#次回配信待ってるぞしゃぼん



「えっさ、えっさ、モッコモコーッ!」


「わっせ、わっせ、モッコモコーッ!」


「お前たち、頑張るパカーッ! 少しでも早く、この村の修理を進めるパカよ~!」


 半壊しためーめー村の中を資材を持って走り回る毛玉たちへと指示を飛ばしながら、自身もまた金槌を手に壊れた家屋の修繕に勤しむアル・パカーノ伯爵。

 村人たちと力を合わせて復旧作業に勤しむ彼らの姿を少し離れた位置で見守っていたくるるは、近付いてきためいと村長に声をかけられてそちらへと振り向いた。


「本当にありがとう、くるるくん。伯爵さんも改心してくれたみたいだし、村の復旧も順調に進んでるよ。どれもこれも、くるるくんが頑張ってくれたお陰だね!」


「村の代表として、わしからも感謝の気持ちを伝えさせてください。あれほど無礼な真似をしてしまった我々のためにここまでしてくださったこと、心から感謝しております」


『おい、誰かこの村長をぶっ飛ばす方法を教えてくれっす。自分の怒りは治まっちゃいねえってことを思い知らせてやらないと!』


【#黙ってろしゃぼん】

【#感動的なエピローグに水を差すなしゃぼん】

【異 物 混 入(定期)】


 ゲーム内では無事に事件が解決し、一件落着ムードが漂っているが、それを見守るしゃぼんの心は完全には晴れていない。

 アバターとはいえ、自分の息子を乱雑に扱っためーめー村の住人たちへの仕返しを目論む心の狭い彼女へと契約者たちがツッコミを入れる中、ストーリーは更なる展開を迎えていった。


「旅人さま、ちょっとよろしいでしょうか。少し、聞いてほしい話があるのです」


『なんすか? 謝罪の言葉ならもう遅いっすよ? めいちゃんを娶ってほしいって話なら、既に結婚してるから無意味っす』


「実は、ちょっと前に伯爵さんから話を聞いてね。どうして急にあんな大それたことをしたのかって、質問してみたの。そしたら――」


 以下は、めいたちが語ったアル・パカーノ伯爵の暴走の経緯である。


 めいに対して想いを募らせていた伯爵であったが、流石に村を破壊するといった暴挙に出るような過激さは持っていなかったようだ。

 そもそも、この地を治める者として、一定の人(アルパカ?)徳を持ち合わせていた彼が変貌してしまったのは、ある理由がある。


 今より数か月ほど前、彼の下に謎の存在が姿を現し、こんな誘惑を囁きかけたというのだ。


「お前に力をやろう。その力があれば、どんな望みも思うがままだ。誰もお前を止めることなどできない。この土地の全てが、お前の望み通りになるぞ……!」


 最初はその存在を怪しく思っていた伯爵であったが、繰り返される誘惑に負けてその謎の存在の手を借りてしまった。

 結果、伯爵は凄まじい力を得たわけだが、それと同時に良心を失い、欲望のままに暴走する怪物となり果ててしまったというわけである。


「そんなことが……じゃあ、この事件には黒幕がいたってことになるんですよね? そいつの目的は何だったんですか?」


「それはわからないの。伯爵さんに力を与えた後、その人はすぐに消えちゃったらしくて……何かを盗んだとか、誰かを攫ったとか、そういう被害はないみたい」


『おお……! 事件の裏で糸を引く謎の黒幕の登場! なんかRPGっぽくなってきたっすね!』


 少しずつ広がりを見せるストーリーの展開に胸を高鳴らせるしゃぼん。

 配信を見守る契約者たちもわくわくとこの先のストーリーに期待を寄せる中、村長がくるるへと言う。


「ですが旅人さま、伯爵の話では、その黒幕は南にあるカワキランドに行くと言っていたそうです。もしかしたら、そこでまた何か良からぬ騒動を引き起こそうとしているのやもしれません」


