Shining Cancer
「本当にありがとう、有栖さん。お陰で助かったよ」
「ううん。大したことないよ。でも、零くんも大変だね……」
それから数分後、有栖に助けを要請し、文字通り彼女の手を借りて沙織の部屋の鍵を手に入れた零は、ようやく沙織をベッドに寝かしつけられたことに安堵していた。
部屋に下着などの男である自分が見てはマズいものがないかを確認してもらったこともそうだが、この窮地を乗り切る手助けをしてくれた可愛らしい同期へと改めて感謝をしつつ、零は大きく溜息を吐く。
「まさか喜屋武さんがここまでべろんべろんに酔い潰れるとは思わなかったよ。でも、それだけ小泉さんたちと話が出来て嬉しかったんだろうね」
「そうだろうね……色んな事件があって、それを乗り越えてまた夢を追いかけ始めた親友の姿を見ることが出来たのも、その嬉しさに拍車をかけたと思うよ」
2年前の事件もそうだが、まだ記憶に新しい【SunRise】の炎上と実質的なリーダーの脱退という事件は、グループの存続を危うくするほどの大きな出来事だったはずだ。
そのピンチを一致団結して乗り越え、前に進み始めた親友の晴れ舞台に立ち合えた喜びは、きっと零たちの想像を超える大きなものなのだろう。
親友である李衣菜が輝いている姿を見ることが出来たことが、また彼女たちと笑いながら話をすることが出来る関係に戻れたことが、沙織の心を大きく弾ませたようだ。
少なくとも、普段の彼女ならば調子に乗って酔い潰れるまで酒を飲み続けることなんてしないだろうし……と、苦笑しながら考えていた零は、自身の手の中にある沙織の部屋の鍵を見つめながら呟く。
「これ、どうしようか? 家の中に置いておいてもいいけど、こんな状態の喜屋武さんの家の鍵を開けっ放しにするっていうのもなんだがマズいような気がするしなぁ……」
「下の郵便受けとかに入れておけば? メッセージを残しておけば、喜屋武さんもわかると思うよ?」
「そうだね、そうしようか。問題は、明日の朝活配信の時間に喜屋武さんが起きれるかどうかだなあ……」
そう言いながら、再び苦笑する零。
毎朝の習慣にもなっている花咲たらばの朝活配信の時間にこの状態の沙織が起きて準備を整えられるかを不安に思った彼だが、すぐにきっと彼女なら大丈夫なのだろうなという根拠のない確信が心の中に湧き上がってきた。
それは有栖も同じなようで、くすくすと小さく笑った彼女は、小首を傾げた後で零へとこんなことを言ってくる。
「心配なら、朝まで付き添ってあげれば? 時間になったら零くんが起こしてあげれば、喜屋武さんも安心でしょ?」
「冗談!! そんなことしたら、炎上どころじゃ済まないって! 下手すりゃ逮捕だよ、逮捕!」
珍しく冗談を言って自分をからかってきた有栖と笑い合った零は、頬笑みを浮かべながらベッドの上で寝息を立てる沙織の姿を一瞥すると小さく頷く。
そして、再び有栖へと視線を戻した彼は、彼女への追加のお願いを口にした。
「有栖さん、ちょっとだけ留守番をお願い出来る?」
「いいけど、どうしたの?」
「ちょっとね。頑張ってるたら姉に、差し入れでも買ってこようかと思ってさ」
時間的にスーパーが開いているかは怪しいが、コンビニならそんなことは関係ない。
本当にちょっとした差し入れだが、普段頑張っている沙織へのエールとして、弟分からのお気持ちを贈ることとしよう。
そう考えた零は有栖に留守番を頼むと、沙織の部屋を出て、夏の熱気を感じながら夜の街を歩んでいく。
見上げた空に輝くかに座の星々を見つけた彼は暫し足を止めると、その光を両目に焼き付けてから、また足を進めていくのであった。
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