暗雲
よりにもよって恋人をすっ飛ばして夫婦に至る2人のイラストを描き上げたしゃぼんの判断に、純度100%の賞賛を送る界人。
推しの正装。推しの結婚式。推したちの幸せそうな姿。これら全てを公式が用意して提供してくれたという事実に、彼の心は感激で震えていた。
普通ならば、こんな男女関係を臭わせるようなグッズを販売すれば、運営、タレント両方が炎上してもおかしくはないだろう。
だがしかし、このポスターはくるめいスペシャルセットという名の商品……いわば、蛇道枢と羊坂芽衣というVtuberたちがイチャイチャしてくれていると嬉しい人々に向けて販売された商品なのだから、その辺のことは問題ないはずだ。
くるめいというカップリングを容認出来ない人間はこの商品を買わないだろうし、商品を買わなければこのポスターの絵柄を見ることもないのだからやっぱり問題はない。
つまりはこの3枚目の絵柄を隠すということできっちりとくるめいを望む人間、望まない人間の住み分けが出来ているということであり、その辺りの判断も踏まえて運営の英断としゃぼんの趣味に感謝した界人は、はっとすると自分のスマートフォンを手に取った。
「こうしちゃいられねえ! この尊さを呟きとして残さなきゃ……!!」
SNSアプリを開き、Pマン名義のアカウントを開いた界人が未だに興奮冷めやらぬ自分自身を落ち着かせるようにして呟く。
余談ではあるが、枢のところのヤベー奴でおなじみのPマンのアカウントは、フォロワーが1000人を超えている。
配信者でもなく、動画投稿者でもなく、名物ファンという名の一般人であるはずの界人はこれだけの人々から注目を集めており、名実ともに蛇道枢ファンの代表という立場にあった。
【コミフェス初日、参戦してきました! くるめいスペシャルセットも無事に手に入れて、今、その尊さを堪能しております!】
【はぁぁ……枢のマグカップをテーブルの反対側に置いて、枢と優雅なブレックファーストを過ごす気分に浸りたい……でもやっぱりくるめいマグカップ揃えてそれを壁として見守る人生の方がいい……】
【アクリルスタンド……! 俺の部屋に枢がいる! 芽衣ちゃんと並んでいる! 俺の部屋が枢と芽衣ちゃんの新婚生活の場に早変わり! おぎゃあああ!!】
……と、早速溢れる感情のままに怪文書一歩手前の文章を書き殴った界人がそれをSNSに投稿すれば、あっという間にいいねやリツイートなどの反応がフォロワーたちから返ってきた。
中には直接お祝いのリプライを送ってくれる人たちもおり、そういった人たちからの言葉を確認した界人は、頷いたり笑ったりとこちらもまた楽しんでいる。
【流石はPマンニキ! 枢と芽衣ちゃんへの愛に溢れるニキがスペシャルセットを買えないなんてことありえねえよなぁ!】
【見よ、これが蛇道枢のリスナーたちが誇る、特にヤベー奴である(ニキおめでとナス!)】
【俺も買ったよ。シークレットのポスター、あれやばかったよな……】
【Pマンニキ、ポスター見て何回尊死した? 俺は13回!!】
【いのりんも無茶してコミフェスでくるめいスペシャルセット買ってたみたい。さっき開封実況ツイートしてて、ニキ以上に発狂してた】
とまあ、そんな多種多様ながらもくるめい限界勢である界人が大好きな推したちの限定グッズを購入出来たことを祝福してくれる同志たちの言葉に、彼はしみじみと頷きながら微笑んだ。
そうした後、自分と同じようにくるめいスペシャルセットを購入した人たちが、どんな反応をしているのかが気になった彼は、SNSの検索機能を利用して、それを探ってみることにしたようだ。
枢のところのヤベー奴2号、女体化Pマンニキと呼ばれている黄瀬祈里の投稿をはじめとして、数々の購入者たちの喜びの声と尊死を迎える前の遺言となるツイートを確認した界人は、その内容に共感すると共にまたしても大きく頷いていたのだが……画面をスクロールする指の動きが、ある投稿を目にした時にぴたりと止まった。
嬉しそうに、楽しそうに、同志たちの反応を確認していた彼の表情から笑みが消え、見る見るうちに険しくなり……力が込められていく眼差しが、ある投稿に釘付けになる。
界人の視線の先には、くるめい好きと思わしきアカウント主の怒りと憎しみが込められた呟きとして、こんな文章が綴られていた。
【くるめいスペシャルセット、もう転売されてるよ……しかもかなりの数がいるし、マジで最悪なんだけど】
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