くるめい24
始まり
――とある夜、静寂に包まれた闇の中で零と有栖が話をしていた。
二人とも、どこか緊張した面持ちを浮かべており、声にもわずかに固さが感じられる。
お互いがお互いのことを思い遣りながら、若干のたどたどしさを見せながら……二人は、こんな会話を繰り広げていた。
「……本当にいいの? 今ならまだ、止められるよ。俺のことは気にしないでいいから、有栖さんが後悔しない選択をして」
「ありがとう……でも、大丈夫。これは私がしたいって決めたことだから……零くんの方こそ、いいの? 私とその、こんなことをして……」
「平気だよ。俺も、やるんだったら有栖さんとがいいと思ってた。むしろ、選んでくれてありがとうって言いたい気分だよ」
「そっか……! そう言ってもらえて、すごく嬉しい……」
甘く、優しく、どこか怪しいその会話。
静かにお互いの決心を確かめ合った二人は、深呼吸を行った後で新たなるステージへと一歩足を踏み出す。
もう止められない、止まるわけにはいかない……そう思いながら、相手とこれから行うことに思いを馳せた零と有栖は、同時にごくりと息を飲み、心臓の鼓動を跳ね上げた。
「えっと、じゃあ……始めよっか?」
「う、うん……! その、こういうこと初めてだから、迷惑かけちゃったりしたら本当にごめんね……」
「俺もだよ。お互い、フォローし合いながら頑張っていこう」
「うんっ!!」
ドクン、ドクンと心臓が大きな音を響かせながら脈打つ。
緊張に息は荒くなり、本当にこれに踏み切っていいのかという不安が心の中に広がるも、それをお互いへの想いで打ち消し合った二人が遂に最後の一歩を踏み出す。
「あ~、あ~、あ~……聞こえてますか~?」
「マイクの音量チェックに協力してくださ~い!」
【きちゃ~~~っ!】
【よしよしよし、よしよしよし】
【こんばんめ~! 音量は問題ないと思うよ!】
『配信開始』のボタンをクリックして同時に配信を始めた二人は、慣れた様子で諸々の確認を行っていく。
音量や画面、コメント欄の表示などの確認を終えた零と有栖は、それぞれ蛇道枢と羊坂芽衣へと意識を切り替えると共に、集まってくれたリスナーたちへといつも通りに挨拶をした。
「どうも、こんばんは。【CRE8】所属二期生、蛇道枢と――」
「こんばんめ~、です。同じく【CRE8】二期生、羊坂芽衣です」
【こんばんめ~!】
【久々のくるめいが五臓六腑に染みわたる……!】
【くるめい提供代をお受け取りください¥3000 Pマンさん、から】
熱狂のコメント欄に若干気圧されつつ、予想していた通りじゃないかと自分たちに言い聞かせつつ、改めて深呼吸を行う二人。
どうにか心臓の鼓動を落ち着かせようとしている彼らの様子を見ればわかると思うが、今回の配信は普段のそれとは全く違うものだ。
これはコラボ配信ではない。長時間の、耐久コラボ配信なのである。
名付けて『くるめい24』……有栖の要望に零が応えたことで実現した、二十四時間二人でやり続ける長時間配信だ。
基本的には『ワレワレクラフト』で作業をしつつ、雑談を間に交えつつ、そうやって時間を過ごしていく予定の配信は、耐久といっても別に目的があるわけではない。
逆にいえば、二十四時間配信を続けなければ終わることができないということであり、良くも悪くも丸一日はこうして配信を続けなければならないということだ。
人生初の長時間配信、二十四時間丸々使った耐久配信に臨む二人は、やはりというべきか緊張している。
コメント欄の熱気も予想以上で、この状況で二人共に寝落ちしてしまったらマズいことになるなと思いながらも、もう退けない状況になっている彼らは全力で二十四時間配信へと飛び込んでいくのであった。
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