愛鈴の誕生日配信!
誕生日おめでとう、ラブリー!
「うぐぅ~、ひっぐ、うえっぐ……! 世界滅びろ~! 消滅しちまえ~!!」
【初手呪詛で草】
【サムネイルと配信内容の差よ……】
【誕生日おめでとう! って素直に言いにくいんだが!?¥10000 愛鈴親衛隊さん、より】
――十月三十日、【CRE8】本社ビル配信スタジオ。
その中で一人配信を行っている愛鈴は、涙を流しながら世界に対しての怨嗟をこぼしていた。
結構広めのスタジオにはそこそこの量のお菓子や飲み物が用意してあり、何かのパーティーでも行われそうな雰囲気である。
とまあ、そんな楽し気な空間の中で独りぼっちで泣いている彼女は、バンバンとテーブルを叩きながらリスナーたちへと愚痴をこぼした。
「おかしいだろ~!? どうして私の誕生日なのに、誰も予定が空いてないんだよ~!? ウキウキで誕生日パーティーの準備をしてた私の気持ちを返してくれよ~!!」
【草草の草www】
【三日前に告知したりするから……】
【誕生日まで不憫なのか……これ、とっときな¥3000 ぱぴぷぺっとさん、より】
「いや、確かにオフラインで誕生日パーティー配信をやるって言うのが遅かったかもしれんよ!? でもさ、大事な同期の誕生日なんだから、予定くらい空けとけって!! なんで全滅してんのさ!?」
【確かにwww】
【大丈夫? 同期たちから嫌われてない?】
【唐突に噴出する二期生不仲説に涙が止まらないんだが?】
「涙が止まんないのはこっちだっつーの! どうして、どうして……!?」
最早説明するまでもないが、本日は愛鈴の誕生日。それを祝うためのパーティーを自分で企画した彼女は、わざわざ配信スタジオを会場として仕上げて他の参加者を待っていたわけである。
が、しかし……蓋を開けてみれば、参加者はゼロ。同期たち全員からも朝方に予定があるとの連絡を受けた彼女は、一人寂しく飾り付けられたスタジオの中でくだを巻いているというわけだ。
「ぐすん。リア様は仕方ないよ、最初から来れないだろうって思ってたよ。でも、他の三人はそうじゃないじゃんか~! なんで全員が揃って予定ぶち込んでんだよ~!?」
広い会場の中に一人だけというシチュエーションが、余計に寂しさを掻き立てる。
涙交じりに愚痴をこぼした愛鈴は用意してあった炭酸飲料を一気飲みすると、テーブルに突っ伏しながら文句を言い始めた。
「おかしいだろうが~! 特にたらば~! お前、どうして私の誕生日忘れてるんだっつの~!! あれか? おっぱいに栄養行き過ぎて記憶力が下がってんのか? 日々巨乳化していくうちに栄養素の配分がおっぱい七の脳が三くらいに変化していってるわけ? 忘れんなよ、大事な同期の誕生日を!!」
【はい、アウトwww】
【たらばのたわわなたらばは日々成長している……メモメモ】
【今日くらいは愚痴を聞いてやる、思いっきり泣け……!¥5000、ぽぴー(LOVE♥FUN)さん、より】
「枢もさ~、絶対に他人の誕生日を忘れるキャラじゃないじゃん! あいつ、どうして今回に限ってそんな真似しちゃったんだよ~!? 凸待ちくらいのものだと思ってましたって、そういう問題じゃないじゃ~ん! 一日丸々予定を空けとくくらいの気概を見せてくれよ~! おろろ~ん!」
【それはそう。くるるんが同期の祝い事を忘れるとかマジで珍しい】
【相当大事な予定が入ってたんやろなあ……】
【ラブリーの誕生日より大事な予定……芽衣ちゃんとのデートか!?】
「ええ、ええ。そうでしょうよ! きっと今頃、くるめいでハロウィンデートしてるんでしょうさ! トリックオアトリートでプレゼントするお菓子はわ・た・し♡とか、君にいたずらしちゃうぞ~! とかやってイチャついてるんでしょうね! ちくしょうめ!」
【大丈夫? 酒飲んでない?】
【まあ、シラフっぽいし今回は場合が場合だから……】
【許してやろうぜ、流石に可哀想だしさ】
同期たちへの恨み言が止まらない愛鈴の様子にリスナーたちも心配しているようだ。
気持ちはわかるが、そろそろブレーキをかけないと以前の炎上のような事態になってしまうのでは……と、彼らが不安な感情を抱く中、唐突に予想だにしていなかった人物の声が響く。
「あ、あの~……大丈夫だが、愛鈴さん?」
「うえっ!? そ、その声は……りりり、リア様!?」
「ど、どうも、こんばんは~……」
背後から聞こえた声に驚き、ぐりんっと勢いよく振り向いた愛鈴が目にしたのは、地元にいるはずのリアであった。
やや困惑気味というか、愚痴をこぼしまくっていた愛鈴に対してどう接すればいいのかがわからずにおどおどしている彼女の姿を見て取った愛鈴は、おもむろに椅子から立ち上がるとよろよろとした足取りでリアへと近付き、全力で彼女へとハグをする。
