#敵役が登場したなしゃぼん



『す、すごい……! 安定感が違い過ぎる!!』


 めいとの邂逅を経て、彼女が住んでいるめーめー村へと移動する最中、2人となったパーティでの戦闘を繰り広げていたしゃぼんは、楽勝ムードしか漂っていないその道中に感激を超えた驚きの勘定を抱いていた。


 僧侶のジョブに就いているめいは回復魔法を習得しており、傷ついた仲間を助けることができる。

 これがHPを消費して相手に大ダメージを与えるくるるの『炎上斬り』と相性バッチリで、しゃぼんは本当に危な気なく村へ進むことができていた。


『わかっちゃいたけど、回復役って大事なんすねぇ。さっきまでひぃひぃ言ってたのが嘘みたいっす』


【HP消費系の技を多用するくるるんの傍にヒーラーめいちゃんがいるのはデカい】

【炎上斬りが大当たりって言われてる理由がこれ。すぐヒーラー加入するし、消費がHPだからMP回復系のアイテムは全部ヒーラーに使えるのが強い】

【くるるんの攻撃が強いから反撃される前に敵を倒しやすいしな。そのおかげで脆い芽衣ちゃんが攻撃を受けないで済む】

【お互いがお互いの弱点を補い合う相性抜群のくるめい、解釈完全一致です】


 順調にもほどがあるくるるとめいの旅は、一切グダることのない配信に優しいものになっている。

 途中、めいを狙った敵の攻撃をくるるが庇ったり、仲良く遊ぶイベントがあったりと、それなりのてぇてぇを提供して見どころも用意していった2人の旅は、目的地であるめーめー村への到着を以て一区切りとなった。


「ここがめーめー村だよ。のどかでいいところなんだ!」


「本当だ! のんびりとした、いいところだね……」


 RPGおなじみの序盤の田舎町、といった雰囲気のめーめー村の様子に2人並んで穏やかな表情を浮かべるくるるとめい。

 だがしかし、直後に聞こえてきた大きな怒鳴り声がそんな2人の穏やかなムードをぶち壊してしまう。


「けしから~ん! パカーッ!!」


「わわわっ!? なんだ、なんだ!?」


「この声、もしかして……!」


『わっ、また新キャラっすか? 展開が早いっすねぇ』


 村の中から聞こえてきた大声に飛び上がった2人が、その声のする方向へと走っていく。

 そうすれば、村の中心で毛玉に囲まれながら老人と話す、英国紳士風の格好をしたキャラクターの姿が画面に映し出された。


「お、落ち着いてください、アル・パカーノ伯爵……!」


「落ち着いていられるか! 吾輩のかわいい毛玉に暴力を振るい、めいちゃんを攫った乱暴者はどこのどいつだ!?」


「あっ!? あれはさっきの人攫いたちじゃないか! それに、あの男は……!」


 めいを誘拐しようとした毛玉たちの存在に気が付いたくるるの驚いた顔が映し出されると共に、新キャラクターであるアル・パカーノ伯爵の姿がアップになる。

 モノクルを掛けた二足歩行のアルパカ、といった風貌の彼が村長と思わしき老人に怒りをぶつける中、彼の周囲に控えていた毛玉たちがにわかに騒ぎ始めた。


「は、伯爵様っ! あいつモコ! 僕たちを苛めてめいちゃんのお誘いを邪魔したのは、あの男モコ!」


「ぬわにぃ~~っ!? あの男が、吾輩のめいちゃんを……!!」


『おお……! わかりやすい敵役の登場っすね~! こういうシンプルなシナリオは好きっすよ!』


 ずんがずんがと大股で2人の下に歩み寄ってきたアル・パカーノ伯爵が、手にしているステッキを振り回してくるるを威嚇する。

 抱く激怒の感情のままに吼える彼は、自分の邪魔をしたくるるへとその憎悪を思い切りぶつけ始めた。


「貴様、見ない顔だな!? 吾輩の部下である毛玉たちに暴力を振るった上にめいちゃんを連れ回すとは、なんて羨ま……じゃなくて、けしからん男パカ!」


「止めてください、伯爵様! この人は私を助けてくれただけです!」


「んあっ! めいちゃ~ん♡ 今日もぷりちーでカワイイねえ♡ そんな男と一緒にいる必要なんてないんだから、とっとと離れた方がいいパカよ~!」


 嫉妬の感情が大半の叫びをくるるへと投げかけたアル・パカーノ伯爵であったが、めいが話に割って入った瞬間、一気にだらしのない表情を浮かべて彼女を下がらせた。

 そのまま、再び怒りの表情になった彼は、剣幕に圧倒されて呆然としているくるるを指差し、めーめー村の村長に向けて言う。


「村長! この男は吾輩の部下に暴力を振るった悪人だ! すぐにひっとらえて、牢屋に閉じ込めるパカ!」


「ま、待ってください! この人は何も悪いことはしていません! 捕まえるだなんて、そんなことしないでください!」


「う~むむむむむ……」


 アル・パカーノ伯爵の命令とめいの弁護の板挟みになった村長が苦し気に呻く。

 どちらの言い分を聞き入れるべきかと悩む彼に対して、アル・パカーノ伯爵は意地の悪い口調でこんなことを言ってきた。


「村長~、考えるまでもないパカ。こんなにかわいい毛玉たちを虐めるだなんて、この男は悪者に決まってるパカ。長きに渡ってこの地を治めてきた吾輩と、素性も知れない旅人であるこの男、どっちが信用するかなんて、聡明な村長なら簡単に判断できるでしょう?」


「う、うむ、そうじゃな! 皆の者! 伯爵様に無礼を働いたこの男をひっとらえろ!」


「そ、そんなっ!?」


 ある種の恫喝というか、プレッシャーをかける伯爵の圧に負けた村長が村人たちにくるるを捕縛する命令を出す。

 ショックを受けるめいの悲鳴がこだまする中、大勢の村人たちと毛玉たちに飛び掛かられたくるるは成す術なく捕縛され、牢屋に叩き込まれてしまうのであった。

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