After a Short Time
(――どうしてこうなったんだろうなぁ……?)
それから1時間とちょっと経った頃、零は死んだ目でそんなことを考えていた。
飲み会が始まった頃の希望に満ちた表情は何処へやら、完全に意気消沈した彼は正座の体勢のまま黙々と料理と飲み物を口に運んでいる。
そこそこにボリュームのある唐揚げを食べ、スープを吸って若干伸びてしまっているラーメンを食べ、こんもりと盛られたサラダを食べ……そうやって一心不乱に料理を平らげる零の目の前に、彼を悩ませる2人組の片割れがこれでもかと言わんばかりに料理を盛った皿をどんっと音を鳴らしながら置いた。
「ほらぁ、もっと食べなよ~! 男の子なんだからがっつりいくさ~! ほら、ほら、ほらぁ!」
「喜屋武さん、俺もうそろそろ限界なんすけど……流石にこれ以上は食べられないですって……」
「んぁ~? そうなの~? でもほら、大丈夫だよ。うん、きっといけるいける! お姉さんがあ~んしてあげるから、頑張って食べてみよう! ほら、あ~ん……!」
「だから、そういう問題じゃなくって……ああ、もう口に押し付けないで! 熱っ!? せめてスープ以外のものにしてください!」
沙織に熱々のスープを掬ったスプーンを押し付けられた零が悲鳴を上げる。
完全に出来上がっている彼女はそんな彼の反応ににゃはにゃはと楽しそうに笑っているだけで、罪悪感は感じていないようだ。
面倒見がいいというか、構ってばっかりというか、遊ばれているというか……酒の力もあってべたべたと普段以上に激しいスキンシップをしてくる沙織には、流石の零も色々な面で困ってしまっている。
こういう時、彼女のストッパーとなってくれるはずの李衣菜がこの場にはいるはずなのだが……?
「おい、阿久津~! 私の注いでやった酒が飲めねえってのかぁ~? え~、おい~、こらぁ~!」
「小泉さん、もう7回目ですけど、俺は未成年だからお酒は飲めません。飲んだらマズいんですって」
「あ~? ……じゃあ、私が注いだ烏龍茶が飲めないってのか? あぁ~?」
「飲んでます。これも7回目です。ああ、言った傍からジョッキに注がないで……!!」
……残念ながら、こちらは沙織に輪をかけてべろんべろんに酔っ払ってしまっていた。
彼女が頼りになる大人の女性としての姿を見せてくれたのは最初の10分程度のもので、そこから先は完全に酔い潰れてダル絡みをしてくる居酒屋のおっさんと化してしまっている。
そんな酔っ払いアイドルたちに両側から挟まれて食べ物と飲み物を延々と提供され続けながら絡まれ続けている零は、満腹感と疲労感でいっぱいいっぱいになっていた。
「零く~ん、あ~ん! あ~ん! この炒飯美味しいよ~!」
「喜屋武さん? そのレンゲ、自分が使ったやつですよね? 間接キスはマズいので、別のやつを使ってください」
「おら~! お代わりの茶だぞ~! 胃と膀胱が破裂するまで飲め~っ!」
「小泉さんはそろそろ落ち着いてください。もうホント、俺も限界なんです……」
容量いっぱいになるまで色んなものが詰め込まれている胃が、心労でキリキリと痛む。
酔っ払った美女2人に左右から挟まれるだなんてなんて羨ましいシチュエーションだと人は言うだろうが、実際に自分の立場でこの状況に陥った時、同じことを言える奴がどれだけいるのだろうかと零は思った。
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