愛鈴処刑

「……は? はぁぁぁぁぁっ!?」


 一瞬、枢の言葉の意味を理解できなかった愛鈴であったが、直後に絶叫と表現する他ない大音量の雄叫びを上げた。

 先ほどまでの余裕さを消し去って愕然とする彼女をよそに、枢とリスナーたちは大盛り上がりを見せている。


「緑縞さんとこのリスナーさんたちもおいでぇ! 愛鈴の初配信観るぞぉ!」


【クッソワロタwwwこれ以上ない拷問じゃねえかwww】

【久々に初期ラブリー見て、今の三下ラブリーと比較しますかね!】

【VGA推しなので初期ラブリー初見です! ちょっと楽しみかも……】


「待てっ! 待ちなさいよ! それは流石に反則でしょ!?」


「つらいか? 俺はラク太郎を失って、もっとつらい目に遭わされたんだよ……! 最後まで聞けよ?」


「ちょっ、おまっ!? マジでストップ! ストッ~プ!!」


「あ、こっち準備万端で~す。それじゃあ、始めましょうか!」


「ノオォォォォォォォォォッ!?」


 再び、愛鈴の絶叫がこだまする中、数万のリスナーたちと共に枢が彼女の初配信を視聴し始めた。

 知っている者も知らない者もわくわくとした楽しい気分でアーカイブを再生する中、羞恥拷問の対象となった本人の悲鳴が響き渡る。


『みんな~♡ こんラブリー♡ 本日から、【CRE8】さんに仲間入りする、愛鈴です♡ 気軽にラブリーって呼んでね♡ きゃはっ☆』


「随分とかわいい声で話してるな~? 今とは大違いじゃねえか、うん?」


「きゃはっ☆ って……ぷ、くくっ……!」


「がはっ!? こ、殺せ、殺せぇぇぇっ!!」


『ラブ的にはね~、キラキラのアイドル目指して突っ走っていくつもりだから、みんなにも応援してほしいなって思ってるんだ♡』


「へぇ~、一人称はラブだったんですか~? いつから私になったんでしょうね~?」


「止めろ、マジで止めろ……! 全く定着しなくて打ち切った黒歴史を掘り返すなぁぁ!!」


『お酒? あんまり飲まないよ~♡ 苦いの苦手だし、飲めても甘いカルーアミルクとかかな☆』


「もう黙れ、過去の私っ!! あぁぁぁぁぁっ! 殺せっ! 殺してくれぇぇっ!!」


【草】

【うわキツ】

【共感性羞恥がヤバい】

【死ぬなよ、ラブリー】

【なんて惨い拷問を……! これが伝説のヒットマン、クルル・ウィックか……】


『ラブ、Vtuber界で一番のアイドル目指して頑張りま~すっ♡ 応援よろしくねっ♡ きゃはっ☆』


「うるぐあぁあぁあああっ!? ぜはっ! ぐふぅっ! がっ、はぁ……!!」


 現在とはキャラが百八十度違う、ぶりっ子アイドル的なデビュー当時の自分自身の姿を見せつけられた愛鈴が苦悶に呻く。

 そんな彼女の顔を覗き込み、復讐者として獰猛な笑みを浮かべた枢は、低い声で彼女に言う。


「どんな気分だ、愛鈴? まだまだ配信は続くんだから、ゆっくり楽しんでくれよな!!」


「お、お願いだからもう殺してください……! 情報でも武器でもアイテムでもなんでも差し上げますんで、楽にしてください……!」


「あ? やだよ。もう少し続けるから、一緒に楽しもうぜ」


「本当にお願いします、蛇道さん。あの、一周年記念とかでやる企画が潰れたりするんで、マジのガチで勘弁してください。なんでもしますから」


【超三下モード突入してて草】

【蛇道さん呼びって、完全敗北してるじゃねえかwww】

【悪は滅びる、自然の摂理やな】


「ちっ、しょうがねえな……! ただ、俺はこの恨みを永久に忘れないってことだけは覚えておけよ!!」


「うっす! すいません! あの、ラク太郎さんのことは本当に申し訳ありませんでした! 以後、こういうことのないように気を付けます!! はい!」


 完全に力関係ができあがったところで、枢はがんじがらめに縛られた愛鈴から情報収集を開始した。

 専ら、彼女が所属するこのVtuber専用サーバー最大勢力にして、悪役を担う夕張ルピアグループ(盗賊集団ともいう)の情報を聞き出していった枢だが、その途中で不意に愛鈴が不敵な笑みを浮かべ、口を開く。


「クックックックック……! 私を追い詰めていい気になっているようだが、それも長くは続かないぞ? お前はじきに、我々の恐ろしさを知ることとなるだろう……!」


「あ? まだ懲りてないのか? 再生ボタンもう一回押すぞ?」


「本当に勘弁してください。これは悪役としてのノリみたいなもんで、本当に思ってるわけじゃあないんですって! ねっ!?」


【草】

【三下を全うしようとするその姿勢、俺は好きだよ】

【私じゃなくってラブって言え】


 三下悪役の退場シーンを演じつつ、素も見せる愛鈴がこほんこほんと咳払いをする。

 そうして、再び演技を始めた彼女は、枢へと驚くような(?)事実を告げた。


「お前の大切な芽衣ちゃんはなあ、うちのボスが預かってるんだよ!! 奴は囚われの身さ! あ~っはっはっはっは!!」

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