Peach&Pinch
「喜屋武さ~ん。寮に着きましたよ~。寝てないで起きてくださ~い」
「う~ん、むにゃむにゃ……すやぴ~……」
「はぁ……! ったく、しょうがないなぁ」
眠りこけてしまった沙織に肩を貸してタクシーを降りた零は、若干手間取りながら彼女を連れて寮の中に入った。
決して体重が重いわけではないものの、スタイルの良い沙織を連れて歩くのは思っていたよりも大変で、ずりずりと彼女を引き摺るようにして歩きながら、零はまだ眠り続けている沙織へと声をかける。
「マジで起きてくださいよ、喜屋武さん。このままじゃ、部屋の鍵を開けられないですって」
「んえ~? ……鍵なら、ズボンの尻ポケットに入ってるはずだから、取っていいよ~……」
「はいはい、尻ポケットですね……って、取れるわけないでしょ!! 普段にも増して防御力落ちてるじゃないっすか!!」
「ん~……眠い~……」
「ちょっ!? 喜屋武さん! 喜屋武さんってば!!」
枢に鍵の在り処を教えるために力を使い果たし、完全に夢の世界に旅立ってしまった沙織の体から力が抜ける。
それと共にガクンと体重が増えたように感じる彼女のことを必死に支える枢は、焦った表情を浮かべながら早めに沙織を部屋に入れなければと考え始めた。
「ホント、飲み過ぎだって……気持ちはわかるけどさぁ……」
コンプライアンスがガバガバなように見えて、割と弁えている沙織がここまで酔い潰れるというのは珍しいことだ。
それだけ、親友をはじめとしたかつての仲間たちと過ごす時間が楽しかったということなのだろう。
李衣菜と会話していた時の沙織の笑顔や、それを見守る祈里たちの嬉しそうな表情を思い返した零は、呆れたように溜息を吐いた後で苦笑を浮かべた。
2年という時間が過ぎ、大きな事件があったとしても、【SunRise】というチームの絆は変わらなかったどころか、以前にも増して強固になったように思える。
願わくば、そこに沙織の姿があったのならばどれだけ喜ばしかっただろう……と思いながら、それが叶わぬ願いであることを理解している枢は、首を大きく振ってその考えを頭の中から弾き出し、呟いた。
「問題は、この状況をどうするかなんだよなぁ……!!」
見た感じ、沙織は完全に眠ってしまっていて、ちょっとやそっとのことで起きそうにはない。
出来る限り早めに彼女をベッドに運び、ゆっくり休んでもらいたいところなのだが……そのためには、沙織の部屋の鍵を開ける必要がある。
彼女の部屋の扉を開けるためには鍵を取る必要があって、その鍵は彼女が履いているズボンの尻ポケットにあって、そこから鍵を取り出すということはそれ即ち沙織の胸にも負けない魅力的な尻に触れるということで……つまり、かなり危うい部分に手を出さなければならないということだ。
胸部のパイナップル爆弾と同等以上の火力を有しているであろう桃爆弾をちらりと目にして、ごくりと息を飲む零。
スタイル抜群のお姉さんが完全に酔い潰れ、やろうと思えばどんなことだって出来てしまうという状況は、健全な青少年である彼に多大なる緊張を与えているようだ。
だがしかし、Vtuberという自分たちの立場や、別れ際に釘を刺してきた祈里の言葉を思い出した彼は、必死にそのよろしくない妄想を掻き消し、冷静になろうとしていた。
「ぐぉぉ……! ど、どうする? 喜屋武さんの家の鍵を開けられないからって俺の部屋に連れ込むのは論外だし、かといって鍵を取るためにポケットに手を突っ込むのもマズいよなぁ……?」
こういう状況になっている時点で相当マズいのに、更にそこにボディタッチという更なる燃料を追加するのは絶対にダメだ。
万が一、うっかり沙織が配信でそれをバラしてしまったら、洒落にならない炎上が自分を襲うだろう。
……それに、布越しとはいえ沙織の大きく柔らかい尻に触れてしまったら、零自身の理性がヤバい。
実際今、肩を貸して密着しているが故に感じる彼女の体の熱だとか、息遣いだとか、腕に触れるたらばのたわわなたらばの感触を堪えるのでいっぱいいっぱいになっているのに、そこに巨大な桃爆弾が投下されたら……と考えると、確実にマズいことになるだろう。
沙織がここまで無防備な姿を晒しているのも、零ならば絶対にそんな真似をしないという信頼があるからだ。
その信頼を裏切るわけにはいかないと強く決意しつつも、密着しているが故に感じる沙織の様々な感触が徐々に徐々に零の理性を削り取っている。
「うぐおぉぉぉぉぉ……!?」
このまま時間をかけていてはマズいことになる。
沙織が目を覚ますより早く、零自身の理性がもたないのは明白だ。
ならばいっそ尻ポケットに手を突っ込んで鍵を取ってしまおうかとも考えたが、その行動自体が自身の理性にトドメを刺す要因になりかねないという思いが零の決意を鈍らせていた。
「どうする? どうすればいい……!?」
このままこうしていても事態は悪化するのみ、行動を起こさなければいけないのは自明の理。
しかし、その行動も自分の首を絞めることになりかねないし、鍵を取ることに手間取ってしまったら確実に自分の理性が終わる。
男としての感情と、同期である沙織の信頼を裏切りたくないという想いと、炎上が怖いという本能という3つの感情に挟まれてベコベコに凹まされる枢が、必死に悩み、考えに考えた末に出した結論は――この場に居ない、第3の同期を頼ることであった。
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