#愛を取り戻せしゃぼん



『うおっしゃーっ! かかってこ~い! 言っとくっすけど、今の自分は負ける気がしないっすよ~!!』


【#戦うのはお前じゃなくて枢だろしゃぼん】

【#息子の陰に隠れてイキるなしゃぼん】

【#ここで負けたら承知しないぞしゃぼん】


『ちょっとぉ!? 何でこれからボス戦だってのにそんな辛辣なんすか!? もっと応援のコメントとか頂戴よ!!』


 短いイベントの後に突入したボス戦は、しゃぼんと契約者との普段通りのやり取りから始まった。

 応援らしい応援が一切見つからないコメント欄の様子に歯軋りしながらも気を取り直した彼女は、冷静に相手の状態を確認していく。


『ふむふむ、敵は大ボスが1匹と取り巻きが数匹って感じのあるある構成っすね。あれ? なんか芽衣ちゃんの檻も攻撃対象にできるんすけど、何これ?』


 相手は敵の首魁であるアル・パカーノ伯爵が1体とその脇に控える取り巻き毛玉が2体、更にそこにめいが閉じ込められている檻も加わって、合計4体の相手が攻撃対象となっている。

 こちらに敵対の意志を見せているアル・パカーノ伯爵と毛玉だけを数えたとしても1対3という不利な状況ではあるが、しゃぼんにはその数の不利を覆す必殺技が存在していた。


『敵が何体いようと関係ね~っす! くらえ! 『拡散炎上斬り』ーーっ!!』


「や~っ!」


「わーっ!? 熱いモコーッ! 体に火が燃え移ったモコーッ!!」


「あちちちちち! 誰か、助けてーっ!!」


「ああっ!? 貴様ら、何をバタバタしているパカ! その程度の炎で慌てる暇があったら、気合を入れて戦うパカ!」


 炎属性を持つ『拡散炎上斬り』によって弱点を突かれた毛玉たちは、大ダメージを受けると共に体を燃え上がらせて行動不能状態になっていた。

 そんな部下たちを叱責するアル・パカーノ伯爵も相当なダメージが入っており、彼もまた毛玉たちと同様に炎属性が弱点であることを理解したしゃぼんがどんどん調子に乗りながら叫ぶ。


『ふっへっへ……! 今日のご飯は焼きアルパカっすよ~! 部下の毛玉たちを燃料にして、こんがりじっくり焼いてやるからな~!!』


【#発想がサイコパス過ぎるぞしゃぼん】

【普通に怖い】

【性格が本当に悪魔なんだよなぁ……】


『うしししししっ! 覚悟しろよ、アル・パカーノ! お前の肉をメインディッシュにして、ここで坊やと芽衣ちゃんの結婚式を開いてや……あら?』


 ボスに対する憎悪を滾らせながらド外道な言葉を口にし続けていたしゃぼんであったが、そこでゲームがとあるイベントに突入したことに気が付いてぽかんとした表情を浮かべる。

 戦場では、全体攻撃である『拡散炎上斬り』によってついでのように攻撃を受けた檻がガタガタと揺れると共に、その中に閉じ込められているめいがこんなことを言い始めていた。


「きゃああっ!? ……あっ! この檻の鍵がちょっと歪んでる! このまま攻撃を続ければ、鍵が壊れて出られるかも……!!」


『な、なんだって~っ!! こうなりゃもう、ガンガンいくしかないっすな~っ!!』


 憎きアル・パカーノ伯爵に攻撃できるだけでなく、囚われの花嫁を救助できると知ったしゃぼんが、俄然やる気を漲らせながらコントローラーを握り締める。

 体力をそこそこ消耗する『拡散炎上斬り』ではあるが、この状況下ではそのリスクを承知の上で使用する価値があると判断した彼女は、くるるのHPを犠牲にしながら必殺技を連発していった。


「おりゃあーっ! てりゃあぁっ! せぇぇいっ!!」


「うわあっ!? もうダメモコーッ!」


「体がボーボーで戦いどころじゃないモコーッ!!」


「ああっ!? 部下がやられた! くそう! こうなったら吾輩が直接、貴様を始末してやるパカ!」


 炎属性攻撃を受け続けた毛玉たちは何もできないままにHPを0にして退場し、残されたアル・パカーノ伯爵が激怒しながらくるるとの1対1の決闘に臨んでくる。

 その間にもずっとめいを閉じ込めている檻を攻撃し続けたしゃぼんの指示によって彼の体力も危険な域に突入しようとしていたが……限界ギリギリまで攻めたその行動が、遂に報われる時がやってきた。


 ――バッキャアアンッ!!


「ぎゃ~っ!? めめめ、めいちゃんを閉じ込めていた檻がーーっ!!」


「めいちゃん、大丈夫か!?」


「はいっ! ありがとう、くるるさん! 私も一緒に戦います!!」


『よ~しよしよしよしよし!! めいちゃんの奪還完了っ! これで後はこのアルパカをボコボコにするだけっすね!!』


 囚われていた花嫁を救出し、彼女がパーティに復帰したことを確認したしゃぼんが歓喜の叫びを上げる。

 回復役を務めてくれているめいが戻ってきたとあれば、唯一の懸念点であったくるるのHPの消費に関する問題も解消されたのと同じだ。


『さあ、クライマックスっす! いくぜいくぜいくぜーーっ!!』


 陣形はこれ以上ない最高のものに整った状態で、数の不利も逆転した2対1の状況にまで場を好転させたしゃぼんを、くるるとめいを、止められる者などどこにも居はしない。

 長い長いゲーム実況、序章となるストーリーの最後に待ち構えていた悪徳領主アル・パカーノ伯爵。

 この配信の締めとなるボスとの戦いが、大詰めを迎えようとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る