「そんな奴を放っておいたら、世界が大変なことになるぞ! 急いで後を追って、とっ捕まえないと!!」


 黒幕の存在と、その行く先を知ったくるるが大きく頷くと共に空を見上げる。

 そうした後で頭を下げた彼は、めいと村長に対してこう述べた。


「めいちゃん、村長さん、短い間でしたがお世話になりました。俺はカワキランドに向けて旅立とうと思います」


『あ、坊や、そのジジイにさんはつけなくていいっすよ。むしろジジイ呼びで十分っす』


「おお、そうですか……! 大したこともできず、お世話になりっぱなしで申し訳ありません。せめてですが、わしらは旅人さまのご無事を祈らせていただきますじゃ」


『無事を祈るだけじゃなくってせめて路銀くらいは出せよ~! 老い先短いジジイなんだから、金を持ってたって意味ないだろ~!?』


【しゃぼん、うるさい】

【#憎しみを抑えろよしゃぼん】

【配信者をうるさい呼ばわりするリスナーって俺たちくらいのものなんじゃないかな……?】


 キャラクターの会話に茶々を入れるしゃぼんを邪険に扱いつつ、ゲームのストーリーを楽しむ契約者たち。

 何だかもう、しゃぼんのゲーム実況を観ているというよりかはくるるの冒険を見守っている形になった彼らの前で、お待ちかねのシーンが訪れる。


「待って、くるるくん! 私も一緒に行くよ!」


【おっと、これは……!!】

【よしよしよしよし。ベネベネベネベネ】


 めーめー村を去り、一人旅立とうとしていたくるるを追ってめいがやって来たことにリスナーたちが歓喜する。

 息を切らせてくるるの下に駆け寄っためいは、ぐっと拳を握り締めると彼へとこう続けた。


「私もくるるくんと一緒に行く! どんな危険が待っていたとしても、こんな事件を起こす悪者を許すわけにはいかないから! それに、くるるくんに助けてもらった恩返しもできてないし……2人で協力しながら黒幕を追いかけて、世界に平和を取り戻そうよ!」


「めいちゃん……! ありがとう! 君がいてくれれば百人力だ!!」


『わーい! 坊やと嫁が2人旅! これはもう、実質ハネムーンなのでは?』


【#その意見に賛同するぞしゃぼん】

【これで既成事実ができたな。2人で同じ部屋に泊まったり世界を旅したりするんだから、新婚旅行でいいだろ】

【#絶対に明日枢は燃えるなしゃぼん】


 ――こうして、めーめー村での事件を解決したくるるは、そこで出会っためいちゃんと一緒に黒幕を追って南へと旅立ちました。

 彼はまだ知りません。この旅の先々に、想像を絶する困難が待ち受けていることを。

 そして、その困難を共に乗り越える多くの仲間たちと出会うという運命を。


 次なる目的地は南の都市カワキランド。

 砂漠に囲まれた荒れた土地ながらも、オアシスを中心に発展した大都市であるそこで、彼はまた新たな困難に直面することになります。

 果たしてくるるは黒幕を捕らえることができるのか? 黒幕の正体と、その目的は? 次はどんな事件が起こるのか?


 その答えは君の目で確かめてくれ!!


 【フレンドクエスト】第1章旅の始まり……完! 第2章へ続く!


『……いや~、いいお話だったっすね! ゲームとしても程よい難易度で、サクサク進められて楽しかったっすよ!』


 無事に1つ目のストーリーをクリアし、セーブ画面に突入したところで、しゃぼんはここまでゲームをプレイした感想を述べた。

 時刻は0時を少し回った頃、配信の時間を考えると、終わるのにちょうどいい時間帯だ。


『きりもいいし、ここらで配信を終わらせてもらいましょうかね。次もまたこのゲームをプレイすると思うんで、契約者たちも楽しみに待ってるっすよ~!』


【#次の配信はいつになるんだしゃぼん?】

【#頼むから半年後とか止めてくれよしゃぼん】

【配信の頻度を上げないとマジでクリアまで数年かかると思うんだが、そこんところどう思う?】


『あーあー、聞こえな~い! こちとらリアルでの仕事が忙しいんだから、配信頻度に関しては大目に見てほしいっす! また時間が作れたらプレイするから、大人しく待っとけ!!』


 普段から指摘されている配信頻度の低さについてコメント欄でチクチク嫌味を言われたしゃぼんがそれを完全に無視しながら契約者たちへと悪態をつく。

 その後、咳払いをして気を取り直した彼女は、配信を締める挨拶を口にしてからここまで付き合ってくれたリスナーたちへと別れを告げた。


『んじゃ、またの~! ここまで配信観てくれてありがとうございましたっす~!』


【お疲れ、またの~!】

【またの~!】

【#次回配信待ってるぞしゃぼん】


 なんだかんだでいい雰囲気で配信は終わり、暫く後に枠も完全に閉じられた。

 久々の柳生しゃぼんの配信はこうして大盛況の内に幕を下ろしたわけだが……。


【しゃぼん母さんへ、何だか俺の周囲が焦げ臭くなっています。心当たりがある場合はすぐに申し出てください。今なら半殺しで勘弁してあげますので。蛇道枢より】


 彼女の配信によって生み出された被害をモロに受けた息子の方は、母親の身勝手な行動に対して沸々と怒りを滾らせており、翌日にはお決まりのやり取りが繰り広げられると共に、加峰邸に断末魔のような泣き声が響き渡ったそうな。



【#息子を巻き込むのもいい加減にしろよしゃぼん】

短編・完! 次回配信に続く!

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