始まる上映会、零が感じる違和感……

「いやぁ、狩栖さんイチオシの映画を見せていただけるだなんて、とても嬉しいです。念のため確認しますが、私たちに忖度して別に好きじゃないやつとか選んでないですよね?」


「そこは大丈夫! 間違いなくゆーくんが好きな映画だってことはあたしが保証するよ!」


 それから暫くして、二期生のお泊り会の時と同じように沙織の部屋に集合した一同は、優人が好きな映画の上映会を開催していた。

 横一列に並んで期待に満ちあふれた表情で上映開始を待つ一同は、楽しそうにおしゃべりをしている。


「映画の内容もそうですが、狩栖さんの趣味がわかるのもちょっと楽しみですよね」


「そうよね~! なんかミステリアスな人だし、こういう部分から趣味がわかればいいわよね!」


 ここで今さらではあるが、この会に参加しているメンバーを並び順と共に紹介しておこう。

 テレビの真正面には優人の同期である二人が並び、伊織は隣に座る天と楽しそうに話している。

 後輩と話す彼女の隣にはこの部屋の主である沙織が座っており、貧乳が巨乳に挟まれるサンドイッチができあがっていた。


 そんな三人の反対側、瞳をキラキラと輝かせて上映開始を心待ちにしている紫音の隣には、零と有栖のカップルが腰を下ろしている。

 残る澪は一番端に大きなお尻を置いており、ロリ巨乳とたらばのHなたわわが全体を挟むという形だ。


「狩栖さん、こっち側に座るんですよね? スペース、大丈夫ですか?」


「ん~? 大丈夫、大丈夫! 気にしないで!」


 TVの前で自身のスマホを同期させ、上映の準備をしている優人の背中を見つめながら二人がそんな会話を繰り広げる。

 どこかまだ乗り気ではない様子の彼が難しい表情を浮かべる中、沙織が仲間たちへと口を開いた。


「じゃあ、映画館っぽく部屋の電気を消すさ~! 雰囲気出してこ~!」


「え? いや、明るい方がいいんじゃないかなって僕は思うけど……」


「いいじゃないですか。こういうのは雰囲気が大事ですよ、雰囲気が」


「ああ、まあ、うん……雰囲気は出る、だろうけど……」


 どこか歯切れの悪い返事をする優人は、部屋の電気を最小限まで落とした沙織にそれ以上ツッコむことはしなかった。

 スマホを操作し、問題なく映画の上映が始まったことを確認した彼が、いそいそと自分を待つ恋人の下に戻ってくる。


「なんかすいません。優人さんに無理強いしちゃったみたいで」


「あ、うん……別にいいよ。なんか、この後で謝るのは僕の方になりそうだし……」


「そんな気にしないでいいって! いざとなったらあたしも一緒に謝ってあげるからさ~!」


 零が優人へとそんな会話を繰り広げている間に、彼は自分を待っていた澪をあぐらをかいた膝の上に乗せて背後から抱き締める姿勢を取ってみせた。

 「スペースは問題なかったでしょ?」と言わんばかりの澪の笑みを見つめながら、こういうふうに堂々とイチャつける肝の太さはすごいよなと零が苦笑する中、映画が始まる。


「なんか人がいっぱいいるわね。旅行?」


「話を聞く限り、この町に引っ越してきた感じでしょうか?」


 物語は、大勢の若者たちがアメリカの寂れた町にやって来たシーンから始まった。

 どうやら彼らはこのゴーストタウンを自分たちの理想の町に開拓しようとしているようだ。


 そのために必要な人手や資金を確保するために、出資者を集めての説明会やパーティを開こうと計画を立てている若者たちの会話を聞きながら、ふむふむと頷いた紫音が呟く。


「なるほど、若者たちが頑張って計画を成功させるビジネス物ですか。狩栖さんっぽいといえば狩栖さんっぽいですね」


「経営者ものか~……! 半○○ピー樹とはちょっと違うわよね?」


「天ちゃん、流石にそれとは全然違うと思うさ~……」


 金も権力もない若者たちが、一致団結して成り上がっていくビジネス物の映画……というのが紫音たちが抱いた第一印象だった。

 確かにまあこの爽やかかつ何かが始まりそうな雰囲気を見ているとそう思えるのだが、零には一つ心配がある。


 映画をセレクトした優人の顔色が浮かないことと、彼の膝の上に座る澪が妙に笑顔であることだ。


 これは本当にただの勘でしかないのだが……死ぬほど嫌な予感がした。

 この映画には何かがあると、そう考えた零が警戒する中、少しずつその不穏さが映画にも表れ始める。

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