#長い戦いが終わったなしゃぼん



「くらえっ! 『炎上斬り』だーっ!!」


「ぐわああっ! い、痛いパカ~……! こ、このままじゃやられてしまうパカ!!」


「ひぃぃ! 伯爵様がピンチモコーッ!! もう我々はおしまいだモコーッ!!」


 そこからの戦いは順調そのものといった様子で、くるる&めいペアの一方的な虐殺ともいえる内容のものであった。


 邪魔な毛玉たちを蹴散らし、めいというHPを回復してくれる存在を取り戻したくるるは何の憂いもなく必殺の『炎上斬り』をアル・パカーノ伯爵へと叩き込み続ける。

 伯爵が弱体化したのか、あるいは愛しの嫁を取り戻したくるるがやる気を漲らせているお陰かはわからないが、心なしか先程よりも攻撃力が上昇しているように思える彼の猛攻を前に、ボスであるアル・パカーノ伯爵もたじたじになっていた。


 毛玉たちはそんな彼のことを助けることもなく、ただおろおろと泣き叫んで慌てるばかり。

 周囲から見ても決着は明らかなこの戦いに終止符を打つため、伯爵に囚われていためいが杖を振りかぶって彼を殴り付ける。


「やああっ!」


「うわ~っ! や、やられたパカーッ!!」


『いよっしゃーっ! どうだ、見たっすか!? やっぱり愛は勝つんだよな~!!』


【888888888】

【#よくやったぞしゃぼん】

【後は諸悪の根源であり、くるめいの間に入り込もうとしたこの大罪人を処刑するだけだな!】


 めい渾身の一撃を受け、数歩後ずさってからばたりと後ろに倒れ込むアル・パカーノ伯爵。

 獲得経験値や入手したお金、ドロップ品などが表示されるリザルト画面の中で大喜びするしゃぼんへと、祝いの言葉と物騒な発言が飛び交う。


 長い長い激闘を終え、ようやくめいの身柄を取り返し、めーめー村の仇を取った枢は、彼女と共に倒れる伯爵へと歩み寄ると彼に声をかけた。


「やい、起きろ! お前はどうしてこんなことをしたんだ!?」 


「う、うぅぅ……! めいちゃん、めいちゃん……とってもかわいいめいちゃんと結婚できると思ったのに、まさかこんな男に邪魔されるだなんて……」


「伯爵様がやられた! もうダメだモコーッ!!」


「逃げるモコ! どこか遠くへ逃げるモコーッ!!」


「あっ! 毛玉さんたち、どこかに行っちゃった……」


 薄情にも主であるアル・パカーノ伯爵を見捨て、どこか遠くへと逃げ出した毛玉たちを見ながら呟くめい。

 悪事を働いたことは変わりないが、流石にこれは可哀想だと伯爵に同情した2人が彼へと視線を向ければ、アル・パカーノ伯爵は駄々っ子のように手足をばたばたとしながら泣きじゃくり始めた。


「うわ~ん! もう吾輩はおしまいだパカ~! 吾輩はただ、めいちゃんをお嫁さんにして一緒に幸せに暮らしたかっただけだけなんだパカ~! 美味しいご飯を毎日食べて、綺麗なお洋服やアクセサリーをいっぱいプレゼントして、ふわふわのベッドでぐっすり眠って……そんな風にめいちゃんを幸せにしてあげたかっただけパカよ~!」


「伯爵さん……」


『まだ言ってるっすね、こいつ。坊やの嫁を奪おうだなんて考える奴には、粛清が必要だよなぁ?』


【過激派が許す、やれ】

【#皆の気持ちは1つだぞしゃぼん】

【くるめいの間に入る込もうとする奴は消すしかねえよなぁ!?】


 どこかしんみりとした様子のゲームイベントと打って変わって、配信内では過激な発言が飛び交っている。

 どうにもギャグにしかならない配信の空気を気にも留めずにアル・パカーノをどう消そうかだけを考えていたしゃぼんの前で、意を決しためいが彼へと自分の気持ちを告げていった。


「伯爵さん、私のことを好きでいてくれたその気持ちは嬉しいです。でも、だからといって私を強引に攫ったり、村の人たちを傷つけたりするあなたのことは好きになれません。ごめんなさい」


「うぅ……! わかっていたパカ。めいちゃんにもフラれてしまったし、もうこれで本当の本当におしまいだパカ……旅人よ、一思いにトドメを刺すパカ。そして、村を襲った怪物を倒した英雄としての名を手にするといいパカ。ぐすん」


『よっしゃ任せろ! お望み通りにしてやるっすよ!』


【ノータイム殺害宣言は流石に草】

【#ノリが良すぎるだろしゃぼん】

【#息子に手を汚させるなしゃぼん】


 潔く……というよりも全てが投げやりになっているアル・パカーノ伯爵が、くるるにトドメを刺すよう言う。

 その言葉にノリノリになって彼を斬り捨てようとするしゃぼんであったが……ゲームの中のくるるは一旦は剣を構えたものの、すぐにそれを鞘に納めると大きく首を振ってみせた。


「ど、どうしたパカ……? 何故、吾輩にトドメを刺さないパカ?」


「……ここでお前にトドメを刺したら、あいつらが悲しむからな」


「パカ……?」


 驚いた顔でくるるを見つめたアル・パカーノ伯爵は、彼が指差した方向へと視線を向ける。

 そこにまだ逃げ出していなかった毛玉たちがいることに気が付いた彼が更に驚きの感情を強める中、この場に残った毛玉たちが主の下へと近付いてきて、励ましの言葉を口にし始めた。


「伯爵様、まだ我々が残っているモコ。だから死のうだなんて思わないでほしいモコ」


「村の人たちに謝って、許してもらいましょうモコ。僕たちも復興にも力を貸すから、またやり直すモコよ」


「お、お前たち……!!」


 自分を見捨てないでくれた部下たちがいたことにうるうると瞳に涙を浮かべて感動するアル・パカーノ伯爵。

 剣を収めたくるるは、そんな彼の姿を見て大きく頷くと共にめいへと向き直ると彼女へと言う。


「これでいいよね、めいちゃん? あいつもきっと、反省してくれるはずさ」


「うん! 伯爵さんを許してくれてありがとう、くるるくん!」


『うわ、うちの坊や優し過ぎ……! それに比べて契約者たちは、血も涙もないっすね~!』


【は?】

【誰よりも伯爵への殺意を漲らせてたのはお前だろうが!】

【#自分のことを棚に上げるんじゃねえぞしゃぼん】

【お前、覚えてろよ……!!】

【くるめいの尊さでも浄化し切れない憎しみがここにある】


 感動的なムービーが流れている配信に対して、コメント欄は実に地獄絵図だ。

 こうして、初のボス戦を無事に攻略したしゃぼんは最初のステージをクリアし、このお話もエピローグへと進んでいく。

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