#息子の嫁はもう目の前だぞしゃぼん
「キャンキャン! モココココ……」
『うおら~っ! 燃えろ燃えろ~っ! 毛だらけの生物が炎に勝てると思うなよ~っ!!』
中ボス、毛玉ドーベルとの戦いは、序盤こそこれまでの雑魚敵とは一線を画す敵の攻撃力の高さに押され気味になったものの、体勢を立て直したくるるが得意の『炎上斬り』で優位を握った状態で進んでいた。
範囲攻撃も可能な『拡散炎上斬り』によって2体の毛玉ドーベルに同時に大ダメージを与えつつ、隙を見て回復を行う……という、いたってシンプルながらも確実な戦法によって、敵のHPは残りわずかにまで減らされている。
自分が有利になるとすぐに調子に乗る女こと柳生しゃぼんは最初の不意打ちで恥をかかされた鬱憤を晴らすかのように苛烈な攻撃を可憐な子犬たちに仕掛け続け、完全に天狗になっていた。
『おらおら~、どうしたっすか~!? なんか鳴り物入りで登場した割には弱いっすね~! こんなもんか、中ボス~っ!?』
【#息子の陰に隠れて調子に乗るなしゃぼん】
【#弱い者いじめして恥ずかしくないのかしゃぼん】
【#動物虐待だぞしゃぼん】
『ゲームなんだから調子に乗ってもいいでしょ~っ!? このっ! 見た目で不意打ちしかできない犬っころめ! 坊や怒りの一撃を受けて散れっすぅ!!』
【くるるん……ゲーム内でもなんか不憫な感じだなぁ……】
【このママに指図される時点でまともじゃなくなるのは確定だから……】
【息子の武力に頼ってイキる母親、なんとも情けない奴である】
普通に危な気なくボスを倒しているだけなのにこの言い様、これが契約者たちからの柳生しゃぼんの正しい扱い方なのである。
息子の配信を観に来るリスナーたちがあんな感じなのも、この母親の血のせいなのかもな……と思わせるコメントの流れが進む中、その息子の分身であるくるるを操作して渾身の『拡散炎上斬り』をぶちかましたしゃぼんは、2体の毛玉ドーベルたちへと見事にトドメを刺してみせた。
「キャウ~ンッ! モコ~ッ……」
『がっはっはっはっは! どうだ、見たか!? 坊やにかかればこんなもんよ!! あっ、お前ら、戦利品としてその毛置いてけぇ! 坊やのお洋服にしてやらぁ!!』
【#どっちが悪役だかわからんぞしゃぼん】
【#毛だけ貰ってもお前はそれを服にできないだろしゃぼん】
【#敵の毛をむしり取るなしゃぼん】
ボス戦後、情けない鳴き声を上げて逃亡していった毛玉ドーベルたちの背にそんな言葉を吐きかけるしゃぼんへと、契約者たちからのツッコミが殺到する。
最初のダンジョンの山場を難なく乗り越えたしゃぼんは、一旦後退してセーブポイントでこの状態を記録すると、意気揚々とアル・パカーノ伯爵の屋敷へと乗り込んでいった。
『こんちゃ~すっ! 主人公のくるるで~すっ! 連れ去られた嫁を取り返しに来たから、大人しく焼き毛玉&アルパカになるっすよ~!』
相手の弱点属性の攻撃を思う存分使うことができるしゃぼんに敵はなく、出現する毛玉たちはくるるの一撃によってあっさりと倒されていく。
途中、警備の責任者と思わしき毛玉を倒して『宝物庫の鍵』を手に入れたしゃぼんがそこへと向かえば、その中にあった装備品を入手することができた。
『おっ! 【まずまずのつるぎ】と【かわのよろい】、ゲットっす! こんな豪華な家に住んでるにしては、宝物庫に入ってる装備がチンケ過ぎないっすかね? 思ってたよりも財政が苦しいのか?』
【#泥棒しておいて文句を言うなしゃぼん】
【#ありがたく息子の装備として受け取れしゃぼん】
【#カッコいい剣と頑丈な鎧が手に入って良かったなくるる】
唯一の不安点であった装備も無事にアップデートが完了し、完全体となったくるるの快進撃は続く。
与えるダメージが増え、受けるダメージは減った彼の侵攻を止められる毛玉はもうどこにもおらず、気が付けば『炎上斬り』を使わずとも雑魚敵を蹴散らせるくらいにはレベルが上がり、更にその戦いは楽になっていく一方だ。
プレイしていてとても気持ちがいいが、このまま雑魚狩りを続けていても配信的には何一つとして盛り上がる部分がない。
こうなった以上はとっととボスを倒してステージをクリアしてしまおうとしゃぼんが考え始めた頃、その考えを見透かしたかのように大聖堂へと続く巨大な扉がくるるの前に姿を現した。
『セーブポイントもあるし、いよいよボス戦っすね! めいちゃんを攫ったアルパカに天誅を下してやるっすよ!』
【くるめい過激派です。裁判によってアル・パカーノ伯爵には死刑が命じられました。現場からは以上です】
【くるめいの間に入った奴は極刑か火刑って憲法で決まってるからね、ちかたないね】
【頑張れ! 嫁を取り戻せ、くるる!!】
契約者たちの応援を背に、大聖堂へと続く扉へと手をかけるくるる。
その瞬間、場面が暗転し、しゃぼんとリスナーたちの前でボス戦前のイベントシーンが流れ始めた。
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