#ついに中ボス戦だなしゃぼん
『ええ~……なんすか、毛玉ドーベルって? 名前から察するに番犬的な奴なんでしょうけど、妙に気の抜けた名前してるっすね~』
【#油断するなしゃぼん】
【#中ボスだぞしゃぼん】
【#そんなことよりめいちゃんを早く助けろしゃぼん】
という、イベントシーンを黙って視聴していたしゃぼんがまだ見ぬ強敵の登場を察知してそれについての感想を呟けば、契約者たちからのお決まりとなったコメントが殺到した。
火炎属性の優秀な技のお陰でここまでサクサクとゲームを進めることができている彼女は、また新たな敵を『炎上斬り』で倒しつつ、目前にまで見えてきたアル・パカーノ伯爵の屋敷へとくるるを移動させる。
やや趣味の悪い、成金感満載の屋敷の外観にうへぇという表情を浮かべていたしゃぼんであったが、その入り口となる巨大な門の手前にセーブポイントとなる魔法陣があることを見るや否や、スタートボタンを押してぷぐっと噴き出してみせた。
『うっわ~、ゲームの定番じゃあないっすか! ボス前のセーブポイントとか、わかりやす過ぎてワロタっすね~!』
【#回復はちゃんとしておけよしゃぼん】
【#負けるなくるるん】
【#毛玉ドーベルとの邂逅が楽しみだなしゃぼん】
『はいはい、回復っすね~。言われるまでもないっすよ~……こういうゲームとかやってて毎回思うんすけど、薬草とかポーションって傷口に塗って使うのか、それとも飲んだり食べたりして使うのか、どっちなんすかね?』
【それは、俺も、わからん】
【ゲーマーにとっては永遠の議題かもしれん】
【ポーションは飲むんじゃないかなと思ってたけど、前にアニメで頭から液体浴びてるシーンを見てから何もわからなくなった】
ボス部屋前のセーブポイントと、回復アイテムの使用方法。ゲームの定番であり、永遠に答えが見つからない問題でもある2つの要素に直面したしゃぼんは、そのことについて契約者たちと話しながら決戦の準備を整えていく。
HPを最大まで回復。MPは使用していないのでこちらも当然最大。他に問題はないことを確認した後、意気揚々とアル・パカーノ伯爵邸の門をくるるに潜らせたしゃぼんは、そこで待ち受けていた中ボスの姿に目を丸くした。
『あら~、かわいいっすね~! トイプードルちゃんかな~?』
「バウバウ! モコモコーッ!」
「グルルルルル……! モコーッ!!」
もこもことした白い体毛と、子犬のような小柄な体格。
パッと見ではトイプードルのような愛玩動物としか思えない『毛玉ドーベル』の姿にしゃぼんが頬を緩ませる中、番犬として解き放たれた彼らが侵入者であるくるるへと襲い掛かってくる。
『はいはい、こういうパターンっすね。まあ、先制攻撃くらいは甘んじて受けてやるっすよ』
どこからどう見ても愛らしい子犬としか思えない毛玉ドーベルの姿に油断し切っているしゃぼんは、ゲームの進行上どうしても先に攻撃されてしまうこのイベント戦でも余裕の表情だ。
2体の毛玉ドーベルたちがくるるに向かって突進し、彼の体を撥ね飛ばしたとしても、その表情は崩れることはなかったのだが――
『んげぇっ!? じゅ、12ダメージ!? ちょっ!? 攻撃力高過ぎないっすか!?』
――その攻撃によって受けたダメージが、これまでの敵とは比較にならない数値を叩き出してみせると、一瞬にして焦りの表情を浮かべ始めた。
ここまで戦ってきた毛玉たちの攻撃はどれだけ強くても5程度のダメージであり、くるるの最大体力から考えても十分に余裕があるものであったのだが……毛玉ドーベルはその倍以上ものダメージを容易に叩き出してみせたのである。
2体の中ボスからこのレベルのダメージを受け続ければ、くるるはあっという間にやられてしまう。
しかも、彼が技を使うには体力を消費するわけで、高い攻撃力を持つ毛玉ドーベル相手には高いリスクを背負うことになるのだ。
【#だから油断するなって言っただろうがしゃぼん】
【#息子にカッコいい防具を買ってやらないからこうなるんだぞしゃぼん】
【#負けるなくるるん】
『ぬぐおぉぉ……! こ、この犬っころめぇ……! ちょ~っとかわいいからって調子に乗りやがって、もう怒ったっすよ~!!』
【#誰よりも調子に乗ってたのはお前だろうがしゃぼん】
これで完全に油断していた甘い気持ちを消し去ったしゃぼんは、リスナーたちからの総ツッコミを無視しながら毛玉ドーベルたちとの戦闘に前のめりになっていった。
この高い攻撃力を持つ敵に対して、防御力を上げるための装備を買っていなかったことを悔やむ彼女であったが、もう後の祭りだ。
『お前らの弱点はわかってるんす! こうなりゃ、やられる前にやってやら~っ!!』
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