#出陣の刻が来たなしゃぼん
『よっしゃー! 回復アイテムはMAXまで買い込んだし、これで旅の準備は万端っす! 待ってろよ芽衣ちゃん! 今、枢坊やが助けに行くっすからね~!』
【#アイテムだけじゃなくて武器と防具も買えよしゃぼん】
【#息子を初期装備で初ダンジョンに向かわせるなしゃぼん】
【#子供にかわいい服とカッコいい武器買ってやれしゃぼん】
『その辺は買わなくても大丈夫っすよ。大体こういうRPGって、ダンジョンの中にちょっと強い武器とか落ちてるもんなんすから』
【メタいwww でも実際そうだから困る】
【戦略としては間違ってないんだろうが、どうにも枢が不憫で……】
【金をケチって子供に必要な物を与えてやらない、これが毒親か……】
『ちょ、その言い方は止めろぉ! 自分の坊やへの愛はエベレストよりも高く、マリアナ海溝よりも深いんすから! 回復アイテムを上限まで買ったのも、坊やが存分に技を使って戦えるようにするためであってですね……』
【#息子を燃やすなしゃぼん(もう何回言ったかわからん)】
【その愛が見当違いの方向に向かってなきゃいいがな……】
【とりあえずくるるんの無事を祈って旅を見守るとするか。サクサク進むだなんてことはないだろうけどさ】
めーめー村半壊のイベントからゲーム内時間で1日が経ち、ここまでの戦いで集めたお金を使って大量の回復アイテムを仕入れたしゃぼんは、ついにめい救出のためにアル・パカーノ伯爵の屋敷へとくるるを出発させようとしていた。
旅立ちの朝だというのに随分と騒がしいし、エモさの欠片もない雰囲気ではあるが……まあ、そこは柳生しゃぼんの配信だからということで納得してほしい。
ぎゃーぎゃーと騒ぐゲーム外に存在している人々のことなど知る由もないくるるは、村の出入り口から出立する寸前、村長から声をかけられてその足を止めた。
見送りのためにやって来た村長は、そんな彼へと無事を祈る言葉を贈る。
「旅のお方、何もできないこの老骨と愚かな村人たちを許してくだされ……そしてどうか、アル・パカーノ伯爵に連れ去られためいちゃんを助け出し、無事にこの村に帰ってきてくだされ。私は、それを必死に祈らせていただきますじゃ」
「ありがとうございます。必ずや、めいちゃんを助け出して帰ってきます!」
『坊やが許してもママは許さないっすけどね! よくもまあ、うちのかわいい坊やを牢屋にぶち込んでくれたよなぁ!? アルパカ伯爵を全身脱毛の刑に処したら次はこの村の住民たちだから、覚えとけよ!!』
【う~む、クズ!】
【弱ってる村人にトドメを刺す人間の屑】
【くるるは恨みを忘れてめいちゃんを助けることだけ考えてるってのに、こいつは……!!】
息子への愛が暴走しているというか、人間としての器が小さいというか……ゲーム内での出来事を引き摺り続けるしゃぼんは、わざわざ見送りに来てくれた村長にありったけの恨み言をぶつけながら激怒の表情を浮かべてみせる。
村長とくるるとの爽やかなやり取りとは真逆なそのドロドロとした人間性の悪さを見せつけるしゃぼんの発言に契約者たちからのツッコミが飛び交う中、くるるはめーめー村を飛び出してアル・パカーノ伯爵の屋敷へと続く道を進んでいった。
「待ってろ、めいちゃん! 今、助けに行くぞ!」
【う~む、ヒーロー!!】
【危険を顧みずたった1人でも愛する嫁を助けに行く人間の鑑】
【自分を嵌めた相手を倒すためじゃなくて、困ってる人を助けに行くっていうのが最高に枢っぽくて好き】
『いやいや、わかるっすよ! やっぱ坊やはこういう役が似合うんだぁ……!!』
先の自分に寄せられたものとは対照的に英雄的な行動を見せるくるるへの賞賛コメントを目にしたしゃぼんがうんうんと頷きながらそれに同意する。
自慢の息子が褒められていることが相当に嬉しいのか、だらしなく頬を緩ませている彼女が見守る中、ずんずんと伯爵邸へと続く道を進んでいたくるるの前に、突然あの毛玉たちが飛び出してきた。
「モコーッ! やっぱり来たな、このおじゃま虫め!」
「めいちゃんは伯爵様と結婚して幸せに暮らすんだモコ! その邪魔をするなモコ!」
「村を襲って、強引に人を連れ去っておいて何が幸せだ!? 俺は絶対に負けないぞ! めいちゃんは返してもらう!!」
「ぐぬ~っ! 最後の忠告も無視したモコね!? なら、やっちまうモコーッ!」
『はいはいはい。そうなると思ってたっすよ! でもねえ、こっちはもう、お前らの弱点把握済みなんだからな!!』
めい救出に向かうくるるの前に立ち塞がった毛玉たちとの会話が終わり、激しい戦いが始まることを感じさせるBGMが鳴り響く中、それに呼応するようにテンションを上げたしゃぼんは必殺の『炎上斬り』のコマンドを選択しながら叫んだ。
『おらーっ! どけどけーっ! 嫁のためなら炎上なんてなんのその! 自分のかわいいかわいいくるる坊やが、今からお前たちの親玉を焼きアルパカにしに行くっすよーっ! 燃えたくなけりゃ、道を開けるっす!!』
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