いのりんによる二度目のくるめいスペシャルセット開封配信
彼女は人気アイドルです(そしてVtuberオタクです)
【こっち見んな】
【じっと見つめられると吸い込まれそうになる】
【怖い、助けて】
……ここで一つ問題を出そう。実に簡単なクイズだ。
上記のようなコメントが流れている配信のチャンネル主は、誰だと思う?
ちなみにこのチャンネル主はカメラをじっと見つめたまま、まばたき一つせずに小さく手を振り続けている。
無表情でこちらを見つめ続ける彼女のシュールな姿にある者は噴き出し、またある者は恐怖を抱いていた。
【これリアルタイムでやってるの? 録画してあった映像をエンドレス再生してるんじゃなくて?】
「ずっとあなたの前にいますよ。録画した映像じゃありません」
【ロックオンされた! 怖い、マジで怖い!!】
【しゃべった~~~~~っ!!】
【なんでだろう、恐怖しか感じない】
一つのコメントに反応して彼女が口を開けば、リスナーたちの間から悲鳴が漏れた。
なんとも特異な雰囲気を誇る配信の中、時計の針がきっかり二十一時を指したその瞬間、彼女は数分続けていたシュールな行動を止めると深呼吸の後に挨拶を行う。
「お集まりの皆さん、こんばんは。【SunRise】の黄瀬祈里です。本日は大勢の方々がこの記念すべき瞬間に立ち会ってくださるとのことで、本当に嬉しいですよ、ええ」
【声に喜びがにじみ出てる。相当テンションが高いな、今日は】
【スケジュール通りに配信を進められて偉いなあ……(思考停止)】
【いのりんロボット説が濃厚になる証拠がまた出てしまった】
すちゃっ、と掛けている眼鏡のブリッジを押し、不気味な笑みを浮かべながら楽しそうに呟く祈里の言葉にリスナーたちが反応を見せる。
そんな彼らのコメントが流れる中、どこからか大きな袋を取り出した彼女はそれをカメラの前に置くと、興奮した口調で語り始めた。
「どうですか、この素晴らしいイラストは……! これが今日届いたばかりの【くるめいスペシャルセット(受注生産品版)(袋は私が詰め直したバージョン)】です。蛇道さんと芽衣ちゃんの仲睦まじさが詰まったこのイラスト、最高だぁ……!!」
【出たぞ、くるめい過激派&限界勢モード!!】
【()が多過ぎない? 受注生産品はわかるとして、どうして袋に詰め直した?】
【夏コミフェスで既にくるめいスペシャルセットは購入済みだったんじゃないですかねえ……?】
「公式がグッズを出したら買うでしょう? 持ってるとか持ってないとか関係ないんですよ。推し活とはそういうものです」
リスナーたちからの真っ当なツッコミに対して、「何を言っているんだお前は?」と言わんばかりの不思議そうな表情で答える祈里。
本日届いたばかりの品々を夏コミフェスの際に入手した限定の袋の中に詰め、【くるめいスペシャルセット(疑似再現バージョン)】を作り出した彼女は、意気揚々とリスナーたちに本日の配信内容を告げる。
「というわけで……今日はこちらのグッズを開封し、中身とくるめいの素晴らしさと尊さを皆さんと一緒に確認していきたいと思います。ああ、この配信ではスパチャ切ってるんで、もしもお金を投げたくなったら代わりにこれから紹介するグッズを買ってきてください。【CRE8】さんの公式サイトで売ってますよ」
【徹底してるなあ……!】
【推しへの愛が常に全力なんだよなぁ……】
【人はこの愛を狂気と呼ぶ】
……さて、ここで最初に出したクイズの答えを言っておこう。
芸能事務所【ワンダーエンターテイメント】所属グループ【SunRise】メンバー、黄瀬祈里……彼女の職業は、アイドル。
ステージの上で歌って踊る、キラキラの芸能人である。
とんでもない炎上を乗り越えた先で再スタートを切ったグループの中でも高い人気を誇る彼女は、初見の人間からはミステリアスなクールレディと思われがちであるが……その実態はこれだ。
「ふ~っ……! やはりくるめいのてぇてぇ波動を前にすると心臓の鼓動が乱れますね……! 通販で替えの心臓購入しておいてよかったです」
グループどころかアイドルの中でもトップクラスのVtuberオタク兼くるめい過激派。
蛇道枢ガチ勢(ガチ恋勢ではない)である彼女の笑いと狂気に満ちた配信は、こうしてスタートしたのである。
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