配信開始から一時間後……

「いや~、整地作業って無心でやるとサクサク進むね~。こういう地味な作業、俺大好き」


「でも地味過ぎてボーっとしちゃうと寝落ちしちゃいそうになるよね。今の内しかできないから、そういう単純作業は早めに終わらせておこう」


 配信開始から一時間、この時点ではまだまだ二人には余裕がある。

 普段の配信もこれくらいはやっているのだから当然だが、それでもこの調子ならば問題なく二十四時間の生配信を行えるのではないかと思わせるだけの雰囲気があった。


 大きな山をスコップで削ってはゴミ箱代わりの溶岩の中に叩き込み、そうやって整地を行っていく枢と芽衣。

 トークも軽快で、実に楽しい光景が配信上で繰り広げられている。


「ワレクラやるの久々なんだよな~……二期生コラボの後に一回やったかどうかくらいだから、マジで懐かしい気分」


「私はしずくちゃんと一緒にプレイしたりしてるから、そこまででもないかな? 枢くんがプレイしてない間にアップデートが入って、新要素も追加されたから、また面白いことになってると思うよ」


「へぇ、そうなんだ。それは知らなかったなあ」


「ふふふ……! 枢くんがわからないことがあったら私が教えてあげるからね! えっへん!」


【ドヤ芽衣ちゃんかわよす。くるるんに色々教えてあげたくてたまらないんだろうな……】

【ちっぱい張ってる芽衣ちゃんの姿が目に浮かびました。昇天します】

【ああ、久々のくるめいに魂が浄化されていく……】


 数万のリスナーたちも久々のくるめい配信を楽しみ、二人の絡みに尊さを見出しながら魂を天へと昇らせている。

 そんなこんなで楽しくゲームをプレイしていた二人は、自分たちの空腹ゲージが溜まっていることに気付いて、食事を取ることにしたようだ。


「見て見て、焚き火! 枢くん、これは見たことないでしょ!?」


「うん、ない。へえ~、こんなのも追加されたんだ」


「ここにお肉を乗せるとね、一気に何枚も同時に焼けるんだよ! ほら、こんな感じ!」


 枢がワレクラから離れている間に追加された新要素を嬉々として紹介する芽衣。

 見た目も楽しい上に一気に大量の肉を焼けるそれを見せつけた彼女は、そこでポンと手を叩いてから枢へとこんなことを言う。


「そうだ! 枢くん、ちょっとこの上に乗ってみて! 面白いことが起きるから!」


「うん? 面白いこと? なんだろうなぁ……」


 言われるがまま、肉を焼く焚き火の上へとキャラを移動させる枢。

 彼女の期待に満ちた視線を浴びながら燃え盛る炎の上に飛び乗った彼は、その瞬間にエフェクトが弾け、体力が地味に削れる様を目にして大慌てで叫ぶ。


「あっつ!! てかいってぇ!! 普通にダメージ食らったんだけど!?」


「あはははは! 引っかかった~! 枢くんのこと、炎上させちゃった!」


「……もしかして芽衣ちゃんが言ってた面白いことって、これ? 俺を燃やすのが、そんなに楽しかった……と? ほ~う?」


【彼氏を燃やすだなんて、芽衣ちゃん悪い子!!】

【小悪魔芽衣ちゃん出てて草】

【芽衣ちゃんに翻弄されるくるるん、新境地です】


 芽衣に騙され、物理的に燃やされた枢が武器を手に彼女へとにじり寄る。

 おふざけで怒りを露にする彼の態度にくすくすと笑みを浮かべた芽衣もまた、悲鳴を上げて逃走を始めた。


「きゃ~、枢くんが怒った~! 助けて~っ!!」


「こら~っ! 待て~っ! おしおきでお尻ぺんぺんしてやるからな~っ!!」


【おうふっ……(命が尽きる音)】

【唐突にイチャつき始めるんじゃない。心臓が止まっただろうが】

【やってることが「私を捕まえてごらんなさ~い」っていう普通のカップルのイチャイチャなんだよなぁ……】

【くるるんなら芽衣ちゃんのお尻に触れても許される。ってかもっとやれ】

【ヌ゛ッッ¥5000 いのりちゃんねる(SunRise公式)さん、から】


「よ~し、捕まえたぞ~っ! 羊の丸焼きにしてやるから覚悟しろ~っ!!」


「ぴゃっ……! いじわるしないで、枢くん……!!」


【その声はずるいって、死ぬしかないって!!】

【めいかわ(遺言)¥500 ニヤニヤニーヤさん、から】

【SくるるんとM芽衣ちゃんの薄い本待ってます】

【今からくるるんが芽衣ちゃんのお尻を叩く配信が始まるって聞いたんですが、本当ですか!?】

【普通に煽り煽られのイチャつきができるようになったことに尊死が止まらない……】


 ぺちぺちと弱い武器で芽衣の背中(お尻)を叩く枢と、そのおしおきで小さな悲鳴を上げる芽衣。

 なんだかんだでイチャついているとしか思えない二人のやり取りに、リスナーたちは感謝のスパチャを飛ばしながら尊死を迎えまくるのであった。


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