#いよいよボス戦だなしゃぼん



「モコーッ! モコーッ! 伯爵様、結婚おめでとうモコーッ!」

「めいちゃんもとっても綺麗モコよ~!」

「2人で幸せな家庭を築くモコーッ!」


 やんややんやと参列客である毛玉たちが主であるアル・パカーノ伯爵と彼の脅しに負けて花嫁として結婚式に参加しているめいへと囃し立てるような叫びを送っている。

 ほくほく顔の伯爵と、それに反して今にも泣き出しそうな悲しそうな表情を浮かべているめいというどこからどう見ても幸せいっぱいの男女とは思えない2人の結婚式ではあるが、新郎である伯爵と式を取り仕切る神父にはそんなことは関係ないようだ。


「え~、新郎、アル・パカーノ伯爵。あなたは新婦を妻とし、病める時も健やかなる時も互いに支え合い、愛し合うことを誓いますか?」


「パーッカッカッカッカ! もちろん誓うに決まってるパカーッ! めいちゃんと吾輩はずっとずっと幸せに過ごすんだパカ!」


 上機嫌そのものといった反応を見せるアル・パカーノ伯爵。

 念願のめいとの結婚が現実になったことを心の底から喜ぶ彼は、大事な彼女の意思というものをまるで無視している。

 形はどうであれ、とにかく結婚さえできればそれでいいのだと……そんな考えが透けて見える態度を取る彼から視線を逸らした神父は、今度はめいの方へと同じ問いかけを発した。


「新婦、めい……あなたは新郎と共にいついかなる時も支え合い、愛し合うことを誓いますか?」


「…………はい」


 とても……とても長い沈黙の後、絞り出すようにして肯定の返事を口にしためいががっくりと肩を落とす。

 めーめー村の人々のため、己の身を差し出してアル・パカーノ伯爵の暴走を止めようとする彼女であったが、やはり愛のない結婚をすることには強い抵抗があるようだ。


 それでも、こんなに渋々といっためいの感情が見て取れる返事の仕方であったとしても、彼女が自分との結婚を認めたことを歓喜する伯爵は、神父に命じて式を巻きで進行させていった。


「ええい、もう我慢できんパカ! とっとと誓いのキスまで話をすっ飛ばすパカよ!」


「え? えぇ……? まだまだやることはあるのですけどモコ……?」


「うるさ~い! 吾輩の言うことが聞けないパカか!? 良いからさっさとキスまでプログラムを飛ばすパカ!」


「は、伯爵様がそう仰るのであれば! ……ごほん。では、誓いのキス……の前に、1番大事なことを――」


 既にキスをする気満々だった伯爵はめいの顔を隠すケープを持ち上げようとしていたのだが、神父がその前にやることがあると話を逸らしたことでずっこけてしまった。

 今度はそんな彼のことを無視した神父は、式場に集まる毛玉たちに向けて大声で叫びかける。


「この結婚に異議のある者は、今すぐに名乗りでるモコーッ! これが最後のチャンスモコよ~っ!?」


「パーッカッカッカッカ! そんな奴、どこにもいるはずがないパカ! 吾輩とめいちゃんの結婚を邪魔する奴なんて、いるはずが――」


 どうにかずっこけた状態から持ち直したアル・パカーノ伯爵は高笑いしながら自信たっぷりにそう言っているが……その発言はどこからどう聞いてもフラグとしか思えない。

 ここまでの成り行きを知っているリスナーたちがわくわくとした気持ちでその結婚式を見守る中、その期待に応えるようにして重い大聖堂の扉が勢いよく開くと共に真の主役であるくるるが参列客とボスである伯爵の前に姿を現し、叫んだ。


「ここにいるぞ! めいちゃんは、返してもらう!!」


「く、くるるさん!? どうしてここに……!?」


「なぁっ!? き、貴様は、あの時の旅人!? あの毛玉ドーベルを倒してここまでやって来たパカか!? し、信じられないパカ……!!」


『あ、なんか台詞の選択肢が出てる。え~っと、どれどれ~……?』


 ここまで無言でイベントを見守ってきたしゃぼんであったが、不意に出現したくるるの台詞を決める選択肢を目にすると、その内容を吟味し始めた。

 とはいっても、欲望に素直な彼女は即座に1つの選択肢を選ぶと、息子の分身にそれを言わせてしまったわけで、大した逡巡もなかったわけなのだが。


「これが、愛の力だ!!」


「え、あ、愛の力だなんて、そんな、恥ずかしいです……!」


『おお! 意外と好感触! やっぱ告白は大胆かつストレートに行かないとだめっすよね!』


【でもこんなことされたと聞いたらくるるんが怒りそう】

【#息子の周りに火種をばら撒くなよしゃぼん】

【既成事実ができたな。これでようやく枢に責任を取らせることができそうだ】


 最早、愛の告白以外の何物にも思えないくるるの発言と、それを聞いてちょっとだけ嬉しそうに頬を染めるめいの姿に嬉しそうな反応を見せるしゃぼん。

 リスナーたちは欲望に素直な彼女の判断にある程度は感謝しつつも、この選択のせいで彼女の息子に被害が及ぶのではないかという不安を抱いているようだ。


 だがしかし、目の前にあることがすべてのしゃぼんにはそんなことは関係ない。

 迫るボス戦に向けて闘志を漲らせる彼女へと、怒りの炎を燃やすアル・パカーノ伯爵が鼻息も荒く突っかかってきた。


「ムカーッ!! あ、愛の力だなんて、ふざけるなパカ! めいちゃんを誰よりも愛しているのは、吾輩なんだパカ!!」


「きゃ、きゃ~っ!?」


 ガシャーン、というド派手な音が響き、めいの頭上から巨大な鳥籠状の檻が落下してきた。

 その中に囚われためいが悲鳴を上げる中、参列客であった毛玉たちと共にくるるを取り囲んだアル・パカーノ伯爵が、武器を手に叫ぶ。


「吾輩とめいちゃんの結婚を邪魔する奴は、コテンパンにしてやるパカ! お前たち、かかれ~っ!!」


「モコーッ!!」

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