Happy Birthday to you
そこから先の配信は、楽しそうにはしゃぐ有栖を零が見守るという、なんとも微笑ましい雰囲気の中で進められていった。
リスナーたちからの誕生日プレゼントを開封したり、19歳の目標を発表したり、そもそも歳を重ねていいのかというメタ発言ギリギリの話題で盛り上がったり……と、楽しい時間を過ごしていけば、予定していた配信終了時刻はあっという間にやって来てしまう。
予定の時刻を30分も過ぎ、それでもまだ遊び足りないと思いながらも、そろそろ日付が変わる時間が訪れてしまうことを時計を見て察した零は、有栖を気落ちさせないようにしながら彼女へと告げた。
『芽衣ちゃん、そろそろ時間も時間だし、俺は帰るよ。流石にこの時間まで一緒にいるのはマズいでしょ』
『あ……! そ、そうだね。ごめんね、本当に楽しくって時間のことを考えてなかったよ』
『そこまで楽しんでくれて、俺も嬉しいよ。……配信の方も区切りがいいし、そろそろ終わりにする? めいとのみんなも、それで大丈夫?』
零と同じく、久方ぶりに時計を目にして現在時刻を確認した有栖は、予想以上に時間が経過していることに驚くと共に彼の提案に大きく頷いてみせた。
そんな彼女からの肯定の返事を受けた零が配信を見守るリスナーたちに問いかけを発してみれば、彼らもまた様々な反応を見せながらもここまでの配信を労うようなコメントを送ってくれる。
【本当はもっと見ていたいけど、若い男女が日付が変わるまで部屋で2人きり……だなんて、炎上する未来しか見えないからな。しっかり芽衣ちゃんのことを考えてくれてありがとう、くるるん】
【配信は終わってもいいけど2人で誕生日パーティーは続けてほしい。今更炎上だなんだって言われるような関係じゃないし、むしろ俺はそれを望む】
【それはそれでいいかもしれないけど、色々と面倒なことになるのは避けた方がいいでしょ。とかいうリスナーの杞憂は置いといて、芽衣ちゃんもくるるんもお疲れ様! 本当に楽しい配信だったよ!!】
【次はくるるんの誕生日を芽衣ちゃんが祝う配信ですね、わかります】
『そっか、そうだよ。ここまでしてもらったんだから、私も枢くんの誕生日を盛大にお祝いしなきゃ! 絶対に忘れないようにするから、期待しててね! ケーキもプレゼントもしっかり用意しておくからさ!』
『あはは、ありがとう。……ああ、そうだ。最後になっちゃったけど、誕生日プレゼントを渡さないとね』
『えっ……!? プレゼントってケーキだけじゃないの? え? えっ? これも貰っちゃっていいの!?』
『もちろん。そのために用意したんだから、受け取ってよ』
手作りのケーキだけでなく、他にもプレゼントを用意してきた零のサプライズに言葉を失い、目を丸くして差し出された小包を見つめる有栖。
やや震える手でそれを受け取った彼女は、優しく包み紙を剥すと……感激の吐息と共に零へと言う。
『これ、手帳? 可愛い……!!』
『ああ、うん。センスに自信がないから気に入ってもらえるか不安だけど――』
『気に入った! 凄く気に入ったよ!』
『そっか、よかったぁ……』
言葉通りに自信なさ気な零へと、大声を出してフォローを送る有栖。
その反応に安堵の笑みを浮かべた彼は、一度咳払いを挟むとプレゼントの選択理由を彼女へと告げた。
『その、ね。色々と考えたんだけど、芽衣ちゃんには充実した1年を過ごしてほしいなって思って、プレゼントは手帳にしました。是非とも、その手帳に沢山の予定や思い出、友達のことなんかをいっぱい書き込めるような1年を過ごしてください』
『うんっ……! ……この手帳に最初に書き込むのは、今日のことだね。枢くんに誕生日を祝ってもらったこと、大切な思い出として残しておくから』
【てぇ、てぇ……!!(尊死)】
【配信の最後にとんでもないてぇてぇ爆弾ぶち込むな】
【やだ、くるるんイケメン……!! 好きになっちゃう……!!】
サプライズのプレゼントと、そこに込められた零の想いを聞いて感激したのは有栖だけではなく、リスナーたちもそうであったようだ。
最後の最後まで仲の良さを見せつけられた彼らは悶絶したようなコメントを打ち込むと共に、盛り上がりと静けさを同居させた不思議な雰囲気を醸し出すようになっていた。
『えっと、枢くんもそうだけど、めいとのみんなもありがとう。今日は私のこれまでの人生の中で、1番素敵な誕生日になりました。また来年もみんなとこうやって誕生日を迎えられるよう、頑張っていきます!』
そうして、改めて枢だけでなく、自分の誕生日を祝いに来てくれたリスナーたちへと感謝を告げた有栖が今後の決意を彼らへと表明する。
画面の向こう側の人々へと笑顔を見せる羊坂芽衣と、目の前の零へと満面の笑みを浮かべてみせた有栖は、最後に締めの挨拶を行って自身の誕生日配信を終わらせにかかった。
『今日の配信はここまでです! みんな! 枢くん! 本当にありがとうございました! おつめいです!!』
……翌日、普段よりも少しだけ遅い時間に起きた有栖は、枕元に置いてある白い手帳を目にして、柔らかい笑みを浮かべた。
そして、真っ新なその手帳の5月10日の部分に書き込まれた自分の字を見てから、大きく伸びをして立ち上がる。
『羊坂芽衣、初の誕生日配信! めいとのみんなと枢くんに祝ってもらった最高の誕生日!!』……そう、可愛らしい文字が書き込まれた手帳をサイドボードに置いた彼女は、朝ごはんに昨日のケーキの残りを食べようと思いながら、静かな1日の始まりを迎えるのであった。
――――――――――
書き忘れちゃったんですけど、このお話を没にした理由は2人の距離が近過ぎるからです。
おひつじ座の期間(13星座バージョン)に誕生日を合わせると5月中盤くらいまでしか設定の延長が出来ないんですけど、それにしては半分以上恋人みたいな関係になるには早過ぎるかな……と考えた結果、サイドストーリーから外しました。
こういった感じの何らかの理由があって本編で出せなかったお話をちょくちょく投稿していきますので、ブックマーク登録しておいていただけると嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます