枢のゲームでサバイバル生活#1

Vtuber専用サーバーに参加しよう!

「よ~しよし、こんな感じでいいだろ? キャラメイク完了、ってな!」


【まあまあくるるんに似てると思われるでござる】

【装備次第じゃあ顔も体型もわかんなくなるし、そこまでこだわらなくていいでしょ】

【ついに枢もマッドワールドデビューかあ……! どんな絡みが見れるのか、今から楽しみ!】


 とある日の蛇道枢の配信。そこで彼は、大勢のリスナーたちに見守られながら、ゲームで使うキャラクターを作成していた。

 これまでやってきたゲームと比べるとリアルよりの容姿をしているそのキャラクターは体型も顔も枢に似ていなくもないくらいの出来にはなっており、その完成度に満足した彼は決定のボタンをクリックするとゲーム開始の最終準備に移る。


 少し前に送られてきたサーバーにログインするためのパスワードを打ち込み、それが承認されたことを確認して……あとは、ゲームがワールドを読み込むのを待つだけだ。

 画面下部に表示されるバーが少しずつ満たされていく様子を見つめながら、枢はこのゲームに関する情報を頭の中で思い浮かべていた。


 『マッドワールドサバイバル』……それが今、枢がプレイしようとしているゲームのタイトルだ。

 ジャンルとしてはオープンワールドのサバイバルゲームに分類されるもので、彼もよくプレイしている『ワレワレクラフト』をリアル寄りにして、更にゲーム内容を過酷にしたものといえばわかるだろうか?

 空腹度だけでなく水分補給の概念も存在し、更に人間の体力がかなり少なめに設定されている関係上、少しのミスで死亡してしまう可能性も高く、ゲーム初心者が一人でプレイするにはなかなかハードルが高かったりするゲームだ。


 そんなゲームに枢が挑戦しようとしているのにはもちろん理由がある。

 つい数日前、【ペガサスカップ】にて共演したVtuber事務所【VGA】のメンバーから送られてきたメールがそれだ。


 遡ること一週間ほど前、【VGA】は事務所主導でこの『マッドワールドサバイバル』のサーバーを運営することと、そこをVtuber専用のサーバーとすることを発表した。

 事務所や個人勢の垣根を超え、【VGA】が認めたVtuberならば誰でも参加できる自由形の大型コラボ企画とでもいうべきゲームのプレイ方針を打ち立てた彼らは、自社のタレントや大手の事務所に所属しているVtuberたちにサーバーへの招待状を送り、参加を要請したわけだ。

 当然、その中には今をきらめく新進気鋭のVtuber事務所である【CRE8】も入っており、【ペガサスカップ】で名前を売った蛇道枢の下にもサーバーへの招待状が届いた。


 界隈を牽引する事務所であり、激闘を通じて絆を育んだ【VGA】からのお誘いを枢が断るはずもなく、ゆうに数十人を超える参加者を抱えるゲーム世界に飛び込むことへの期待を疼かせている彼は、ウキウキでこの『マッドワールドサバイバル』の世界にログインしようとしている真っ最中、というわけだ。


「結構難しいゲームみたいだから最初はぐだぐだになっちまうかもだけど、そこは大目に見てくれ。まずはゲームに慣れることから手をつけていくわ」


【了解! アドバイスが必要だったら言ってね!】

【VGAの面々も初期は苦労してたし、そこはまあ仕方がないさ】

【未知の世界を舞台に、くるるんのサバイバル生活が今、始まる!!】


 ログインまでの間にリスナーたちへと注意を促しつつ、操作方法を確認する枢。

 こういう時に危険なのは指示厨と呼ばれる厄介リスナーであることをゲーム大会への参加を通じて理解していた彼は、その部分に関しての対処も忘れない。


 よく燃えるからこそそれに対する防御策も練っておく、それが蛇道枢という男のやり方なのだ。


「いや~、でも楽しみだよな~! 何十人もVtuberさんたちが参加してるんだろ? どんな人と会えるか、今から本当に楽しみだわ~!」


 【CRE8】だけでなく、【VGA】をはじめとした多くの事務所に所属しているタレントや、個人勢のVtuberなんかも参加しているワールドに飛び込めることを心の底から楽しみにしている枢は、そこで待ち受ける出会いに大いなる期待を抱いている。

 これを機に新しい人脈を作ったり、友人たちの新たな一面を覗き見ることができたらいいな~……なんて思いながら画面を見つめていた彼は、ロードの進行度合いを示すバーがMAXになったことを見て取ると、明るい声で宣言した。


「おっしゃ! ロード完了! というわけで、蛇道枢のわくわくサバイバル生活、スタートだぜ!!」


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