マッサージとはかくも罪なものなのか

「はぁっ! んっ、あうっ!! んん~っ! ふっ、ふぅぅ……っ!!」


 部屋の中に響く、有栖の声。

 何かを堪えるように呻く彼女は、自分へと視線を向ける零を涙目で見つめ返しながら口を開く。


「あっ、あんまり、見ないでっ♡ はず、かしいからぁ♡ ああっ♡ んっ、あああっ♡」


「ご、ごめん……! でも、やっぱ気になっちゃって……」


「はうぅっ♡ あっ、んきゅうっ♡ はぁっ♡ ああっ♡ あ~っ♡ んあぁ……っ♡」


 小刻みに上下を繰り返す度に、有栖の口からは苦悶と快楽が混じり合った声が飛び出していた。

 意識しまいと気を払う零であったが、どうにも悩ましい声を上げる彼女に視線を向けることを止められず、喘ぐ有栖を見つめ続けている。


「んっ、んんっ♡ もうちょっと、もうちょっと、でぇ♡ あっ♡ んあっ♡ ああっ♡ ああぁ~~っ♡」


「うぐぅ……!!」


 限界が近そうな有栖が涙目になりながら呻いた次の瞬間、彼女の体に電撃が走った。

 甲高い叫びをあげ、びくんっ、びくんと体を震わせ、大きく仰け反って悩ましく悶える彼女の姿に零が妙な興奮を覚えた途端、彼の耳にピピピピ……というタイマーの音が響く。


「はぁ、はぁ……♡ 終わ、ったぁ……♡ んんっ、足つぼマッサージって、思ったより刺激がすごいんだね……♡」


「あ~、うん。みたいだね。大丈夫? 立てる?」


「んっ、平気……ありがとう、零くん」


 どさりと前に倒れ込むように崩れ落ちた有栖へと、心配の言葉を投げかけながら手を伸ばす零。

 彼女の上気した頬と潤んだ瞳を目にしてドキッとした零は、数十分前に見てしまった有栖の裸体を思い返すと込み上げてきた興奮を必死に堪えながら息を吐いた。


(忘れろ、忘れろ……! 俺は何も見なかった、ここでは何もなかったんだ……!!)


 不幸()な事故によってとんでもないハプニングが起きてしまったが、自分が全てを忘れればなかったことになる。

 天は本当にちんまいんだな~とか、スイの肌は白くて綺麗だったな~とか、沙織はもうとんでもない破壊力だったな~とか、有栖は思ったより胸があるように見えたな~とか、そういう邪念は一刻も早く忘れ去るべきだ。


 ……まあ、そうはいっても零も健全な男子であり、そう簡単に女性の裸を忘れられるような人間ではなく、それが故に苦しんでいるのだが、気にしないでおこう。

 彼はそういう星の下に生まれ落ちた人間なのだから、気にするだけ野暮というものだ。


「あ~、いっでぇ!! 胃が! 胃の部分が物凄く痛い!!」


「な、なんか、零くんが言うと洒落にならないね……」


 煩悩を抱き続ける自分を叱責する意味も含めて、有栖が乗っていた足つぼマッサージ台に乗って足踏みを始めた零が、尋常じゃない痛みを発するそれに対して大声で叫ぶ。

 健康的な食生活を送っている彼の胃が悪いというのは、十中八九ストレスが原因なのだろうなと気付いてしまった有栖が笑えないその情報に体をビクつかせる中、マッサージ台から降りた零は息を荒げながら彼女へと話しかけた。


「いや、ここってすごいね。マッサージ系統のものも多く揃ってるんだ」


「みたいだね。昼の時間なら、専門のマッサージ師さんも常駐してるみたいだし……会員制なだけあって、結構本格的なんだね」


「サウナも時間で閉まっちゃってたけど、もっと早い時間帯なら開いてるみたいだし、今度は昼間に来ようかなあ……」


「でも、零くん的には助かったんじゃない? 男女共用のサウナが開いてたら、気まずい思いをしてただろうしさ」


「あ~……確かになぁ……」


「……それとも残念だった? 喜屋武さんの水着姿を合法的に見れるチャンスだったのに~、って」


「いや、それはないよ!? 別に、そんな、ねえ!?」


 妙に慌てて自分の意見を否定する零に対して、ちょっとだけ猜疑の眼差しを向ける有栖。

 多少なりともスケベ心はあったんだなと、彼女からの問いかけるような視線に耐え切れず目を逸らした零は、遠くで「肝臓が~!」とか「目が、目が~っ!!」と騒ぎながら足つぼマッサージ台に乗る天の姿に気持ちを救われつつ、必死に話題を変えていく。


「そっ、そういえば、喜屋武さんと三瓶さんはどこに行ったんだろうね? この近くにいるのは間違いないんだろうけど……」


「そう言われてみれば……どこに行っちゃったのかな?」


 なんとか自然に誤魔化すことができたと、特に違和感なく話を切り替えられたことに安堵する零。

 そんな彼の隣できょろきょろと周囲を見回していた有栖は、いなくなった沙織とスイの姿を発見するとそれを彼に報告する。


「いた! あそこだよ!」


 そう言いながら有栖が指差す先には、マッサージチェアが並ぶエリアがあった。

 その中の二つに腰を下ろしている沙織とスイの姿を目にした零は、有栖と共に二人の下へと歩み寄っていく。


「お~い、喜屋武さん、三瓶さ~ん。そっちの調子はどうですか~?」


「あ~……零く~ん……効くね~、これ~……お姉さん、夢見心地になっちゃってるよ~……」


「極楽、極楽だ~……」


 腰から脚にかけてのマッサージを受けている沙織とスイは、風呂上がりのいい気分のところにマッサージを受けて天国に旅立っていた。

 普段は元気な沙織も、無邪気に騒いでいたスイも、あまりの心地良さにうっとり&ぐったりモードになっている。


「あはは、完全に昇天してるじゃないっすか。マッサージチェア、気持ちいいみたいですね」


「うん、そうだね~……! さて、そろそろ足腰は十分ほぐしてもらったし、上半身の方に切り替えようかな~……」


「んだの~……わーもそうすべっと……」


 下半身のマッサージは十分だと、夢見心地の状態で言いながらリモコンを操作する沙織とスイ。

 モードを『足腰』から『肩』へと変更した途端、彼女たちの上半身が激しく震え始めると共にその口から官能的な声が飛び出し始めた。


「んん~~っ♡ ああっ♡ あんっ♡」


「はうぅ……っ♡ んっ♡」


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(お試しの販促企画)

一番目に見えてわかりやすい、Amazonさんの在庫数

現在残り13冊なのですが、これが10、5、0になるか新しく入荷されたら、皆さんからお題を受け取って短編を書こうと思います!

やってみせろよ、マフティー!(URL貼れなくてごめんなさい!)(お題募集はTwitterと近況ノートの方でやる予定です!)

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