Party Re:Start
『では、改めまして……芽衣ちゃん、お誕生日おめでとう!!』
『えへ、えへへへへ……! ありがと、枢くん……!!』
それからおよそ10分後、仕切り直されたパーティーの再開を告げる零の音頭が防音室に響いていた。
1人ぼっちの寂しい誕生日から一変、友人と共にケーキとドリンクを囲む楽しいお誕生日会が始まったことに、有栖が嬉しそうに笑みを浮かべる。
切り分けられた零お手製のケーキと、薫子から贈られた飲み物を目の前に置きながら、両手を合わせていただきますの挨拶を口にした有栖は、その小さな口に生クリームとフルーツで彩られたケーキを運ぶと、更に浮かべている笑みを強めてみせた。
『おいひぃ……! すっごく美味しいよ、枢くん!』
『そう言ってもらえてなにより。って言うか芽衣ちゃん、本当に美味しそうに食べてくれるね』
『だって美味しいんだもん! ああ、幸せだなぁ……!!』
『ははは、ちょっと作り過ぎちゃったかなって心配だったけど……この調子だと、問題なさそうだね。残った分は冷蔵庫にしまっておくから、明日にでも食べてよ』
『うんっ! 何から何までありがとう!!』
表情を綻ばせて一心不乱にケーキをパクつく有栖の姿にちょっとした満足感を抱いた零は、同じく楽しそうな笑みを浮かべながら飲み物を口にした。
純粋に、友人の誕生日を祝おうとしただけなのだが……ここまで嬉しそうに笑ってくれると、なんだかこちらまで嬉しくなってしまう。
Vtuberとしての配信のネタを作れたということも喜ばしいことではあるのだが、何よりの報酬は有栖のこの笑顔だなと思った零は、自らも手作りのケーキを口に運ぶと、その出来の良さに満足気に唸った。
『うん、悪くない。まあ、大したことはしてないから、俺の技術の成果ってわけじゃあないんだけどさ』
『でも飾り付けは可愛かったよ。ちゃんとお誕生日おめでとうのプレートも付けてくれてたし、色んなところに枢くんの気遣いが感じられて嬉しかったな』
『真っ先にパリパリ齧ってたもんね。ああいうの、絶対に芽衣ちゃんは好きだと思ってた』
『ん~? なんかそれ、私のこと子ども扱いしてない? 私の方が先に誕生日迎えたんだから、今は私の方がお姉さんなんだけど!』
『はいはい、芽衣お姉さまは今日も美しくてございますわよ~! さっきまで半べそかいてたとは思えなくってですわ~!』
『むぅぅぅぅ……! いいもん。お姉さんは心が広いから、子供な枢くんの失礼な態度も、美味しいケーキを作ってくれたことで帳消しにしてあげられるんだから』
ぷくっ、と頬を膨らませて拗ねてみせるも、新たにケーキを口に含んだ瞬間、全てがどうでもよくなったかのような幸せな笑みを浮かべる有栖。
そんな彼女の様子に苦笑しながらもそれ以上は何も言わないことにした零もまた、羊坂芽衣誕生日パーティーを心の底から楽しんでいるようだ。
そんな風に軽口を言い合ったり、2人で手作りケーキを食べながらお喋りをしたり……と、中々に甘い雰囲気を作り出している配信を観ている視聴者たちもまた、この展開に大盛り上がりを見せている。
【あれ、なんだろう……? てぇてぇが加速し過ぎて、心臓の鼓動が聞こえなくなってきたな……】
【くるるんの手作りケーキを食べられる芽衣ちゃんが羨ましい。俺も食べたい(枢を)】
【くるるんは芽衣ちゃんのダルォ!? くるめいの間に割り込む奴は極刑だかんな!!】
【これはあれだな。この後枢が芽衣ちゃんを食べるから、太らせるために餌付けしてるんだ。策士だね、くるるん】
【くるめいのお陰で今日も白米が美味いwww 3杯目を食い終わってもまだまだいけそうwww】
【てぇてぇな、ああてぇてぇな、てぇてぇよ。限界厨心の俳句】
『ホント、飛び入りの参加で申し訳ない。めいとのみんなも嫌な思いさせてたらごめんなさい。謝っときます』
【いやいやいや、嫌な思いなんてこれっぽっちもしてないから! むしろ参加してくれてありがとうとしか思ってないから!】
【ワレクラ配信の時も思ったけど、枢と芽衣ちゃんは本当にいいコンビだよなぁ……付き合ってくんねえかなぁ……】
【他の2期生より先んじてオフコラボまでしちゃってるわけだからね。普通なら炎上するところなんだろうけど、枢と芽衣ちゃんなら普通に許せる!】
予定にない自分の参加をめいとたちが不快に思っていないかを不安視していた零が改めて彼らに謝罪するも、返ってくるのは温かい反応ばかり。
救世主である彼の登場を喜ぶ者はいても、嫌がる者はいないという意見で一致しているめいとたちの反応に再度胸を撫で下ろした零は、自分のリスナーと彼らとの違いを目の当たりにして、複雑な表情を浮かべていた。
(うちのリスナーだったら炎上するぞって大喜びしてるんだろうなぁ……なんか俺、マジで燃えるのがお家芸になってる気がするんだが……?)
デビュー時に、芽衣との初コラボ発表時に、アルパ・マリにデマを流された時と、デビューしてからの約1か月で幾度となく洒落にならない炎上を経験した零は、その全てを乗り越えたことでファンたちからの信頼を得たようではあるが……同時に、嫌な属性も付与されてしまったようだ。
炎上属性という、絶対にありがたくは思えない自らの特性ではあるが、気軽に燃やされる代わりに本気で自分を嫌悪する人間の数がめっきり減ったことも確か。
終わり良ければ総て良し……という言葉を基に考えるのなら、これもまた1つのハッピーエンドなのかと疑問符を抱えながらも納得することにした零は、めいとたちと共に嬉しそうにケーキを頬張る有栖へとお祝いの言葉を贈り続ける。
引退の危機すら覚える炎上を乗り越えたことよりも、Vtuberとしての目標が見つかったことよりも、今回の騒動で得た最大の収穫は、有栖という名の友人であると……そう確信しながら、自分お手製のケーキを美味しそうに食べてくれる彼女のことを、零は優しく見守るのであった。
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