Do You Like Her?


「沙織さん、お水飲みましょう。流石にご機嫌になり過ぎてます」


「り、李衣菜さんも、ちょっと落ち着いて……! 阿久津さん、困ってますから……!」


 そんな彼を不憫に思ったのか、ようやっと祈里と恵梨香が助け舟を出してくれた。

 酔っ払っている2人へと水を差し出し、彼女らの注意を自分たちへと引き付けた祈里と恵梨香のお陰で、ようやく零はアイドル2人の呪縛から解放されたようだ。


「いいじゃない、ご機嫌でも~! 久々にみんなと会えて私は嬉しいんだよ~!」


「恵梨香~! あんたも飲みなさいよ~! ほらイッキ! イッキ!」


「一気飲みするのはお2人の方です。はい、お水」


「一気飲みはしないでいいんで、取り合えず酔い覚ましをしてください……」


 絡む相手を零からそれぞれ自分に声を掛けてきた相手へと変更した沙織と李衣菜が、後輩たちから差し出された水入りのジョッキを受け取る。

 まるでビールを掻っ込むようにそれを飲み干した彼女たちは、ニヘラニヘラと笑いながらやはりご機嫌なやり取りを行っていった。


「あはは~! お水いっぱい飲んだから、おトイレ行きたくなっちゃったよ~! ちょっとおしっこ行ってくる~!」


「私も行くわよ! もうあんた1人でどっかに行かせはしないんだから! 連れションでもなんでも一緒に行くわ!!」


「さ、沙織さん、李衣菜さん……もう少し慎みというものを見せてください。阿久津さんもいることですし……」


「不安なんで、私たちもついて行きますね。放っておいたらなんだか洒落にならない事態を引き起こしそうで怖いですから……」


 あひゃあひゃと上機嫌で笑う沙織と、そんな彼女を酔いながらも真剣な眼差しで見つめる李衣菜を引き連れ、トイレへと向かう祈里と恵梨香。

 アイドルが放ったお下品な言葉に呆れながらも顔を赤らめていた零が大きな溜息を吐いた瞬間、残っていたアイドル2人が彼へと声を掛けてきた。


「どうだった? うちが誇る二大巨頭の挟み撃ちは? 滅多に出来ない貴重な経験だったでしょ~?」


「笑ってないで助けてくださいよ。結構大変だったんですからね?」


「あはは、災難だったわね。でも、奈々の言う通り、あの2人からあそこまで親しく接してもらえるだなんて凄く貴重な経験なんだから、もう少し楽しめばよかったのに」


 【SunRise】メンバーの中で、比較的関わりが薄い奈々と羽衣のコンビから話しかけられた零は、多少の気後れを感じながらも平然を装って言葉を返す。

 何となくではあるが、根が陽キャ感があるこの2人とはちょっとだけ関わりにくいなという気持ちを零が抱く中、彼女らは沙織がしているように年下の男の子をからかうような質問を投げかけてきた。


「ねえ、零くんって恋人とかいないの? やっぱ祈里の言う通り、あのちっちゃな女の子と付き合ってるとか!?」


「ぶふっ!? そ、そんなんじゃないっすよ。恋人なんて、今も昔もいたことありませんし……」


「へぇ、意外。顔も悪くないし行動力もあるのに……学生時代告白とかされなかったの?」


「ああ、まあ、う~ん、どうだったかなぁ……?」


「されなかったってことはないでしょう! 私も学生時代はモテモテでさ~! もう10回は告白されたね!」


「勝った。私は15回は男子から告られた」


「は? 私は20回は告白されたし!」


「私は教師からも告白された!」


「私なんて先輩から後輩まで幅広い層から告られまくったし!」


「あ、あの~……そういう勝負は、また別のところでしてくれませんかね~……?」


 自分を放置して言い争い……というか、意地の張り合いを始めた奈々たちを苦笑と共に零が制する。

 喧嘩するほど仲が良いという言葉の意味をそのまま表したような関係性の2人はちっと舌打ちを鳴らした後、元々の話題へと会話の内容を戻していった。


「で、ああ、そうだったわね。阿久津くんは意外なことに現在はフリー、と……」


「それって別に事務所から言われてるわけじゃないんでしょ? Vtuberとして活動する以上、恋人を作るのは禁止! みたいな感じでさ!」


「まあ、別にそういうわけじゃないっすけど……」


「そう、それじゃあさ――!」


 所属事務所から恋愛禁止令を出されていないことと、零が現在フリーであることを確認した奈々がニヤリと笑う。

 そんな彼女と、静かにグラスを傾けて緑茶を飲み干した羽衣が同時に発したのは、同じようでいて全く意味の異なる言葉であった。


「「その相手に、沙織さんなんてどう(を選ぶんじゃないわよ)?」」

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