「おおおおおっ! 夢じゃない! ここにリア様がいる! 存在している!! あと、乳でけえ!!」
「あっ、愛鈴さん!? わんつか、落ぢ着いでけって!」
「天使か!? いや、女神だ!! まさかリア様がわざわざここまで出向いてくれるだなんて……他の同期たちとは違って、本当にあなたは女神さまのような存在です……!!」
【えっ? マジでリア様来たの!?】
【ヤバ!! とんだサプライズじゃん!】
【速報・ラブリー、ソロボッチ誕生日を回避!!】
強くリアを抱き締めながら、その胸の谷間に思い切り顔を埋めながら……彼女へと感謝と感動の気持ちを言葉として伝える愛鈴。
感激に(非常に薄い)胸を震わせながら、今までとは違う理由で涙を流し続ける愛鈴は、そこでふと顔を上げるとリアを見つめながら口を開く。
「でも、どうしてここに? 何かこっちに用事があったりしたの?」
「あ、いえ……今日、日曜日じゃねか。夜に愛鈴さんが誕生日パーティーやるって聞いだはんで、どうせならわーも参加するべがなって……そえで、わんつか強引にこっちまで来てまったんだ。蛇道さんたぢにも駅まで迎えに来てもらったりすて、助げでもらったんだが……」
「あらあら、そうだったの! わざわざそこまでしてくれるだなんて、本当に嬉しいですよ! 枢たちにも助けてもらったみたいで、本当に良かった! ……って、ん? 枢たちが、助けた……?」
「あ、はい。その、そえでだね……」
リアの言葉の一部から、何か違和感を覚えた愛鈴が小首を傾げる。
そんな彼女に対して、どこか哀れみを感じさせる視線を向けながら……リアは、本当に大事な部分についての話をしていった。
「わー参加するってごどになったんで、どうせならサプライズで愛鈴さんのごどお祝いすてけるべって話になりますて……そえで、プレゼントどが色々用意すてがら、全員でこごさ来だわげで……」
「あっ、ふ~ん……つまりぃ、あいつらが言ってた予定が入ってるっていうのは嘘だった……って、コトォ?」
「まるっきり嘘であったってわげじゃねね。わーば迎えに来るのも、サプライズの準備するってのも、予定どいえば予定だす……」
「そっかぁ……! ちなみになんだけど、残りの三人って今、どこに……?」
何かを察した愛鈴が、リアへと恐る恐る質問を投げかけてみれば、彼女はゆっくりと自分の背後を指さしてみせた。
これまた恐る恐る彼女が指し示した方へと視線を向けた愛鈴は、そこに三人並んで立つ同期たちの姿と、彼らの背から噴きあがっている怒りのオーラを目にしてびくりと体を震わせる。
表情こそ笑っているが目が完全に笑っていないたらばと、明らかに怒りを露わにしている枢と、黒羊モードに突入した芽衣という三人の様子を目の当たりにした愛鈴がごくりと息を飲む中、先ほどまで彼女にボロクソに言われていた三人がジェットストリームアタックばりの連続攻撃を繰り出し始めた。
「ごめんね~! おっぱいにばっかり栄養が行ってるおっぱい星人でさ~! 頭に栄養が行き続けてる愛鈴ちゃんと違って私ってば馬鹿だから、許してほしいさ~!」
「あの、いえ、その……別に、そういう意味で言ったわけじゃあないです、本当に……」
「何気に人を炎上させようとしてるんじゃねえ。お前の不用意な発言で放火される男がここにいるんだぞ」
「はい、本当にすいませんでした……」
「……愛鈴さん?」
「せめて何か言って! 無言で圧をかけるのは止めて! 私が悪かったから! ちょっとナーバスになってて変なこと言っちゃったって認めるから! だから見捨てないで~!! ほんっとうにすいませんでしたっ!!」
【悲報・ラブリー、誕生日も三下】
【これはしゃーない。怒られろ】
【二期生不仲疑惑は払拭されたが、愛鈴は犠牲になった】
【二期生の絆! とかてぇてぇ! って言えないところが最高に三下してる】
【なんだかんだで愛してもらえてよかったな、ラブリー! でも今日で愛想を尽かされたかもな!!】
「本当にごめんって! 悪かったって! だから許して! 帰ろうとしないで!! 一緒に私の誕生日をお祝いしてください! お願いします何でもしますから!!」
スタジオに愛鈴の悲痛な叫びがこだまする。
半泣きどころか全泣きレベルの号泣をかました彼女は、どうにかこの後枢たちに許してもらってからパーティーを再開し、今度こそ同期たちから誕生日を祝ってもらったそうな。
よかったね、ラブリー!
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