配信開始から十二時間後……

【来たぞ、来たぞ……!】

【ついにこの瞬間が……!!】

【コンビニ行ってチンするタイプのピザトースト買ってきたんだけど、うちにトースターなかったわ】


 配信開始からおよそ十二時間。現在時刻、朝七時三十分。

 眠っていたリスナーたちが起き出し、再び二人の配信を見守るようになった頃、この耐久配信は一つの見せ場を迎えようとしていた。


 彼らが見守る画面の向こうでは、今までプレイしていた『ワレワレクラフト』を一時中断した二人の生活音が聞こえてきている。


「芽衣ちゃん、ピザトースト温め終わった? 飲み物も準備できてる?」


「うん! ピザって聞くとコーラが飲みたくなるけど、朝ご飯だから健康的に百パーセントのオレンジジュースにしてる!」


「おっ、お揃いじゃ~ん! 食後にコーヒーとかあると眠気覚ましにもなるし、スッキリするよ! 次から試してみて!」


【ああ、これがくるめいのモーニングルーティンなのですね……!】

【見える、見えるぞ! 私には朝起きてからイチャイチャしながら朝ご飯の支度をする二人の姿が見える!】

【あ゛あ゛~~っ! い゛い゛っすね゛~っ!! ¥5000 柳生しゃぼん、より】

【#仕事しろしゃぼん】

【#今日は早起きだなしゃぼん】

【#どうせずっと起きてたんだろしゃぼん】


 食器がテーブルの上に置かれる音や、飲み物を注ぐ音。お互いの準備状況を確かめ合う二人の声。

 そういったものを聞くリスナーたちは、本来は別々の場所にいる二人が同じ部屋の中で協力して朝食の支度をしている場面を想像していく。


 綺麗に広げられたランチョンマット。その上に並べられるカラフルな食器と料理。向かい合って座る枢と芽衣――。

 全ての支度を終え、テレビをつけて朝の番組を流しながら、朝日が差し込むリビングの中で笑顔を浮かべた二人が同時に同じ言葉を口にする。


「「いっただっきまーす!!」」


【いただきます!(くるめいのてぇてぇを)】

【ごちそうさまでした!(くるめいの甘さを摂取済み)】

【もう冷凍したままでいいからピザトースト食うわ、歯が砕けてもいいや】

【トースト持ってなかった兄貴強く生きて……】


 たらばの朝活配信同時視聴配信という名の、くるめいの朝食風景垂れ流し配信に遭遇したリスナーたちが歓喜の声を上げる。

 待ち侘びたその瞬間の到来を喜ぶ彼らであったが、真のてぇてぇはここから訪れるということを、この後すぐに知ることとなった。


「あふっ! んっ、でも美味しい……! ケチャップとチーズの味が絶妙だし、トーストもサクサクで美味しい! 色んな具材も入ってるし、朝ご飯にぴったりだね!」


「手軽だし、バランスよく色んな具材を取れるからね。芽衣ちゃんが嫌いなピーマンも入ってるけど、気にならないでしょ?」


「む~っ! 別にもうピーマンも食べられるようになったもん。子ども扱いして……!」


「それも俺が矯正したからでしょ? 美味しくピーマンが食べられるようになってよかったね、芽衣ちゃん!」


「むむむ~っ……! 頭にくるけど、本当のことだから言い返せない……それにこのピザトーストも美味しいから、もうなんでもよくなっちゃう……」


【しっかり胃袋掴まれててワロタwww】

【もう芽衣ちゃんはくるるんじゃなきゃだめな体にされちゃったんだね……】

【くるめいの会話の中に何度も名前を出してもらったお陰で無事に尊死しました。来世ではこの家の壁になります¥10000 Pマンさん、から】

【Pマンニキぃぃぃぃ!!】

【ニキは本懐を遂げたのだ、涙するでない……!!】

【さらばPマンニキ、君のことは忘れない】


 何気ない会話を繰り返すくるめいであるが、その間にもリスナーたちは狂気乱舞している。

 既にたらばの朝活配信の様子などまるで頭に入ってこなくなっている彼らは、この配信に対する感謝のスパチャを連投し始めた。


【Pマンニキ、俺もすぐに逝くぞ……! 二人でくるめい談義しような! ¥5000 ニヤニヤニーヤさん、から】

【おっと! 俺を忘れないでもらおうか? ¥5000 ふわもこ丸さん、から】

【¥10000 くるめいの家の壁になりたいさん、から】

【仕事に行く前に感謝のスパチャを ¥10000 いのりちゃんねる(SunRise公式)さん、から】

【うわ~、すっげぇ……! 自分の息子と嫁、スパチャ稼ぎすぎ……!?】


 赤やオレンジのスパチャが飛び交う中でも、そういったコメント欄の様子を見ていない枢と芽衣は普段通りの会話をしながらたらばの朝活配信を視聴している。

 その間に交わされる何気ない会話こそがリスナーたち……というより、くるめい過激派の心臓を止めるのだと、それを知らない二人は平々凡々な話を続けていった。


「本当に美味しいね、枢くんの料理。いつも食べてるけど、今は耐久配信で疲れてるせいか、もっと美味しく感じられるよ」


「俺もだよ。多分だけど、いつもは一人で食べてるから味気ない感じがするんだけど、今日は芽衣ちゃんとこうして話しながら食事してるから、それもあると思う」


「あはっ、そうだね! うん、私も……枢くんと一緒に食べてるからこそ、普段よりずっと美味しく感じられるんだと思う」


【ヌ゛ッッ……!?(絶命)(仕事キャンセル)(皆さん、すいません)】

【もうこのコメントだけで誰が打ったのかわかるようになっちゃったなあ……】

【お~い、このアイドル誰かどうにかしておいて~!】

【くるめい式蘇生術で現世に蘇りました。これは感謝のスパチャです¥5000 Pマンさん、から】

【Pマンニキ! 生き返ったのか!?】

【英雄の凱旋だ! 騒げ騒げ!!】


 ほのぼのとした食事風景を見せる枢と芽衣に対して、コメント欄は常に大騒ぎ状態だ。

 そんな相反する様相を呈しながら、つかの間の休憩を楽しみながら、配信者とリスナーは共にこのブレックファーストを堪能するのであった。


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