二期生コスプレ小噺
沙織、バニースーツを着る
「急に呼び出しちゃってごめんね~! 後でお礼にご飯奢るから、許してほしいさ~!」
「いや、別に俺は気にしてないんで、お気遣いなく……」
ある日のこと、沙織に呼び出された零は、彼女の家のリビングでガチガチに緊張しながら彼女と会話をしていた。
会話をしている、といっても沙織の姿はこの場にはなく、少し離れた部屋から聞こえてくる彼女の声に合わせて大声で返事をしている状態だ。
冷たい麦茶が入っているコップをじっと見つめる零は、落ち着かない様子で指を絡ませたり貧乏ゆすりをしながら、不意に訪れた幸運(あるいは試練)に対して、どうしてこうなったのかと振り返り始める。
今より15分前、不意に沙織から「頼みがある」との連絡を受けて同じ社員寮の中にある彼女の家にやって来た零は、大きな段ボール箱を抱え(ながらその上にたらばのたわわなたらばを乗せ)ていた沙織に迎え入れられると共にこんなことを言われたわけだ。
「秋の新衣装の参考にしたいから、私がコスプレしてるところを見て、感想を聞かせてほしいんだよね~!」
新しい季節に入るにあたって、花咲たらばにも新しい衣装が必要になる。
だが、しかし……この時点で既に零は、なんだか嫌な予感がしていた。
あの沙織が、Vtuberとしての新衣装に使う用に選んだコスプレという時点で、本当に嫌な予感しかしない。
せめて有栖や天を同席させてもらいたかったところなのだが、生憎と彼女たちは予定があって来られないとのことだ。
(落ち着け、俺。平常心、平常心だぞ……!)
すぐ近くの部屋の中で、沙織がコスプレ衣装に着替えているという状況に際している零は、必死に自分自身を落ち着かせるためにそんなことを考え続けていた。
あのパイナップル園が、桃源郷が、大解放されている部屋の中の光景を想像しそうになってはすぐにその不埒な妄想を掻き消すという行為を繰り返す彼の前で、ガチャリという音と共に扉が開き、満を持して沙織が姿を現す。
「じゃじゃ~んっ! どう? 似合ってるかな~?」
「う、おぉっ……!?」
まず零の目に飛び込んできたのは、それはそれは見事な南国果実が作り出した胸の谷間であった。
やや大きめの襟型チョーカーを使って上手く首の傷を隠している今の沙織は、胸の谷間どころか北半球をほぼ曝け出している状態だ。
小麦色に日焼けしている健康的な肌も肩から腕にかけて惜しみなく曝け出しており、手首のカフスがそれとなくお洒落さを醸し出している。
ぴったりと体に張り付いている黒のボディスーツは引き締まっている沙織のウエストのくびれを胸の大きさと同じくらいに強調しており、シンプルなデザインながらもそれが彼女の魅力を存分に引き出していた。
レオタードのように鋭角がある股間部分はさておき、太腿もまた薄手の黒色のタイツに覆われていて……程よい肉付きをしている沙織の長い脚もまた、ほぼお目見え状態だ。
「秋の新衣装案、バニーガール! どうかな? 零くん的には似合ってると思う?」
「ッスーー……」
頭に着けた大きなうさ耳(と胸)を揺らしながら、沙織が無邪気に問いかけてくる。
彼女が近付く程に破壊力が増すのだから、できるだけ距離は取ってほしいな……という胸の内の想いを言葉にできずにいる零は、ニコニコと笑う沙織へと無難な返答をすることにした。
「い、いいんじゃないっすかね? 秋の月見に合わせて、うさぎの衣装を用意するってのは良い案だと思いますよ」
「本当!? やったーっ! やっぱ秋=うさぎさんって考えた私は間違ってなかったさ~! あ、そうそう! これ、こっちもかわいいんだよ~!」
「ぶふっっ!?」
零に自分のコスプレと考えを褒められた沙織がうさぎよろしく嬉しそうに飛び跳ねる。
それだけなら何も問題はなかった(思い切り揺れる胸は別とする)のだが……ここで終わらないのが喜屋武沙織という女性の持つトラブルメイク力だ。
はたと動きを止め、反転した彼女は、零に向けてお尻を突き出すとかわいらしくそれを左右に振って、そこについているうさぎの尻尾をアピールし始めた。
「見てよ、この尻尾! 凄く可愛いと思わない!? 2Dモデルの衣装だとここまで表現できないのが残念だよ~! だから、零くんにここで思いっきりアピールしておくさ~!」
「うおぉぉぉ……!?」
これまでの人生において、零はバニーガールを後ろから見たことは当然ながらなかったわけだが……こうして目にすると、前から見た時にも負けない破壊力があることがわかる。
レオタード風の衣装であるそれは通常のショーツと変わらない程度の面積しかお尻を隠していないし、タイツでカバーされてるとはいえぴったりと体に張り付いているお陰でその形はもちろんのこと、薄い肌色が透けて見えている始末だ。
「ぴょ~んぴょん! ぴょ~んぴょんっ! えへへ……お姉さん、かわいいかな~?」
「う、うっす……! すごくかわいいと、思います……!」
「ふふっ!
触ろうと思えば触れる距離で左右に揺れる桃だとか、挙動一つ一つに反応して上下するパイナップルだとか、そういった欲望を必死に押し殺しながら正直にバニーガール姿を賞賛すれば、沙織は嬉しそうにはにかみながら彼に感謝の言葉を告げてきた。
ダイナマイトなボディもそうだが、こういった年上らしからぬ無邪気なかわいさの破壊力も相当なものだよな……と心臓の鼓動を速めていた零は、これで自分の役目は終わったと試練を乗り越えられたことに安堵していたのだが――
「よし! じゃあ次は細部を詰めていかないとね~! ここからが本番だから、頑張っていくさ~!」
「……え?」
――そんな、妙なことを口走った沙織の言葉に再び嫌な予感を再燃させた零が表情を引き攣らせる中、実にいい笑顔を浮かべた彼女は矢継ぎ早にこれから自分がすることを告げていく。
「バニースーツの色も黒以外に赤とか水色とか白とか買ったからね~! 全部を試して、どれが一番映えるかを試してみるさ~! 他にもまだまだ、調べなきゃいけないことは沢山あるよ~!」
「え? え?」
「タイツも網タイツも用意してるから、そっちも履いてみるさ~! 逆に何も履かない生足版がどうなのかも気になってるし、そっちも試してみよ~!」
「え? え? え?」
「あ~、でもそうなるといちいち向こうの部屋に着替えにいくのが手間だし、零くんを待たせちゃうことになるね~……お姉さん、こっちで着替えてもいい? 大丈夫! 下着はバッチリつけてるよ! ヌーブラとTバックだけど! 私は気にしないから、零くんも生着替えを楽しむつもりでのんびり見てるといいさ~! あははのは~!」
「………」
どうやらまだ自分の受難は続くようだと……むしろここからが本番なのだと理解した零が燃え尽きた灰のようにがっくりと項垂れる。
どこまでも無邪気で、無防備で、こちらの気持ちなんて考えもしない沙織に振り回されながら、零は本能を理性で抑え込む必死の戦いをこの後数時間に渡って繰り広げ続けたのであった。
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