出し、遅れた枢へと早く早くとでもいうように手招きするリア。

 そんな彼女の突拍子のない行動に戸惑いつつも付き合った枢は、運ばれてきたラーメンを彼女と共に食していく。


「じゃじゃ~ん! どうだが!? 青森の名物、味噌カレーべご乳ラーメンですよ!」


 味噌ベースのスープの中に牛乳とカレー粉を混ぜて作った、青森のB級グルメ『味噌カレー牛乳ラーメン』。

 名前だけ聞くと完全にゲテモノ料理だが、食べてみると普通に美味しかったりする。


 カレーのスパイシーさと牛乳のマイルドさがまろやかな味噌スープと合わさることでいい感じの味に調整されているそのラーメンを食べた枢が意外な美味しさに目を見開く中、今までとは違った雰囲気の笑みを浮かべたリアが口を開いた。


「気さ入ってもらえだみだいでえがった! 蛇道さんに地元のうめぇ物紹介でぎで、嬉すい!」


 そう言ってからずるずると音を立ててラーメンをすすり、実に満足気な呻きを上げながら足をばたつかせるリア。

 今度はのんびりと、枢とペースを合わせながらラーメンを食べ進める彼女は、その途中で彼へと言う。


「蛇道さんには都会の案内ばっかすてもらってまって、ありがだぇやら申す訳ねやらの気持ぢでいっぱいだ。お礼になるがはわがらねばって、蛇道さんがわーの地元さ来だっきゃ、わー案内すます! うめぇ物、楽すいどごろ、一緒さいっぱい周って楽しみましょうね!」


 このラーメンを紹介したのも、彼女なりの気遣いなのかもしれない。

 いつも世話になっている自分に対して、少しでも恩返しがしたいと考えたからこそ、リアは地元の名物ラーメンをおすすめしてくれたんだろうな……と考えた枢は、彼女に感謝しつつ、もしも自分が青森に行くことになったら喜んでリアと一緒に彼女の地元を周ろうと告げた。


「わーい、やったー! 絶対楽すまへでみせますはんで、期待すてでけね! ……あ、いげね! こうすてら間さ麺伸びでまりますはんで、急いで食わねど!!」


 お喋りに夢中になっていたせいでせっかくのラーメンの美味しさを損ねてはいけないと、大慌てで麺をすすり始めるリア。

 その横顔を見つめる枢は、なんだか微笑ましい気持ちを抱きながら、彼女のことを優しく見守り続けるのであった――






「……って感じでどうよ? 悪くないだろ?」


【確かにリア様はイメージしやすい。チョロいわけじゃあないけど、好き嫌いがはっきりしてるから助かる】

【サラッと地元デートの約束を取り付けてるの草なんだ】

【好みと目的が明確だとわかりやすくていいね! ガラポンくん、見てるか~!?】


「追加で悪いけど、食事にラーメンみたいな料理が出てくるのも食べ終わるのも早くなるものは止めとけよ。ゆっくり座って、のんびり落ち着いて話せる場所がいい。まあ、学生ならファミレスで十分だろ」


 リアを例としたデートプランを話しつつ、やってはいけないこともきちんと話す枢。

 本気でためになる彼のアドバイスを何人ものリスナーたちがメモする中、続けて彼は別問題を呈示しつつ、レッスンを進めていく。


「さて、お次は絶対にデート中に困るであろう会話デッキについて話をするぞ。これは要するに、相手と何を話すかってことなんだが……女の子との距離によって使える話題とかが決まってくるから、マジで具体的にアドバイスができん。強いて言うなら、無理に話を続けようとするな。相手の話を聞くことに注力した方が正解になる場合もある」


【自分語りばっかする奴って男も女もウザいからな、わかる】

【俺はそれで好きな子に振られました】

【泣くなよ、相棒。俺がついてるだろ……】


 移動や食事の最中にどんな話をするか? これもまた初デートに臨む男子たちの悩みの種だ。

 その部分に関して、枢は他の同期の名前を挙げつつ、できる限り明確な対処法を解説し始めた――

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