くるラブのお出掛け~一週間後に炎上するくるるん~

事の発端

「れ~い~く~ん! ちょっとお願いがあるんだけど、聞いてもらえないかな~?」


「……何すか? ってか、その喋り方気持ち悪いんで止めてもらえません?」


「おい、私の渾身のかわいい声を気持ち悪いとか言うんじゃねえ!」


 ある日のこと、急に電話をしてきたかと思えば、とんでもなく気色悪い猫なで声で自分を懐柔しようとしてきた天とそんな会話を繰り広げていた零は、この時点で何か嫌な予感を覚えていた。


 即座に申し出を断って電話を切ってしまえば巻き込まれずに済むのだろうが、それができないのが阿久津零という男の性格であり、美点であり、欠点である。

 ため息を吐きつつ、一応は話を聞いてやる構えを取った彼へと、天はお願いの内容を話し始めた。


「実はさ~、今度、私が推してるアニメが都内のカフェとコラボすんのよ。そこで食事するとグッズが貰えたりするんだけど、それに付き合ってもらいたいわけ!」


「……別にいいですけど、なんで俺なんですか? そこは喜屋武さんとかでよくないです?」


 要するに食事のお誘いというわけだが、それならばどうして自分を誘ったのかと天に問いかける零。

 こういう場合、異性の自分よりも同性の沙織の方が何かと都合が良さそうだし、彼女ならば断わったりしないだろうと考える中、天がその疑問に対する答えを述べる。


「いや~、その、ね……コラボカフェで貰えるグッズの中に、カップル限定の品があってですね……それを手に入れるために、是非とも阿久津零さんに協力してもらえないかな~、って……」


 カップル限定、の一言にぴくっと口の端を引くつかせた零が感じていた嫌な予感の正体を察知する。

 疑問は解消できたが、不穏な点が増えてしまったことで若干零が引き気味になったことを感じ取ったのか、天が彼を泣き落としにかかる。


「お願い! 頼れる相手はあんたしかいないの!! どうしても欲しいグッズだから、協力してください! 今度、埋め合わせをするから! 食事代も全額出すから! お願いします!! マジで!!」


「はぁ~……」


 必死の懇願を受けた零がうんざりとしたため息を吐く。

 しかし、ここまで言われると断ることができないのが彼という男の性分であり、面倒臭さや焦げ臭さを感じながらも、仕方がないと言わんばかりの口調で天へと承諾の意を示した。


「しょうがないっすねえ……今回だけですよ? サクッと飯食って、グッズ貰って、それで退散するってことでいいんすね?」


「いいっす、いいっす! ありがとうございます! 本当、持つべきものは男の同僚だわ~! あっはっはっはっは!!」


 随分と調子のいい天の態度に苦笑しつつ、彼女が喜んでくれるのならばまあいいかと考える零。

 こうして彼女とのお出掛けが週末の予定に組み込まれたわけだが……この瞬間に自分が炎上する未来が確定してしまったことを、この時の零は知る由もなかった。

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